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第12幕 決闘、真空将軍マガラーナ!そして……!!

「どういうことだミラン! お前が用意したマエバーミンとナガシゲールの反逆行為をどう説明してくれる!!」

この物語は少し時系列を遡る必要がある。北部軍団に加入が決まった風林火山の四戦士。彼らが個々の実力を披露した一方で、スネーク・サイドは本部へ帰還せざるを得なかった。


彼は北部軍団豪将の肩書を持ち、またシンの師匠でもある。それゆえにシンたちを手玉に取る事は容易い事であったが、勝利の目算は痛み分けと芳しくない結果に終わってしまった。理由は立場上配下のマエバーミンとナガシゲールが突然、超電磁炎弩級ハンマーの直撃を加えてしまったからだ。

せいぜいシンとミツキを追い払うことが手いっぱいで彼は撤退を余儀なくされた。この怒りの矛先は反旗した先述の二人と彼らの上司にあたり、同じ北部軍団豪将ミラン・ヨドバシ。

スネークはミランへ追求する。当のミランは留守を巻かされていたのだろう。サクラやトリィが観戦する東部軍団四戦士のプレゼンテーションをモニターで観戦していた所だ。


「マエバーミンとナガシゲールはシンを倒そうとしただけだ。ところが、あいつが2人の攻撃を回避したからそのハンマーがお前に直撃してしまっただけの話だ。避けることのできなかったお前の力量も疑いたいがな!」

「何をっ!? お前ならそれはできると言うのか!!」

「あぁ。俺にはこの屑どもの攻撃を見切る事など容易いことだからな」

ミランの整った顔立ちは、姦計によって歪んだ表情で相手を威嚇するように、または相手の怒りに無駄な油を注ぐような効果をもたらす。

「俺はサクラ様から絶大な支持を得ているからな、お前がサクラ様に訴えても俺を信頼しているサクラ様には聞いてもくれないぜ」

「貴様……」

「ははははは……まぁお前の実力がなかったから起こった不慮の事故だと思い、今は修理にいそしむべきだな!」

笑いながらミランは部屋を後にする。彼の卑劣な計画と発言を前に戦闘で猛威をふるったスネークはうんともすんとも抵抗できない模様。

意外にスネークは武と知に長けても、大勢の同僚という”同志”の仮面を被った敵の中では、自分が出し抜く為の駆け引きの腕に甘い所があるようである。


駆け引きの優劣ではない。戦闘力でスネークが上であろうとも、ミランは大陸時代からの部下としてサクラから信頼を得ている。その信頼は実力の差を埋めるには十分なものがあり、例え同じ北部軍団豪将の身でもミランの自勢力派閥は圧倒的なのである。

「まぁ何、お前にシンキ・ヨーストを下す使命を俺には邪魔するつもりはないからな。最もお前が討ち取る事が出来ればの話だがな。はははははは……」

「己……部下遣いとコネだけのくせに……」

スネークがやり切れない気持ちを抑えようと堪える姿を後ろ目にして、ミランは歩く。彼の眼中はスネークを亡き者にすることのみ。彼は北部軍団豪将。いわば彼同様ナンバー2の地位の男だ。スネークという同じ豪将に位置するサムライドがいる限り、彼は敵にすぎないのだ。

「ざまぁみろスネーク……お前の失敗は俺が埋め合わせてやるよ。お前との差を広げる ことができるからな」

「それはどうかな?」

通路でぼそぼそ呟きながら笑いを抑えようとするミラン。彼を待ち構えていたかのように一人の男が、腕を組みながら壁に凭れる。男は紫のマフラーに紺のトレンチコートを水色のズボンと、人間そのものの服装に、飄々とした一言とは相反する太い眉と尖った揉みあげが特徴的であり、ミランとは対照的に無骨な男ともいえる。

「マガラーナか。北部軍団魂将の身分であるお前が何の用だ」

「俺は魂将で、あんたは豪将だから偉そうな口を叩ける訳か。だがな、俺とお前のランクの差はあの女に愛されているかいないかにすぎねぇ」

「何? お前は俺がコネでここまで上り詰めたというのか」

「俺は否定しないぜ。少なくとも俺にお前程のコネがあれば俺は豪将、お前を追い越してナンバー2、いや何れはサクラの上に立ち俺はトップに君臨するだろうな!!」

「……」

マガラーナの豪語にミランが舌を打つ。敢えて彼に聞こえるように舌を打って、苛立つ彼を見ては、逆にマガラーナは悠々とした表情を見せてほくそ笑んで見せた。


「お前は自分の立場が脅かされることが怖いから仲間(せいてき)を罠に陥れて蹴落とすつもりだがな、俺は仲間(せいてき)に対し実力を見せることで俺の立場を守る事が出来る! お前のやり方が組織の基盤を弱体化させるきっかけになるが、俺のやり方は最終的にこの組織の基盤を強固にするものになる自信がある!」

堂々とマガラーナが立ち上がり、首のマフラーを直して格納庫へつながる入口へ行く。ミランへ軽く手を振りながら。

「じゃあなマガラーナ、俺は少々面倒な性格だからこの辺でおさらばといくぜ!」

「……」

ミランの後ろから、マエバーミンとナガシゲールがひょっこりと顔を出す。特にマエバーミンは腰の通信機を彼に渡した。

「マエバーミン、しっかり聞いたか」

「ですぜ~しっかり聞きましたですぜ」

「ならいい! エチゼン国の武の化身と呼ばれた真空将軍マガラーナ・オタカルドじゃ俺の野望を脅かすお前を倒して見せる…!!」

「ミラン、ずいぶん怒っているようだね」

マガラーナと入れ違いで現れた者は金髪が風になびき、純白のアンダースーツに黄金の装甲で纏わせたサムライドだ。この穏やかな美少年の名前は同じ北部軍団のサイ・ナ・ガマーサである。

「サイ! 貴様お前を笑いに来たのか!!」

「いや、君の哀れな様子を見に来ただけだよ」

「何だと……」


ミランがピタリと感情を止めて脳を思考させた。良く考えてみれば、サイは自分にとって使い物になるのでは。マガラーナを陥れるには武力行使が必要と見たが、自分の手を汚したくない上に、直接対決では彼の方に軍配が上がるとミランは認めざるを得なかった。  

もしサイがマガラーナと互角以上の実力を秘めていたらどうなる。ミランはサイを利用する作戦へ乗った。


「いや、ここで怒っても結果は変わらねぇ。サイ、俺はお前を好んでいないがここは和平と行こうじゃないか」

「和平? 君にしては珍しい事を」

「あぁ。お前を敵に回したら俺の首がどうなるか分からないからな。黄金の拳闘士である何れの事もあるだろうからお前とは仲良くやった方がいいと思ってね」

「仲良く? 何か裏があるけど」

ミランが友好代わりに右手をのばして握手しようとするが、サイからして、ミランはよからぬ噂が付きまとう味方にしておく事も危険な男である。その右手をじろじろと見つめては握手をかわそうとしない。


「まぁお前にとってもおいしい話だ。あのマガラーナを倒せばナンバー2のポジションは俺とお前のものじゃないか」

「ナンバー2が二人の物と言うなんて可笑しいね……僕を殺すつもりかもしれないけど」

「……!!」

サイの発言に、ミランの顔に一瞬歪みが走らせた。彼の言動について本人は気付いているかいないかは分からないが、余裕の表情からすればおそらく前者ではないだろうか。


「まぁいい。僕はまだ復活してから腕を奮う機会がなかったからね。僕が君みたいなサムライドに殺されることはないと思うからまぁ今は君の野望に乗ってあげるよ」

「そ、そうか。あのマガラーナがサクラ様を快く思っていないことを俺は承知の上証拠もマエバーミンに記憶させている。だからお前はマガラーナを仕留めれば……いや、意打ちを負わせて撤退させればいいだけだ」

