第1話 『不思議な力』を手にした少年
──放課後
学年集会などで使われる視聴覚室に対面式に並べられた机と椅子。そこに先生と生徒が面談をしていた。辺りの空気は静かで外から下校していく生徒の声が薄らと聞こえた。
「最近はどうだ愛輝。何か困った事はないか?」
「困った事なんてないよ。強いて言うならいくら勉強しても頭が良くならないことだね」
「記憶力はかなり良いはずなんだけどなぁ、なんで勉強の事になるとそれが発揮されないのかねぇ?」
「それはこっちが知りたいよ!」
天野愛輝(12)は成績の悪さに悩んでいた。昔から記憶力だけには自信があった。だが勉強では発揮されないことから成績はクラスの中ではかなりの低ランクである。
「まぁ先生としては成績が上がってくれると嬉しい。だけどそれよりも嬉しいのは・・・」
「"思いやりのある生徒になってくれ"だろ?何回も聞いたよ」
関係の無い授業の最中にもよく口にする吉田陽太郎(通称:ヨシティー)(36)のお決まりセリフは既に俺の頭に刻まれている。[関係の無い]事ばかりが俺の記憶に残っていく。少し呆れた態度を見せてもヨシティーは嬉しそうな顔をしていた。
「先生嬉しいよ!お前がこの言葉を覚えていてくれて!」
「・・・流石に覚えたよ!」
「お前は誰にでも優しい思いやりのある生徒だと俺は知ってる。お前は今のままで大丈夫!」
ヨシティーは俺の手をそっと握って気持ちを伝えてくれた。ヨシティーは毎度こう言ってくれるけど、俺にはその実感が無い。だから俺はいつもけど俺は照れくさくてスっと手を膝に回して気持ちをリセットした。時計を見ると時間が4分程経っている。こういう時間は何故か授業の時間と比べて早く感じる。けど勉強が苦手な俺からするとこういう時間こそ長く続いてくれと思ってしまう。
「それじゃあ本題に話を戻そうか・・・愛輝、最近何か困った事はないか?」
「無いよ・・・何で?」
「お前も知っているだろう?毎年この小学校から【謎の行方不明者が出る事件】の事を。今年もその時期が近づいている・・・」
咲真小学校は3年前の今頃から行方不明者が出るという事件が相次いでいた。教員達は警察と協力して行方不明になった生徒の捜索に出たが、行方不明になる直前の痕跡は0、手がかりは一切無かった。
そしてこの事件で最もヤバイとされている事がある。それは・・・・
「"存在が皆から消える"だっけ・・・怖いよな」
「先生たちも最初は分からなかったんだ。名簿を見ても不自然に空白になっているし、私はその子の記憶が一切ないのだから」
「この連鎖止められるといいね」
3年前は当時3年生だった生徒が一人、2年前は当時1年生だった生徒が二人、そして去年は3年生だった生徒が三人行方不明になっている。共通点は今だ分からずにいた。
「だから愛輝も気をつけろよ?次はお前かもしれないんだからな?油断すんなよ?」
「分かってるって!危険を感じたら回れ右して交番に行けば大丈夫!」
──キーン コーン カーン コーン
学校のチャイムが鳴り響くとヨシティーは机に広げた書類をまとめ始める。設けられた10分間はあっという間に過ぎていった。俺もランドセルを背負って
下校の準備を済ませることにした。
「じゃあな先生また明日な!」
「あぁ!気をつけて帰れよさようなら!」
教室を後にした俺は即座に下駄箱から靴を取り出し正門へ走り出す。距離はそんなに遠くない。これくらいの走りじゃ俺は決して疲れたりはしない。むしろ記憶力よりも自信があるくらいだ。
「今日も楽しかったなぁ...」
ふと一人になった時、俺はいつも空を見上げて学校の一日を振り返る。夕日の時は『今日一日がとても良い日だった』って思うし、くもりや雨が降っている時は『明日は晴れますように』と願う。今日は特に夕日が綺麗だ。
──これはカイリにも伝えなきゃな!
