第5話
その日の立ち係りは亮太だった。
ところが急にこの週から立ち係りは二名のベアになった。どうも甘い先生がいると、幸阪が言い出したからだ。しかも亮太とのペアはよりによってその幸阪だった。
亮太は運命を怨んだ。立っているだけで幸阪の圧が、ずっしりと背にのしかかる。
たしかに亮太は今までの立ち係りの時、チャイムが鳴り終わっても走ってくる生徒がいたりしたら、手を振って呼んで門に入れてやっていた。
今日からはそれもできない。
始業チャイムが鳴った。走ってくる生徒がいる。つい癖でいつものように手を振ってその生徒を呼び込もうとしたが、亮太は幸阪の視線を感じた。
しかもよりによって、その遅刻して走ってきている生徒は瑠璃だった。 今日はLHRがあって、自主登校の高三も全員登校日であることを亮太は思い出した。
チャイムが終わる。それでもまだ校門から十メートルあたりに琉璃はいる。亮太はためらった。
「鳴り終わりましたよ、先生!」
幸阪が厳かに言う。琉璃は立ち係りが亮太だと知って、 安心してまだ走ってくる。
「北川先生!」
幸阪に冷たく促される。校門を閉めないわけにはいかない。自分の意志とまったく反したところに、校則がある。
その校則の重みは今、亮太に抗うことを許さない。 同じくらい重い鉄のスライド式の門扉が低い音をたててすべりはじめる。
「え、うそ! 亮ちゃん、待って!」
琉璃の声がする。その琉璃の姿を見ながら校門を押すことは、彼にはできなかった。琉璃がすり抜けようと手前で遮られようと、とにかく彼は校門を押さなければならなかった。
だから顔を伏せて地面を見つめ、琉璃を見ないようにして不本意ながら校門を押した。
弾力性のある衝撃と琉璃の悲鳴は同時だった。
慌てて顔をあげると、門柱と門扉のはざまに、琉璃の血しぶきが飛び散っていた。
北川亮太………………業務上過失致死。懲戒免職。