「殺せばいいのに……」

「俺もそうしたいところだが、俺に名案がある。あいつに恩を売っておけば俺がナンバー2に君臨する際に色々役に立ってくれるだろうからな」

「そう。じゃあ僕は傷がつけられない程度に不意打ちを遂行させてもらうよ」

ミランに何処か思い当たる節があり、あえてマガラーナを仕留めさせる事をやめた。これに関してサイも真意が読めず、自分の首を横にひねったが、どちらにしても自分がミランに破壊される事はないと考えたからか、敢えて指令に関して文句ひとつ言わなかった。


「それからミラン、僕は君に倒されるほど弱くはないからね。僕を倒そうと動けば……君も死ぬよ」

「……」

野心を抱くミランへ釘をさしてから、サイもまた格納庫へ帰った。しかし、ミランはマガラーナの様に彼を手玉として扱うような余裕はない。むしろ拳を突然通路へ向けてめり込ませる。

今、ミランの平常心を失ったかのような行動に、マエバーミンとナガシゲールは驚きが隠せない模様だ。


「君も死ぬか……俺が真っ向から挑めば勝てるかどうかはわからねぇだがなサイ! お前は所詮シンキ・ヨーストに倒される運命だ……お前の弱みを俺はもう握っているからな!!」

「「……」」


今、ミランは笑った。保身を最優先に選ぶには彼は有能な同僚ですら、いやだからこそ手駒にするつもりだ。しかし、シンにサイが倒される運命なら、ナンバー2の地位に就いた彼もまたシンの前に倒されるのではないだろうか。その末路、末路に対する対応を知る者はミラン本人のみだ。

「マエバーミン、ナガシゲール! 俺はあいつと共同戦線の交渉に京へ向かう。留守は任せた!!」

「は、はいです!!」

「もし俺の計画に落ち目を作った場合はお前を血祭りにあげるからな!」

「ひっ、ひっ……」

近の鏡へ鏡次元能力を活かしてミランは己の姿を消した。部下へしっかり恐怖という二文字の釘をさして彼が向かった先は一つだ。


(東部軍団四戦士筆頭VAVA……あいつが望むのは他の三戦士より筆頭する地位。同じ魂将を倒せばあいつが豪将へ昇格するから丁度いい!!)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ミラン・ヨドバシ……あの男はサクラの寵愛を受けてここまで昇進したもの。大陸時代でもこの世界でも俺は先頭のプロとして恥ずかしくない能力を備え、真空将軍との肩書まで手にした。実力でたたきあげてきた俺がコネで出世街道を上り詰めたあいつに負けるはずがない」

格納庫で一人のサムライドは闘志を燃やす。マガラーナ・オタカルド。三光同盟北部軍団魂将の肩書を持つ彼は、階級以上の実力を秘めている男であると自覚しており、また他人も彼の戦いを見れば彼の戦い自意識過剰ではないと見なす者も多いはずだ。

もし、この男が大陸時代にもっと名を馳せていた時には既にミラン、サクラなどの上司を顎で使うことが許され、また独立して一国を護る事も可能だったはずだ。

だが、この男が同盟において注目されることなく、北部軍団で重用されることはない理由はサクラが彼を軽視しているからだ。ミランがマガラーナの分まで重用されて当のミランは今の地位にいるのだ。


「あの女がエチゼン国のトップで俺がその下に生まれてしまったことが俺の不運だ! 北部軍団をあの女が指揮をとる限り、あのシンとかに滅ぼされる事もあり、仮にそいつを倒しても他の3軍団に水をあけられる未来が俺には見えるならば……!!」

 

マガラーナは決めた。サクラやミランの下で働く事に未来はない。自分がシンを倒してしまえばそれでいい。自分には彼を倒す自信もあるからだ。

「俺は真空将軍の肩書きを持つ偉大なサムライド、戦闘のプロだ! あいつらと違い俺は少々手荒いサムライドだ……!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その頃、シンたちは辛うじて岐阜の非常拠点を占領し、瞬く間に北上を開始した。

理由は岐阜県全域がスネークの支配下に置かれていたが、スネークが致命傷を負い、仲間の造反の件で石川の本部へ帰還していた情報を掴んだからだ。トップの撤退により指揮系統が麻痺した今こそ、岐阜の残り半分。飛騨の非常拠点を制圧する好機だと彼らは考えたのだ。


「イッテツさんとカワジーリさんに美濃と尾張の防衛を任せ、私たちは飛騨を叩くのみ」

「飛騨の防衛はミッキー・アネノコージとあと奇妙な弓の形のメカか」

「ミッキーはおそらくスネークに強要されて同盟側に着いている実力・精神面でも凡庸なサムライド、あの弓を縦にしたようなマシンはどうせあのメカラクリでしょう」

「そうだ。本来なら俺は後ろに残ってミツキとシンが相手を倒すつもりだが……」

ミツキとクーガが敵陣の確認と、相手に対する行動を考えるが、一人のサムライドがじたばたしており隣のサムライドに身柄を押さえられている。そんな彼へ目を向けられた。


「俺に留守番ってどういうことだよ! あんな雑魚、俺にかかればたいしたことないのに

よ!!」

「シンさん、あなたはスネークの攻撃を受けて右腕のシューティングアームが大破して、その右肩関節にも若干支障がきています」

「雑魚を倒せばいいわけじゃないシン。お前は早く傷を癒して強敵に備えるべき。余計なことはするな」

「余計なことはするなって……」

「外野は黙ってください」

「また外野って言う! あの時も、この間も外野言いやがってこの俺に救いはないのかよ!!」

「救いはありません」

ミツキにぴしゃりと否定されて、救いを求めるシンの顔がしょぼんと下がる。

「おい、ツネオキとかいったなお前」

「あ、ああ」

「とりあえずあのバカを見張りながら後は頼む。あのバカは下手したら戦場に出たがるからな」

「了解した……」

「おーい! 馬鹿とは何だ馬鹿とは!!」

「……なぁこれでいいのか俺?」

「大丈夫だポコ~クーガ様とミツキさんで今回の戦いは軽くけりがつくポコよ!」

「そういう訳だ。ツネオキ、お前が代理司令官。しっかり頼むぞ」

「心得た。シンについて自信はないが、このタダツグぐらいは俺が何とかする」

「では行きましょう」

ツネオキにシンとタダツグを任せて、ミツキとクーガがタダツグのレバーを引いて、スプリングのように機体上部へ2人の身体が移動する。その機体上部には愛機であるライドマシーン・カムクワートとナオマサが用意されている。


「ゲートオープン!亥の刻の方角で発進だポコ!!」

2人が搭乗した事を確認されると、マサノブの手で機体上部からは梯子のようなカタパルトレールが10時の方角へセットされた。

「さて、あいつの代理に前線に立つとはな。選手交代と来たか」

「クーガさん、貴方の様な方が無茶や馬鹿な事をするとは思いませんがくれぐれも被害は最小限に」

「分かっている。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすというこの世界の諺がある通り」

「そうです。つまり私達は無能を倒すにも全力を尽くすことです」

「敵からすれば酷い言われようだが……間違いではない!」


ナオマサとカムクワートが先端のレールを突っ走るように放たれた。飛びだされたナオマサの車輪が地面へ接触し、カムクワートが地面のすれすれを飛行しながら浮上する。

「敵はソルディアとアロアード。ここは私が空中でクーガさんが地上を任せることになるでしょう」

「わかった。俺とソルディアが地上を食い止めている隙に総大将を片づける役目を頼む」

「了解です」

ミツキが空中へ飛び、クーガが地上へ走る。ナオマサを先頭に青色のソルディアが一列に構える。この時彼はソルディア同士がぶつかった時、指揮を行いながら隙間を掻い潜ってメカラクリを倒すつもりだろう。

だが、先端のソルデイアが真紅のカラーリングを施されている事に何か異変を感じた。それだけではない。ソルディアの胸に突き刺さったかのような、そして両腕に握られた三本の槍が前方へ飛び出るように突きだされた。