俺には実の両親が居ない。代わりに俺をここまで育ててくれたのは義母であるカイリ(35)だけだった。
何度も喧嘩はしたけれど、誰よりも俺を優先して動いてくれる自慢の義母だ。
「早く帰ろっ!カイリが心配しちゃう」
──きゃ....ぁぁぁぁ..!!!
「・・・ん?」
小走りで家へ帰ろうとするも何処かから微かに女の子の悲鳴のような声が聞こえたような気がしたので俺は思わず足を止める。だが辺りを見渡してもそれらしき状況と女の子は見当たらない。
「気のせいか....?」
俺は再び止めた足を動かす。
心配ではあるけれど、少し身の危険を感じたので直ぐに家へ帰ることにした。だが──
──助け...て....!! 誰かァ....!!!
「──っ!? 気のせいじゃない!!」
今の悲鳴は確かに聞こえた──!
けど何処からだ!? 全く分かんねぇ!
これはきっと【行方不明事件】だ!
俺は聞こえた方へと方向転換し走る!
行方不明者を出さないように助けたい一心で住宅街の中をひたすら走った。すると薄暗い路地裏の先からまた女の子の悲鳴が聞こえてくる。
──助けて!誰か....!怖い...!!!!
「あっちか──!」
路地裏を抜けると『見たことのない魔物』に咲真小学校の女の子が襲われている場面に直面する。魔物は女の子を大きな手で握り苦しめ女の子は逃げようと抗っていた。
「な、なんだよアレ・・・!?バケモンかよ!?」
『──ブルルァァァァァァ!!!!!』
──女の子助けたいけど魔物にどう立ち向かえって言うんだよ!?無闇に突っ込んだら即死だろ!どうしたら良い・・・!?助けを呼ぶか!?
気付けば空は先程とは違って真っ黒になっていた。夜空とは違う不気味な雰囲気を漂わしている。
「お兄...ちゃ...ん...たす..けて!」
「でも・・・!!」
・・・アレ?足が動かねぇなんでだ?さっきのとは違う、、もしかして俺・・・ビビってる?
次第に右手も震え始めると俺は本能でその右手の震えを抑えるように握る。安心を保つのに必死だった。けどこのままだと───!!
『ブルァァア!!!』
魔物は一瞬の隙に愛輝の背後へ周り攻撃を仕掛ける。だが愛輝は避け切る事が出来ずに絶体絶命なピンチを迎える──
『覚えておいて、愛輝は優しい子よ。だから助けを求めている人は迷わず助けるの。私は信じてるからね!』
その刹那、俺は前にカイリから言われた言葉を思い出す。あの日言われた事を今になって思い出すなんて、これは何かの合図なのか?そう思った時にはもう頭には悩み一つ無くなっていた。
「──そうだった。助けなきゃ...!!!」
凍らされていた様な足も動かせるようになった。
無策だが今はあの女の子だけを助けることだけに集中しなければ・・・!!
『──目覚めよ、戦士』
突如視界は精神世界のような空間へと姿を変え辺りは綺麗な夜空のような景色が広がっていた。
身体が凄く軽く、心はなんだか安心する。
そんな中俺に話しかける謎の男の声は徐々に近づいて来ているような気がした。
『──人を助け、魔を砕け!』
「──ッ!? 何だ──!?」
その刹那、身体中に大量の何かが流れ込んでいくのを感じる──!身体中は熱い!けど痛みは感じない・・・むしろ気持ちイイくらい。身体も前より軽くなった気がする。今なら・・・魔物をやれる気がする!!
『ぶるァァ?』
「その子を話せよバケモン。じゃねぇと俺がこの手でぶっ飛ばすぞ!」
天野愛輝は『不思議な力』を手に入れた──




