道に落ちてたパンツ
夜道を散歩していたら、道端にパンツが落ちていた。
レース付きの、女性用のピンク色のパンツ。
男はそれを躊躇いなく拾った。まるで自分の物のように。
そしてそれを鼻に当て、静かに息を吸い込む。瞬間、男は眉間に皺を寄せ、パンツを投げ捨てた。
「うわっ、なんだこれ、新品じゃないか」
男によって投げ捨てられたパンツは、ひらひらと舞いながら、再び地面に落ち着いた。
すると、電柱の影から一人の少女が出て来た。
学生服の上からブラウンのロングコートを羽織り、頭には前後にツバの付いた鹿撃ち帽を被って、手には虫眼鏡を持った探偵風な少女。
少女はニヤリと口元に笑みを作りながら、男の方へ歩み寄ってくる。
「やはり使用済みでなければ満足しませんか」
「お前、誰だ?」
男は怪訝な顔でそう聞いた。
少女は笑みを作りながら悠然と答える。
「私は宮本、名探偵宮本です!」
「みやもと……」
「はい! そうです! あなたのお名前をお伺いしても良いですか?」
宮本は虫眼鏡越しに男を覗き込む。
(こいつ、何者だ……探偵とか言ってるが、明らかに学生。所詮はごっこか……探偵に憧れた痛い女の子ってところか)
「俺は下川だ」
男は適当な名前を言った。
すると宮本は訝しんだ。
「嘘、ですね。あなたはしもかわではないです」
「何を言ってるんだ。俺は下川だ」
「ならば、免許証か異能登録証など身分証明書を見せてもらえますか?」
「今は持ってない」
「持っていない? ほほう!」
宮本は勝ちを確信したかのような笑みを浮かべ、男に迫る。
「異能登録証は必ず携帯する必要がありますよ? カードかスマホに保存して、すぐに提示できるようにしなければいけませんよ?」
「近い近い!」
男の頬に虫眼鏡が食い込むほど宮本は迫っていた。
男が手を振ると、それをヒョイっとかわす。
「お前は別に秩序同盟の奴らじゃないだろ? ただの学生に見せる義務はない。例え持っていてもな」
「ふむ、確かにそうですね。私にそんな権利はありません」
ですが!
と大きな声で叫び、いつの間にか拾っていたピンク色のパンツを持った左手を勢いよく突き出す。
「この私がお昼に学校を抜け出して買った未使用のパンツを嗅いでいた証拠写真ならあります!」
「冤罪だ! 道端にパンツを置くお前が悪い! 俺は何かわからなくて、嗅いだだけだ」
「でもあなたは、嗅いだ後すぐに投げ捨ててこう言い放ちました「うわっ、なんだこれ、新品じゃないか」と。ちなみに、写真と言いましたが、実は動画です。なのでしっかりとあなたの声も入ってます」
「お前は人の心とかないのか」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
「お前、こんなことして何になる? なんの徳がある?」
男はそっとポケットに手を入れる。
「趣味です。徳を求めてやってません。強いて言うならば、この街から下着泥棒が減って、安心して外に洗濯物を干せる女性が増えることでしょうか」
「なるほどな。お前、俺のこと疑ってるだろ」
「いいえ、疑ってません。確信してるんです」
「そうかそうか。一度痛い目に遭わないとわからないようだな」
「おや? なんか物凄く悪党なセリフですね」
「言っとくが俺は、女だろうが容赦しないぞ。その可愛いお顔に傷を付けられたくなかったら今すぐ証拠を消すんだな」
慣れない脅しを口にした男。しかし宮本はミリも怖がっておらず、むしろニヤニヤしていた。
「良いですよ。私、別に可愛くないですし」
「お前それ本気で言ってるのか?」
「ん? 本気ですよ?」
「絶対言わない方が良いぞ」
「どういう意味ですか?」
男は呆れた。
鏡があるなら見せてやりたかった。そして、どこが可愛くないのかと言ってやりたかった。
「嫌味になるってことだ。それより、証拠を消せ」
「そんなに消して欲しいのですか?」
「当たり前だろ」
「ならば、私を捕まえてみるのです!」
宮本はそう言うなり、走り去っていく。
「足速っ!」
あっという間に暗闇に消えていく宮本。
男は追いかけるべく、ポケットから黒いレースの女性用パンツを取り出して、それを嗅いだ。
その瞬間、男の筋力が増加した。
「いくら足が速かろうが、追いつける」
男はアスファルトを割るほどの力で地面を蹴った。
これが男の能力。
本名──立川愛士。
能力──一度でも使用された女性の下着を嗅ぐことで身体能力が爆上がりする。