「危ない!」

間一髪ナオマサを右へ移動させて、ソルディアの槍攻撃を免れたが、自軍前列5機のソルディアの胸が一斉に敵側の槍によって貫かれてしまったのである。自軍のソルディアに装備されていない武器を持つ敵軍には質で劣り、また数でも決して優勢とは言い切れない。

クーガはこの状況を打破する為に何かを考えなければならない。その何かを考えた時にソルディアはすぐさま槍をこちらへ放った。


「ヤスマサ!!」

ソルディアの槍が、クーガが走る道の一歩前へ突き立つ。クーガが狙った絶好のタイミングだ。槍の先端を引き抜こうと、行動する目の前のソルディアへヤスマサが駆ける。

「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

クーガを乗せたナオマサが今、槍と本体を繋ぐチェーンを綱渡りの要領で駆け走る。ナオマサ前部のマシンキャノンの銃弾がソルディアを仕留める。何発も貫かれた顔面へナオマサが走り、踏み台代わりに飛んだとき、ナオマサからのライフルが踏み台を完全に沈黙された。


「踏み台の役目が終わればお前は用無し……こちらも無駄に兵力を失う訳にはいかないからいくぜ!!」

上空に飛んでナオマサを乗り捨てたクーガがバーに捕まった。ハングライダー状のライドマシーンヤスマサのバーだ。ヤスマサはただ空を飛ぶ為のライドマシーンではない。空中でコードが彼の背中に繋がれた時に真価を発揮するのである。

「さて、ミツキにどのように言われるか分からないが一掃させてもらおう!」

クーガの切り札が、また誇りが火を噴いた。両肩の巨大筒のエネルギー炉の役目もヤスマサは果たしている。サムライドとしての誇りが、量産型兵器に蹂躙される事を許すわけがない。自軍の兵力を減らす相手へ光の制裁が下されたのである。


「これまた物騒な戦いをしますね」

そんな彼を詰るか皮肉るかは分からないが、ミツキの淡々とした言動が放たれる。そのミツキは相変わらずキキョウとフレグランス・スプレーガンを使い分けて量産型兵器を無駄に破壊しないで、戦力を少しずつ無力化させている。この戦い方に関しては空中の兵力増強を彼女は考慮しているのであろう。

「兎を狩るには常に全力だからな」

「獅子が兎を狩るのは餌を確保するためです。兵力が満たされない私達は兵力を削いで自分の勢力に組み込む必要があるのです」

「俺の武器は力加減が難しいからな……どうやらあの馬鹿と比べると俺は不器用の様だな」

「どうやらそのようですね。私は空中の敵を仕留めますからくれぐれも邪魔しないでください。空中の戦力を取られたら困りますからね」

「あぁ、分かった分かった」

ミツキの細かい指示と皮肉に軽くいらっときたか、クーガは巨大筒をやや無造作気味に敵側のソルディアへ向けて一斉砲撃を開始する。上空からの攻撃に地上の兵器は弱い。このまま真上から攻撃をすれば楽勝ではないだろうか。


「なっ!」

だが、やはり簡単に勝負はつかないものである。突然上空から一本の、しかも自分よりはるかにサイズで大きい弓矢に、ヤスマサの羽が刺さってしまったのである。

「どうやら相手に損害を与えるだけでこっちの利益にならない戦いをするから罰があたったようですね」

「あのな……」

ヤスマサが火花と煙を地上へ緩やかに落下を開始する。このまま落下を続けたなら、自分は量産型兵器やメカラクリの餌食になってしまう。

「マサノブ! ヤスマサとナオマサの回収を、そしてタダカツを射出しろ!!」

「了解だポコー!!」

すかさずタダカツを構成する四角のコンテナが射出された。コンテナが近付くとクーガはダイブすると、コンテナから巨大な両手と両足が展開され、タダカツのボディ、胸部から頭部に当たる位置にクーガが立って体勢を整える。


「ライド・クロス! フルグ・ランダー!!」

キーワードと共にクーガがタダカツのフロントカバーよって密封された。

「ヤスマサを破壊した代償は大きい! これで片づけさせてもらう!!」

地上にどっしりと着地した重量感のある巨体クーガが、今やソルディアより若干サイズに分がある。

自軍のソルディアを破壊した槍を軽く掴んでは、真っ二つにへし折り、また胸に突き刺さった槍を掴んで、ソルディアをまるでハンマーのように別のソルディアへ叩きつけ、また別のソルディアの顔面を眼潰しで粉砕して機能を停止させる。巨体ならではの荒業を見せる。この鬼神の活躍にソルディアが撤退を開始する。

そんなソルディアが命令か、あるいは本能かは分からないが、クーガから撤退を開始していく。だが当の本人はこの行為を全く問題にしていない。怒りを抱えつつ元々冷静な性格もあり、彼の思考ではこれらの相手を粉砕する方法をきっちりと考えていたのだ。


「許さん!」

クーガの腰から引き抜かれた光の鋸と鞭。ビームチャクラムフレイルが思いっきり振り回された。糸で結ばれた鋸を片手にぐるぐる回しながら彼は一直線に進む。彼の進路によって次々と切断されていくソルディアらの先の標的は、弓を縦に構えた装甲車らしき機体だ。

その機体は後方の筒に収納された矢を抜いては弓に構えてクーガへ放つ。だが、今のクーガの形態は全身重装甲の巨躯。巨躯を唸らせながら前進をやめないクーガは放たれる矢をこの手で、また身体で受け止めても全然ビクともしない。


「ろろろ! 私のメカラクリ”オミカッター”のビッグボウが効かないだに……ってでけぇ!?」

「シックス、お前の相手はシンだけではない。俺がいる事も忘れるな……」

メカラクリ”オミカッター”を操縦する者はシックスのみ。メカラクリの全長ではクーガに勝ってはいるが、等身大の相手とその3倍ほどのサイズの相手とではやはり格が違う。シックスは操縦席の中で思わず驚いてしまいずっこけてしまったようである。

「どうだ。ここまで近ければ弓で攻撃する事は出来まい。覚悟しろよ」

「ろろろ……どういうことなんだにってなわけにいかないんだに!!」

「何っ……」

その時、オミカッターが弓自体をを縦に振り落としてクーガを砕こうとした。弓の最下端にはカッターが備えられており、まるで鶴橋のように脳天から彼を切り裂くつもりだ。

「巨体はお前だけではない! てやぁぁっ! たぁぁぁぁっ!!」

「ろろろー!!」

だがしかし、巨体の身体と力を手にした今のクーガも負けてはいない。襲い掛かる弓を白羽取りするように掴んで、全力でオミカッターを真横へ倒してしまったのだ。

止めに、ビームチャクラムフレイムの刃が機体の装甲をまるでリンゴの皮をナイフで剥ぐように切り裂いていていく。

「ろろろろろ……こんな所で出番が終わりだなんて、いやいやここで死ぬわけにはいかないんだに!!」

機体の表面がほぼ内部機械丸出しにされたと同時に、シックスはロッカクルーザーに捕まる形でオミカッターから撤退した。相変わらずは逃げ足が速い男であるとクーガは思いながら、本拠を守る量産型兵器の面々は仕留められた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


一方ミツキは、空中の敵を片づけながら本拠地に着地した。彼女の放つシードディフェクション、そして放たれたスモークパウダーが、残された地上のソルディアを軽く機能を停止させる役目を果たし、総大将の元へ突入した。


「わわわ……ミツキ・アケチ!」

「ミッキー・アネノコージ。貴方に恨みはありませんが、敵対するなら貴方にこれを向けなくてはいけません」

「く、くそ! 俺だって北部軍団強戦士に選ばれた身だ!森林の強力巨人ミッキー・アネノコージ行きます!!」

ミッキーは己の誇りともいえる恵まれた体型を活かして、ミツキへの強烈な一撃を腕で、足で放とうとする。だがミツキからすれば目の前の彼の動きはスローモーションとしか言いようがなく、腕、足の動きの隙をみる事は簡単だ。

「グオゴゴォォォォォォォォッ! お、俺の一撃は痛いんだぞ!」

「当たれば痛いの間違いではないでしょうか?」

「な、何だと……!!」


ミツキに動きを読まれた事を必死に強がるミッキーだが、彼女は既に彼の動きを止めることに成功した。背中からのシードオフェクションのビットとコードが、彼の身体を見事に縛ったのだ。

この状況からコードをちぎってしまうことは、彼ならば容易い事だ。しかし、彼女のビットはコードから切断された状態でも単体でビームを放つ事を可能とする兵器。へたに引きちぎれば、その場で彼の首元をすぐさまビームが貫くだろう。


「どうです。貴方のオーバーな動きを読み取ることくらい簡単な話なのです。私は降伏を薦めますが、もし貴方が反発したら私は覚悟を決めますよ」

「ええ! お前が俺を殺すつもりなのか!?」

「ひょっとしたらそのような事もあり得ますね。貴方はスネークに力を貸したサムライドですから、下手したら私らしくありませんが、感情で貴方を殺めてしまう可能性があります」

「こ、殺すな! 殺さないでくれぇ!! 俺にもよくわからないから! スネーク・サイドにそそのかされてむりやり出撃したんだから!!」

「いけないですね。先程までの味方を悪く言う事は」

「あわわわわ……動けない!」


今、ミツキのキキョウから刃が展開され、ミッキーの額を貫通させようとキキョウごと額へ押しつける。そんな彼女の気迫とシードオフェクションの拘束もあり彼の身動きをとる事は封じられても言って良かったほどだ。


「とは、いいましたが、私も知性の一欠けらもないサムライドではありません。貴方に戦意がありませんでしたら、降伏して貴方を生かす事も考えています」

「えっ……それ、本当!?」

「はい。では降伏しますか?」

「するする! この非常拠点を渡して俺がお前達の仲間になればそれでいいだけの話だろ!?」

「……まぁ、そうなりますね」

ミツキは半分この男は本当にサムライドなのかと思う程の小物と信念のなさに心の内で呆れながらも腰の通信機へと手をかける。


『飛騨の非常拠点の総大将と思えるサムライドが降伏。ツネオキさん、彼の拘束を頼みたいので現地へ向かってください。私は非常拠点の説得に入りますから』

『了解』

これにより飛騨の非常拠点はシン達の勢力下に入った。時は2010年6月24日。彼らの東海地方を本拠地としての足場固めは順調だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ミツキ、終わったのか」

「はい。非常拠点の人達の信頼を得るには私達がとことん下手に回らないと行けないようですね」

一戦を済ませ、今は飛騨の非常拠点においてシン達は無力化されたソルディアおよびアロアードの修理を開始して軍備の補強を務めていた。ミツキは非常拠点で生活する民衆に、自分達への信頼を掴み取る為の交渉を行ったが、彼女の表情は今にもため息の一つ二つをつくような顔をしている。


「民衆最優先。もし民衆の誰かが危機にさらされた場合は私達サムライドが救出、または人質として、下手すればその場で自決」

「何だ、その民衆の奴隷の様な条件は……俺の祖国と大違いだ」

「あの方はスネーク・サイドの支配下で悪政に晒されたのではないでしょうか……ただでさえこの世界の人々は私達を異端の存在と見なして迫害する姿勢ですから」

「俺の世界を守る事はなかなか理解されないってことか……サムライドが国の守護神として民衆からたたえられた時代が懐かしいものだな」

クーガの口から付きつけられる厳しい現実に、ミツキの首が縦に振る。最も一人は苛立ちを隠せないようで2人へ顔を向けた。

「はぁー……それよりミツキ、お前も少し手伝ってくれよ!」


シンがミツキへ顔を向けた。ソルディアは頭部の回路を修復すれば、自軍の手駒として利用が可能だが。マサノブの命令に渋々腕を動かすシンだが、本人好みの仕事ではない。

「あぁ面倒だなぁ。俺、こういう細かくて成果が出るのが遅いの嫌いなんだよ」

「文句言うな。俺達には生産装置を兼ねるライドマシーンがない。俺達の手で修理して戦力を少しでも増やさないといけないとなる」

「ちぇっ……」

自分や武器を整備する事は好きだが、他の兵器の整備は面倒の一言に尽きる。それは己が強化される事ではないからか。

「シンさん、クーガさん。確かに私達の勢力は着実に拡大されていますが、急速な勢力拡大は勢力の守りの網を薄くしてしまうものです。早く生産装置を兼ねるライドマシーンを持つ者が仲間に加わればいいのですが……」

「そうだな。今は文句を言っていないで戦力を補強することに集中しないとな。かに、あのスネークがいつこの地を奪回するかわからないからな」

「……はぁ」

急速な勢力の拡大より、漸進的な軍備拡張が今求められる事である。最もシンは面倒くさい様子で手を渋々進めながら顔は上の空をむいている。

「どうしたシン、お前どれほど整備が面倒だ」

「いやーそれも3割はあるけどな、俺はスネークの勢力圏を勢力下に置いたけど、スネークには勝てなかったことが気がかりで、今、あいつがいたら俺は勝てたのかなってな」

「あいつとは?」

“あいつ”の単語をシンは強調する。それほど“あいつ“が凄い存在か、”あいつ“が大切な存在か。その”あいつ“に当てはまるサムライドがクーガには思い浮かばないが、ミツキには思い当たる節がある表情をしている。

「シンさん、あのサムライドの事ですか?」

「そうだ。サイ・ナ・ガマーサ……あいつがいればあの時俺はスネークを倒せたかもしれないんだ」


「サイ・ナ・ガマーサ……ミツキお前は知っているのか」

「安心してください。この場合はクーガさんが外野の立場ですから、大陸時代貴方とシンさんは一応敵対していましたから、知らなくても仕方がないですよ

サイ・ナ・ガマーサ。クーガからすれば名前程度しか聞き覚えがないサムライドだが、かれが“あいつ”に適切なサムライドだ。


「クーガさんのサードリバーからサイさんの場所は離れていますからね。彼キンキース地方において紛争状態に陥っていたオミ国のサムライドです」

「そうだ。あのダメシックスと同じオミ国出身のサムライドでな」

「あの無能と同じなのか? そうなるとそいつはお前の敵ではないのか、そいつは」

「いえクーガさん。そのオミ国が北と南に分裂してしまったことでシックスが南で、サイさんが北側になります。そのキタオミ(仮名)国とエンド国の王家が婚姻を結んだために同盟を組むことになったのでシンさんとサイさんは同盟関係で仲間なのです」


ミツキが軽く説明する。エンド国とキタオミ国の関係は、エンド側ではミノ国の制圧を目的として、キタオミ側はミナミオミを下して再統一することを互いの利害が一致したことによる同盟である。

「なるほど。分かったは分かった。だが地形的にキタオミ国の援軍としてお前は参加できないのではないか。ほら、お前のエンド国とミナミオミ国はミノ国を通過しないと通れないはずだろ」

「はいご名答。どうせそうなる訳で俺の国とサイの国はスネークのミノ国を挟むから俺が自然と援軍役に選ばれる訳。ほら、敵地を超えろと言われたら俺の出番じゃないの。俺が望まなくともこんな危険な仕事が転がり込むようで」

「お前やはり捨て駒扱いだな」

「捨て駒じゃねーぜ。俺は案の定死んでいないからね1!」

クーガから指摘された国側からの扱いを、自分の存在意義と戦う理由を持ってシンは肯定を選ぶ。国から与えられた試練を自分の押しつけられた命令ではなく、自分が敢えて茨の道を歩んで、強くなると思いたかったからかもしれない。


「おおっと、話がずれたが俺は同盟の縁でサイを始めとするキタオミ国のサムライドと共闘してたが、俺のエンド国以上の強い奴ばかり。特にサイは正直俺が負けるかもしれないと共闘しながら思ったほどだ」

「それだけ奴は強いのか」

「あぁ。あいつは強い。両手のサイクローと5つの必殺グローブ“ファイブ・フィニッシュ・フィスト”から放たれる技とスピードは俺以上。もし接近戦に持ち込まれた時には出来れば敵に回したくないな」

「俺はこの大砲、ミツキが剣で、お前が銃ならばそいつは拳か」

「あぁそういう訳よ。だけど、俺はあいつからあいつの強さを知っただけじゃなく、あいつの誇りを知った。俺にない強さをあいつは持っている、もしここにあいつがいればもっと優位になる!」

シンの表情はサイを素直に飾ろうとする屈託のない笑みだ。サイに対してかれが抱く信頼と期待の表れかとクーガは見た。


「シンさんの言う事は一理あります。あのサイさんは大陸時代から圧倒的に国力でミナミオミ国に劣る祖国の民衆やサムライドを束ねて立ち向かう聡明な方」

ミツキからの後押しにシンは“どや?“と自分でもないのにまるで自分がかっこいいだろと言わんばかりに腕を組んで鼻が高い表情を見せるが、決して彼女は彼ではなくサイを褒めたと付け加えておく。

「なるほど。しかしシン、お前は一応俺が認めている強さを持ち、そのお前がサイを認めるとするなら少なくともミナミオミ国は倒せるはずではないのか?」

「そういかないものです。ミナミオミ国はミノ国と同盟を組んで対抗していますからミノ国の後ろ盾は強力なのです」

ミツキは2人の疑問に対するご意見番のような存在でもある。ここからまたクーガ自身が知らない出来事を明かそうとする。

「お前は詳しいな。確かミツキはその頃ミノ国から出奔していたはずだが」

「はい。ミノ国の事件の後、私はミノ国からエチゼン国へ逃げ延びていますから」

「それで、エチゼン国のサムライドとして仕えていたお前は、国の事情を知っていると」

「もっともです。そのエチゼン国が卑劣にもどちらの戦力が均衡になるように兵力を提供しています」

ミツキが思わぬ発言をして二人を驚かせる。特にシンはいアマまでやっと勝てなかった理由がわかったかのか、口をポカーンと楕円に開いている。


「どちらにも戦力を提供する……あの手か」

「あの手? おい、クーガそのエチゼンがどっちの味方で利があるのかよ?」

「「……」」

シンはまたも分かっていない発言で、速攻で2人を引かせるスキルを発動させた。そのスキルは何度受けても耐性は定着しないようで、2人が1ターン放心状態へ陥らせる能力を持つ。

「お前戦っている身で知らないのかよ……」

「まぁね……」

「……そこはまぁねの一言で済む問題ではないぞ」

「さて、外野交代と共にその外野に該当する人物へ分かりやすい説明をする必要がありますね」

外野の担当はシンへと切り替わった。最もシンは首を横にかしげて腕を組んだ状態なので、この件は気付かないだろうが。


「エチゼン国はサムライドがあれでも国力に関しては一流。その国力で相手に軍力を増強させてその均衡する勢力同士がぶつかれば共倒れ。その時こそエチゼン国の支配が下る」

「そうだな。仮にどちらかがパイプを切ればもう一方へエチゼン国のバックアップが増強するからな。死の商人とはいえ断る訳にはいかないものだからな」

「そういうことなのか……」

「そうだ。いわば豊富な国力や兵力を駆使した戦法の一つでな……」

「にゃろう。俺の様な切り込み隊長がもっといればそんなもんに縛られることなかったのに!!」

「「……」」

クーガとミツキの説明をシンが理解したかと聞かれたらノーであろう。彼女は今の彼を思うが分からないが、クーガは顔を右手で覆っており少しでも彼に兵法への興味や知識があると思った自分を悔んでいるようである。

「いや、お前の勢力が全てお前ならそれとは別の形で国が滅ぶ……頭痛い」

「ちょちょ! どういう意味で!!」

クーガがシンへそのような言葉を吹っ掛ける意味は、もちろん兵站や国政を顧みずに戦争に己の身を投げいれていくいわばバトルマニアのことであろう。戦が強いだけでは国を維持することはできない事なのだ。

「まぁシンさん、戦いは力や頭ではなく政治的駆け引きも……」

と、言いきろうとした時にミツキは異変を察した。アロアードが彼らを傍観するようにゆっくり飛行して自分を見つめているのである。


『殺すなミツキ・アケチ!!』

「何っ!?」

アロアードから男の声が聞こえた。アロアードが吊るすモニターにはマガラーナの顔が映るが、シンとクーガはこの男を知らない。少し口を開けている彼らだが、ミツキは彼と面識があったのか。全く表情が動じていない模様である。

「貴方はマガラーナ・オタカルド」

「そうだ! この俺真空将軍の肩書きを持つ戦闘のプロ! マガラーナ・オタカルドを覚えていたようだな!!」

「ええ……どうしようもないサムライドが多かったエチゼン国で私が名前を覚えた数少ないサムライドです」

「どうしようもないとは他人とはいえお前に酷い言われようだな……」

「事実ですから」

「……」

ミツキからの情け無用の言葉にクーガが反応したが、彼が話を振っても彼女は速攻で会話を跳ね返す。

表情一つ二つ変わる事はないが、内面の彼女はそれなりに感情的な部分を持ち合わせている。内面の変化を外面の微々たる変化から読み取ることは彼にとっては難しいようである。

「けどよ、ミツキが名前を覚えて実力を認めているなら、それなりに強いことだよな?そいつ」

「よく気付きましたねシンさ……」

『当たり前だ! 俺は他のサムライドと違うからな!!』

「……本人の実力もプライドの高さも自他ともに認めるレベルの持ち主です」

「納得」

ミツキの説明よりも先に出しゃばるマガラーナは、本人自らが己の実力に誇りを持っている所を見せて己の性格をアピールしてみせた。

論より証拠。先に己の性格を誇示されたら言葉だけの説明も納得がいきやすい。最もシンの場合は頭脳が比較的シンプルに構成されているのだから余り変わりはないが。

「それよりまずお前達に警告しよう! このアロアードは一切武装を装備していない! だがお前がそれを攻撃すれば俺は飛騨の非常拠点を侵攻する!!』

「何だと!?」

「俺達の所を攻める訳か……だが、先に侵略を宣言するとは回りくどいやり方だな」

「何か望みでもあるのでしょうね……」

クーガの言うとおりだ。本人がその気になれば侵略行為を不意打ちで始める事も可能だ。いいやそれがセオリーだろう。それで敢えて侵略を予告させておいて、アロアード1機を非常拠点の安全弁代わりにする点は何処にあるのだろうか。その解答をマガラーナの口元から飛び出ようとしていることが、ミツキの目にははっきり見えた。

『俺の望みはな、そうだ、俺の望みは紅蓮の風雲児シンキ・ヨースト! お前を倒すことだ!!』

「俺を……だと!?」

『そうだ! 俺はお前の事を良く知らないが、お前はマローンを倒しスネークを痛み分けに持ち込んだ!! お前のような強い奴と俺は戦う事が楽しみで、倒す自信もある!!』

「シンを倒す自信がある……目の前にシンがいてそこまで言うとは、余程の自信があるのか!?」

『そうだ! だからこの戦いサムライドらしく一騎打ちで勝負と行こう!! 無駄に犠牲を出すことなく、他からの干渉もない!!己の実力で勝敗がきまる一騎打ちこそまさに戦いの中の戦いだ!!』


この要求から推測される事はマガラーナで武人であることだ。かつての武人は一騎打ちで己の腕を証明する事に生きがいを感じた。そのマガラーナも遥か古代の武人の血を継ぐのか、我々の古代より彼らは太古の存在であるが、彼らにとっての太古に偶然にも我々が想像するかのような武人がいたのではないか。

「一騎打ちか……面白いじゃないの!」

「おい、あれを見ろ!!」


クーガが気付いた方向には、何処からかソルディアが、アロアードが一斉に飛騨の非常拠点を囲むように揃った。これは待ち伏せだ。誰もが現在の状況を読めたのである。

「どうやら待ち伏せされていたようですね」

「おいあんた、さっき一騎打ちを望んでたのによ! 飛騨の非常拠点に包囲網をかけるなんて卑怯じゃねぇか!!」

『男の花形を為すに手段一つ二つ卑怯と言われようとも結構! そうでもしなければお前が俺の一騎打ちに乗るとは思わないからだ!!』


卑怯と言われようともマガラーナは動じることはない。最も戦争に卑怯も綺麗もないかもしれないし、彼の方法を卑劣か否か決める存在はシンたちだけではない。

だが彼が望む戦いである一騎討ちはいわば正攻法。戦争との名の庭園で咲こうとしている誇り高き花を卑劣と呼ぶ者はまずいないだろう。他人から観た卑怯を肥料、養分として決闘の花を彼は咲かせるつもりである。


「もし他の二人が余計な手を出し、またシン、お前が卑劣な手を使った際はこの2000の兵で飛騨の非常拠点へ一斉攻撃をかける!!』

「卑怯な手を……」

『これは戦争だからな! 戦争の中で俺が正攻法でお前に挑もうともお前達はどうせ戦争のやり方で俺を倒すつもりだろう!!』

「……」

『例え俺は卑劣と言われようとも最後に公正な手段でシンを討ち取ることが出来ればそれでいい! 俺はシン、お前が来る事を待つ!! そして俺が卑劣な手を使わない事を見せてやる!!』

最後に、マガラーナの自信に満ちている発言と共にアロアードにつるされたモニターの映像が彼の居場所周辺360度が映される。敵に自分の場所や無防備な姿をさらけ出す事はリスクを伴うが、その一方で彼の自信と正攻法を挑む決意を敵へ表明することが出来るのだ。


「あの野郎。余程自信がある訳だな!」

 そんな彼の堂々とした振舞いを気に入ったのか、自分を倒すような発言に内心腹が立ったか、または一騎打ちの申し出に応えることこそサムライドと見たのか。シンは颯爽と立ち上がる事を選ぶだが、

「やめろシン!」

「どういうつもりだクーガ!!」

だが、クーガの頑健な左腕がシンの右肩を掴んでは止める。まるで立ち上がり戦いへ赴く事を許さないようである。

「お前の右肩関節は完治して間もない。もしこの戦いで損傷したら前線を好むお前が後ろに回り、この俺が不慣れな前線へ出ることになる。その時は俺達の戦力の低下だ」

「けどよ相手は俺を指名してきたんだ! その俺が招待状を蹴って弱腰逃げ腰の汚名を背負ってたまるか!!」

「一時の恥は忍べ! なら、俺達が非常拠点を囲む為に潜伏している量産型兵器を捜索して駆除すればいいだけ……」

「そうはいかないようです」


ミツキの視線がシンの先に向けられた。彼、いや彼らを囲む者はおそらくこの非常拠点の住民であろうが、彼らに送られる視線は自分達を守ってほしいとの嘆願でもなければ、彼へ全てを賭けた希望でも、そして彼の健闘、勝利への祈願でもない。とっとと行け。そのような排他の感情である。

「おいあんた、そこのシンとかが行けば俺達の非常拠点は守られるんだろ!?」

「そうだそうだ! 駐留条件には我々民衆の防衛を最優先するとお前が言ったじゃないか!!」

「俺達がここで死んだらお前達も浮かばれないだろ!!」

「貴様……!!」

3人へ向けられた非力な民衆の瞳と言葉は冷たい。クーガは拳を振るおうとしたが鎮めざるを得なかった。

もし自分があの敵と同じ勢力の元にいたのならば、その拳で民衆を虐げて恐怖による統治で民衆を黙らせることが出来ただろう。だが自分はその組織からの誘いを蹴ってこの世界を守る使命を背負った。拳は理不尽な現実を握りながら真下へ下げられていくのみだ。


この時に右腕の力が自然と弱まったのか、シンが素早く立ちあがって駆ける事を選ぶ。

「シン、お前!」

「例えあいつがどんな奴でも俺を指名してきたならやっぱ俺は行くぜ! 例え罠であろうとも俺はそのマガラーナを倒す自信があるから、紅蓮の風雲児、行かせてもらうぜ!!」

『よく言った……なら決闘の場は福井の金ヶ崎! この勝負に勝てば俺はお前達にこの非常拠点と目の前の戦力をくれてやる!!』

「何っ!!」

『それが一騎打ちの流儀だ! 挑んだ側はそれ相応の代償を背負いながら挑むこと!!それが卑劣な手を取ったお前達への代償でもある!!』

「マガラーナ……あんた!!」

『さぁ急げシン、どちらにしろ今のままでは俺はお前が守るこの非常拠点へ侵攻する準備はできているのだからな!』

「……」

シンは無言のまま駆けた。それが今の彼の答え。たとえ守るべき人々が自分を軽視し、依存しようともこの世界の為に闘う事を選んだのだから。この戦いに関してはクーガとミツキは見守る事しかできない。


「行ってしまった。シンの奴どうするつもりだ……」

「スケールの大きい馬鹿ですから。ですがマガラーナは私がエチゼン国時代の時に私が見込んだ実力者。生まれる場所を間違えなければ既に大陸に名をとどろかせたサムライドかもしれまぜん」

「それだけ強い奴なのか……」

「今、余計な事をすれば私達は飛騨の非常拠点を失います。大人しく見守るのみです」


アロアードにかけられた巨大なモニターではマガラーナ自身の姿が映し出された。それはマガラーナが正攻法で挑むという事を他人に証明するものかもしれない。その彼に応える気持ちからか、住民を戦禍から守るためからかは分からないがシンは今、急ぐ事を選んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「シンキ・ヨースト、お前は俺が倒す。俺一人の手でお前を討ち取ってこそ俺は北部軍団のトップに立つ。それが偉大な俺に課された使命だ」


一方金ヶ崎の戦場ではマガラーナが腕を組みながら待ち構えていた。シンが到着する時は分からないが、彼は一歩たりとも足を動かさない。

「思えばこの花道は遠く苦しみが尽きなかった。それでも栄光を求めているのだ。今戦うのは俺だ……この命が尽きるまで、俺の血潮があふれる限り俺マガラーナ、マガラーナ・オタカルドは必ず来る栄光の日の為に闘うのだ……」

マガラーナの目的は組織のトップに立つ事だ。トップに立つには己の実力を誰の手も借りることなく証明する事である。今戦うのは俺自身のみ。マガラーナは己の命を元手に栄光を手にしようとする事こそ彼の生きる道である。

 

そして今、一機のマシンが目の前に到着した。ライドマシーンに騎乗するように乗る者はシン以外の誰でもない。

「来たな! シンキ・ヨースト!!」

「あぁ! 俺が行かなきゃ皆が無駄な犠牲になるからな!!」

「もっともな判断だ。俺のもくろみもこれで無駄にはならない。俺はお前をこの手で倒して北部軍団のトップに立つ! お前を倒すアドバンテージは俺にとって最高の強みになるからな!!」

「なるほどね。俺を倒して軍団のトップか……」

シンはゆっくり笑って見せた。余裕か覚悟かは分からない。その彼の表情のニュアンスを知る事はその時吹いた一筋の風しか許されないのであろう。


「そうだ! お前を倒して俺は北部軍団の改革を断行する!!己の力が全てである実力主義の軍団へ改革して四軍団の頂点に俺は立つ!!」

「お前はかつての俺みたいな事言うじゃねぇか。だが、だからといってお前の為に俺が捨石になるのは御免だ!!」

吹きすさぶ風の中でマガラーナは、シンは叫ぶ。己の譲れない思いを背負い風は戦いの前兆を見届けるかのように吹いては静かに収まると両者はライドマシーンを足場として高く飛びあがった。

「それに俺にはこの世界でもっと強くなる夢がある! お前にやられて夢を失う訳にはいかない!!」

「夢の為か……なら俺も夢の為にお前を倒して見せよう! ライド・クロス!!」

マガラーナのライドマシーンが飛び、空高く上着を投げ捨てる。そしてライドマシーンは両手足、胴体、腰へとパーツが分割された。


「ライド・クロスできやがったか……ならバタフライザー!!」

相手がライド・クロスをしたのを見てシンもライド・クロスを選ぶ。バタフライザーが六つのパーツへセパレートされて彼の身体へドッキングされる。


「ライド・クロス! グレート・ブレイバー!!」

「ライド・クロス! トライ・ウェスターマー!!」


両者の身体がライド・クロスされて、空中のマガラーナが地上のシンへ向かったことが戦いの合図となった。

「ブレイバーブレード!」

「ダイヤモンド・カッター!」

マガラーナの左足から白銀の剣が引き抜かれ、刃を振りかざす所をシンの背中から取られた薙刀の柄で刃を食い止める。だがマガラーナ自身の力により振りかざされた剣は自然と彼を一歩後退させるだけの力が備えられているのだ。

「こいつ……すごいパワーだ!!」

「パワーだけではない! ネーブルショット!!」

「うあっ!!」

マガラーナのへそに当たる部分から五角形状のミサイルが放たれた。至近距離で放たれた実弾を、さらに相手の攻撃を受け止めながらの時点での攻撃は難しいと見たからだ。だからシンは受ける事を選んだ。

しかし、その爆発が至近距離でマガラーナへもダメージを与える者に関わらずマガラーナは接近を強めバランスを崩した彼へ強く踏み込んだ。

「折れた!?」

「チャンスだ!!」

ダイヤモンド・カッターが真っ二つに切られた時、それはマガラーナにとっては反撃のチャンス。そのまま一歩前に踏み出て相手へ切りかかる事を選ぶ。このままではウェスターマーを装備しているとはいえ手痛い一撃を受けてしまう。よろけた際のシンが考えた事はそれであり、また体勢を立て直すチャンスでもあった。

「倒れたらまた立ち上がるだけだ!!」

この言葉が何か意味を持つかは分からないが、両手のストラングルチェーンを何故か後方の地面へ突き刺す事をシンは選んだ。そしてチェーンを地面へ向けて収納させるとともに身体の重点を両手と地面に突き刺さった先端のクローへ集中して身体を後ろへ反らした。


「出ろ! ジョーズ・ドリル!!」

ジョーズ・ドリル。それはウェスターマー形態時に使用が可能となる武装の一つだ。重点を両手と地面へ集中させるとともにシンは右足を蹴りあげるように相手へ突きだし、そのつま先からはカバーが展開されるとともにドリルが現れた。

「このような場所からドリルとは!」

真下から突き上げられたドリルの回転にマガラーナの握られたブレイバーブレードが弾き飛ばされた。

この瞬間を一瞬の隙と見てシンの身体は後方へ一回転して着地するとともに両肘の棒状のパーツを引き抜いた。両手の棒の先端には丸鋸状のパーツが備えられているフェンサーギロチンだ。フェンサーギロチンの刃を相手へ向けると表裏に取り付けられた刃と間の円盤が回転し、円盤の合間からは実弾が何発も撃ちこまれた。

「甘いわ! アトミックプレッシャー!!」

だが、マガラーナが弾き飛ばされた剣を飛んでキャッチした時に反撃が行われた。空いた右手を回転させながら、腕のサークルパーツを展開させて、飛んできたミサイルの雨を受け止めた。

それだけではない。曲げられた右ひざからは棘状の装飾がワイヤーにつたられて飛ばされた。ワイヤーが実弾をかいくぐり見事にシンの首をぐるぐるに縛って絞めつけて、先端の棘を彼の後ろ首へ向ける。そして、マガラーナは着地してワイヤーを収納させることでシンをそのまま至近距離へと引っ張った。


「また得意距離に持ち込むって訳か! そうはさせねぇ!!」

引き寄せられるワイヤーを、フェンサーギロチンがたやすく真っ二つにワイヤーを叩き斬るように引きちぎる。

だが、何故かマガラーナの口元は笑みを浮かべる。シンは一瞬疑問に感じたが斬られた導火線から火花が飛び散り首元へその火花が迫っている事が答えだ。

「まじかよ……!!」

すぐさまシンは状況を把握した。あのワイヤーは引き付けるものではない。導火線として首に巻きつけ、線への刺激と共に導火線を点火させて先端の棘状のパーツへ引火させて己の首を吹き飛ばそうとしている兵器だ。

「マイクロナイファー!!」


最悪の事態を避ける為に、シンはまずフェンサーギロチンを腕に装着させて、右手からのマイクロナイファーで棘状のパーツを切断。両側の火花をそのまま握りしめて鎮火させる荒業に出た。

一瞬シンの顔がゆがむが、昇華させてワイヤーを投げ捨てた時には既に表情は元の精悍な顔へ戻り、トライマグナムを引き抜く。

「トライマグナムを抜いたか……なら俺の力を見せてやろう!」

マガラーナが両手を前面に就きだして構えた。その構えは分からないが全く避ける気配も防御する様子もない。

「まさかお前俺のトライマグナムを受け止めるつもりか!?」

「トライマグナム等所詮ただの鉄砲玉よ。それより撃てばお前が大変なことになるぞ」

「脅しかハッタリかはしらねぇが……痛い目見るのはお前だ!!」

シンによって、トリガーが引かれて弾が放たれた。しかしマガラーナの言うとおり吹き飛ばされる結果を味わったのはマガラーナではなく、彼になってしまったのだ。


「な、何があったんだ!!」

「ふふふ、これが俺の切り札ってものよ少々手荒だがな」

マガラーナが笑いながら左手に形成されたキューブ状の物体を投げつけると、衝突した弾薬が平常時以上の大爆発を起こす。後方へ飛んで逃れるマガラーナが計算済みに対し、シンの場合は何故か戸惑いが隠せない。

「ふふふ、俺のヴァリキューブハンドの力を思い知ったか!」

「ヴァリキューブハンド!?」

ヴァリキューブハンド。聞き覚えのない単語にシンは耳を疑ったが両手に形成されていく正方形状の黒のキューブが少しずつ彼の掌で肥大していく。

「そうだ。俺のヴァリキューブハンドは手を向けた方向から空気を吸収して空気の塊を作る! 俺が作ったキューブには空気が充満しているがその代償に一定の場所の空気を殆ど九州させてもらった訳よ!!」

「一定の場所……ということはまさか!」

「そうだ! お前の周囲の空間の空気を全て吸収してもらった!! 今のお前は山頂、いや宇宙空間にいるも同然だ!!」

「何だと……」

「おっと! 喋りすぎは命に関わるからよした方がいいな!!」


空間の空気を操るマガラーナからのこの言葉は最もだ。今のシンは真空状態に身を晒されたものでウェスターマーの効果である程度の空間制御や耐寒装備は施されているも、生身のまま宇宙空間へ放り出された状態である。

「俺が真空将軍と呼ばれた意味はここにある!真空空間を自由に作りだし、俺はこのキューブを摂取することで真空状態であろうとも通常と何の支障もない活動が可能となる!!」

「そ、そういうことだったのか……」

「さーて、あと3分ぐらいでお前は窒息死いや凍死するだろうな!今のお前は絶対温度マイナス273度に生身を晒しているものだからな!!」

(やべぇ……すごく寒い。眠ったら機能が停止するようなものか……)


寒気を感じるシンは身を蹲らせて己の敗北の危機を募らせていく。このままでは、いやマガラーナはこれを狙っていたのかもしれない。自分を凍死させた所を討ち取るつもりではないだろうか。

「どうだシン、この絶大な力は俺に備えられた能力だ!外部からの干渉は一切なしの戦いに偽りはないわ!!」

「そ、そういうつもりなのかマガラーナ……」

「俺は一味違う男だからな! スネーク・サイドに、ミラン・ヨドハシ……結局奴らは己を信じられないから策に頼るものがな、俺は己を信じ俺の力で戦ったからこそここまで来て、お前を倒すことが許されたのだ!!」

「スネークの戦いが……それだと」


極寒の環境に包まれたシンの口からは意外な一言が出る。たとえスネークが敵でもだ。かつて師にあたる彼に戦いのイロハを教わってここまで来たからか。彼を否定する事は己を否定されたかのようなものだったからだろうか。恨むべき相手だが否定すべき相手ではない。

「どうした、あいつはお前を倒すには何事も手を使う事を信念としているが、それは己が非力だからの言い訳にすぎん! 俺は戦闘のプロ、偉大かつグレートなサムライド。そんな俺に策は要らない!!」

「……まてよ」

“まてよ“この一言でスネークを侮辱するマガラーナへの憎悪をぶつける。だが、この時シンはサムライド故に発達した聴覚が何かが飛びこむ音をキャッチした。飛びこむ音の方向へ目を向ければ後方にそれなりの広さを誇る湖があった。この場所を補足した時に”まてよ”の一言は何処か勝算があるニュアンスが含められた意味へ変わったのだ。


(そうだ。あの湖に飛び込めばこの寒さから脱出できるかもしれないし、そのままもぐりこんでソウル・シュラウドを展開させて寒さから回復する手立てもある! いや、問題はこの寒さで……どうやって飛びこめというのかだ)

余りにも寒い環境の中で瞳が閉じ、シン自身の思考回路も停止寸前だ。その中で自分は逆転する秘策はあるか。一応方法は思い浮かんだが、現実その手を遂行する事は難しい。自分に与えられた能力から何かなす事は出来るか。

その時、彼が気付いたのは己の右腕だ。そしてトライマグナムを撃てば真空空間の自分も反動で後方へ吹き飛ばされる。答えは右手の関節を折り曲げることで出された。

「ト、トライボンバー……!!」

「何……」

シンの手からはトライボンバーが投げられるが、余りにも極寒の地故に体力が消耗していたのか力なくそのまま倒れてしまいそうだ。だが個々で倒れたら終わりだ。彼はよろよろと立ち上がりマグナムを構えた。

「真空空間で無駄な抵抗を……」

「無駄とは言わせてたまるか……!!」

またトリガーが引かれた。これによりシンの身体が後方へ吹き飛ばされるが狙い目はそれだけではない。人と機械を併せ持つシンの身体が投げたトライボンバーのどこか心細い軌道に対し、トライマグナムは完全な兵器。放たれた実弾は勢いが衰える事を知らない。


マグナムの弾がトライボンバーに直撃し激しい閃光と共に強烈な風が吹き荒れた時が全てだ。

「うおっ! 眩しい!!」

「やった!!」

シンの身体が吹き飛ばされて湖へ音を立てて飛びこむ。決してこの世界が極寒ではない。彼の周辺の空間が極寒なだけだ。その空間から弾き飛ばされて例え水とはいえ彼の身体の冷え込みは急速に回復の兆しをたどった。


(あぶねぇあぶねぇ……だけど水中にいるだけじゃ酸素の問題は解決しない! どうすればいい……!)

しかし、シンはあくまで極寒の力脱出しただけにすぎないのだ。なぜならマガラーナのヴァリキューブハンドを破ったわけではない。あの真空を形成する機能を破るにはどうすればいい。だがこの状況を打開する前にその湖に彼が近付いている。

「湖へ逃れて真空状態を形成したか……まぁいい」

“まぁいい。”その言葉とともにマガラーナは笑いながら指を真上に立てる。その指には空気が形成され少しずつキューブが形成されるかと思えば、そのキューブはなぜか粉上に分散して彼の背中のバックパックへ取り込まれていく。

「ふふふ。ヴァリウムサンダーブレイクを湖にたたき込んでシンを呼び起こしてやるわ」

マガラーナが今、空から雷を呼んで真上に上げた右腕の人差し指に集中された。

「くたばれ!ヴァリウムサンダーブレ……!!」


このままマガラーナが会心の一撃を放とうとしたその時だ。突如真後ろから振り落とされた巨大な竜巻を前にマガラーナは弾き飛ばされ、その衝撃で指先からの雷が樹木に激突して真っ赤に炎上して割れながら、片割が湖へと落っこちた。

「!?」

「な、何があった!?」

湖に沈み行く樹木を前にシンは湖上で何かが起こった事を察知した。だが今その場に出ては敵の思うつぼになる恐れがある。だから彼は水面のすれすれまで迫って様子を見る事にした。

一方マガラーナは一騎打ちを邪魔された事もあり、後方からの圧倒的な威力の一撃の持ち主へ警戒を抱いた事も当てはまる。その警戒心の中で後ろからの刺客はゆっくりにっこりとほほ笑んで見せた。禍々しい鉤爪のつけられた右腕と共に

「ふふふふ。シンを倒すことに夢中になりすぎて背中ががら空きだったよね」

「貴様……うっ!!」

「ごめんねー僕の技が君の意識を奪っちゃうけど……」

 振り向いたときにマガラーナの懐へ重いきり拳が叩きこまれた。鳩尾を突かれ彼の瞳が点になりそのまま瞳を閉じてぐったりと彼の手で倒れた。

「スクリュー・イーグルは内部にもダメージを与える必殺パンチ。本当はこんなことするよりひと思いに殺りたかったけどね、上からの命令もあるしね……」

「まさかお前……上からの」

「細かい事は気にしないでほしいな。もう君はある方に処刑されるようにシナリオが組まれているから。まぁこれも駆け引きなんだよ」

マガラーナを背負うように腕を掴んで彼は一本返しの要領で護衛として用意された2機のソルディアがキャッチできるように放り投げる。

そして彼を受け取ったソルディアが共に撤収を開始した時にサイは察知した。水面で半分顔を浮かべて、また自分の戦いにあっけに取られて見つめていたシンの存在を。

「あ、あ……」

シンが目にしたそのサムライドは純白と黄金のカラーリング。彼が湖から完全に顔を出したときに全ては明らかになった。流れる金髪と優しく整った顔立ちの同年代にあたるサムライドがあいつだったことを。

「お、お前は……」

「君は……確かシンキ・ヨースト。紅蓮の風雲児」

「そ、そうだよ! 俺はシン!! 俺だぜサイ、お前無事だったのかよ!!」

シンは嬉しさを前面に押し出して湖を飛び出して彼のもとへ駆けつけようと必死だ。

“サイ“彼にとって苦楽を共にして共闘したサムライドとの再会を成し遂げることが出来たからだ。だが


「!?」

現実は過去とは異なるものか。シンの目の前にはサイ……かつての戦友のクローが地面に突き刺さった。そのクローの先はサイの右手から放たれた彼のかぎ爪だ。

「サイ……? ど、どうしたんだよ」

「シン、ごめんね。僕は君を殺さないとサクラ様から言われているんだ。だからね~死んでもらおっかなぁってね」

「何だと……サイ、どうしてだ! お前が俺を攻撃する理由なんてどこにもないのに!!」

シンとすれ違う形でサイの拳が飛ぶ。その拳の勢いは腕周辺の空気でシンの頬を切るに十分な威力。敵に回したら恐ろしい彼の実力をこの身体で感じることになってしまったのだ。

「シン、口を動かすなら目を向けたほうがいいよ」

「な、何故だ! 何故お前が俺の敵として戦わないといけないんだ!! おいサイ、何とか言えよサイ……!!」


サイ・ナ・ガマーサ。シンが実力を認め敵に回せば恐ろしいと悟ったサムライドは彼の前に2万年の時を超えて彼に敵として現れた。悠久の時はサイの心をも変えてしまうのだろうか……シンはこの時ほど永遠といっても差し支えのない眠りを恨めしいと思ったことはなかった。


続く


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