3日目②ーそれぞれの思惑ー
着いたのは大きな館。
俺たちは一室に案内される。
俺はシルクの目を見た。
シルクは何も言わなかったが俺の言いたいことを理解したように頷いた。
もう心配はしなくて良さそうだ。
「お掛けください」
「改めてご挨拶を、肩書は省略いたしますが、ガリウスと申します」
ガリウスが座った後俺たちは簡単に挨拶を済ませる。
「私に会いたいと言うのは何か取引をしたいと言うことでお間違いありませんか?」
「相違ありません」
「互いに誠意をもってお話ししましょう」
「もちろんです」
ガリウスは微笑んでいる。
面白い取引になりそうだ。
「それでは本題に移りたいのですが、今後冒険者がダンジョンで入手した素材を紹介で買い取っていただきたいのです」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「我々冒険者は現在ギルドにアイテムを納品しています、ギルドからは国営である魔導文明研究所に、素材に余裕があれば鍛冶屋、仕立て屋に魔物の素材を売り、探索に必要な武器や防具を作っていただくという流れでした」
「・・・続きを」
「実際、冒険者が手に入れた素材は魔導文明研究所がすべてを買い叩いており、鍛冶屋、仕立て屋には一つも流れていないのが現状です」
「なるほど、つまり冒険者の方は武具を整えて安全性を高めて素材を手に入れることができなくなっているわけですね」
「はい、冒険者はギルドに素材を売り、ギルドは国に素材を売る、ギルドは冒険者に食住を格安で提供しているがために資金が必要、その金額を素材で国から得ているという形になります」
「ギルドが冒険者をサポートしていると」
「命あっての調査になる、俺たちは仲間を守らなきゃならねえ」
ギルマスの思いは本物だ、だからこそ厳しい立場にいる。
「ガリウスさん、この際なのではっきり申し上げます」
「何でしょうか」
「僕はこの国を商いが支配してもいいと思います」
「陛下に・・・不敬ではありませんか?」
「敬うところがどこに?」
ガリウスが鋭い眼差しを向けてくが俺も視線を返す。
本気でそう思っているからだ。
ギルドマスターは「オイオイ」といった顔をしているだろう。
三人はどう思っているのかな。
「ぷっ・・・くっくく」
ガリウスは口を押えてくすくす笑い出した。
「面白い人ですね、そんなことができると思っているのですか?」
「できますよ、私ならね」
俺はいたって真面目だ。頭の中にプランもある
「話を戻しましょう、素材を加工して武具ができたとして適正な価格がわかりません、それに素材にもいろいろな種類がある、買い取るにしても値段を付けられないのでは?」
「冒険者が一日で稼げる額の一人頭を算出することで金額の設定はさほど難しいことにはなりません、集めるのが面倒くさいようなものはクエストとしてギルドに依頼を出すことで入手が可能になります、冒険者リストから全体のレベルを見て手に入れにくいであろう素材の値段が高くなります」
「なるほど」
「それはそれとして私たちが入手した素材はイリス商会に直接持ち込みましょう、それを鍛冶屋、仕立て屋に持ち込み無償で加工して私たちに与えていただきたいのです」
「より進んだ調査、素材を安定して入手するためですか」
「それと先にどんな素材が手に入るか、多く供給される前に相場を決めておきたいでしょうから」
「あなた方のメリットはダンジョンの探索が進むだけでは?資金がないと生活の水準が上がることもないと思いますが」
「報酬は高水準の武具だけで十分です」
「冒険者というのは・・・いえ、あなた方は非常に面白いですね」
「誉め言葉として受け取っておきます」
「少々お待ちを」
ガリウスはペンを取り出し、秘書から紙を受け取るとスラスラと書き始める。
「ギルドマスター、冒険者の方々に月の宿代は総額でしょうか」
「そうだな、うちのギルドだと食費を合わせて1500万ジュエルくらいじゃないか?二日間の素材の納品は100万ジュエルだったな」
「わかりました、あなた方の条件をすべて飲みましょう」
「ギルマス、構いませんか?」
「お、おう。こんなに話がうまくいくとは思ってなかったぞ・・・」
「そういうことは商談相手の前で言わないものですよ」
「そ、そうか、すまん・・・まぁ懸念もあるんだが・・・」
「懸念と言いますと?」
「やつらに素材を納品しないということは問題にならないか?」
「些細な問題ですね、無視して大丈夫です。」
「その問題に関しては後程私のほうで手を打っておきます」
「よろしくお願いします」
ギルマスは理解までできていなかったが知らないほうが良い、そのうち教えよう。
「それと先行投資ととして1000万ジュエルをギルドに寄付します、使い道はお任せするのでぜひ冒険者のために役立ててください」
ギルマスは口を開けて固まっている。
俺もそこまでしてもらえると思っていなかったがくれるというのであればもらっておこう。
「ジークさん、この後お時間よろしいですか?」
「わかりました、メンバーは加工屋に行ってもらったほうがよろしいですか?」
「お任せします。今はギルドマスターにだけ聞かれたくないお話ですので」
「武具は急ぎでほしいので彼らは行かせてあげたいのです」
「わかりました、彼らを丁重に案内してください」
秘書は三人とギルマスを連れて部屋を出て行った。
部屋に残っているのは俺とガリウスの二人。
「お若いのに先見の目があるのですね。」
「私は魔導文明に興味があるわけではないので」
「ははは、それはそうだ」
椅子の前のほうに座り直し、ガリウスは真剣な顔で話し出す。
「冒険者が力を持てば王宮から妨害があっても以来として冒険者が対応ができる、素材は武具を作り経済の活性、余った素材はすべて王宮に売りつける、そんなところでしょうか」
「そうですね、稼げると分かれば冒険者になることも考えられるでしょう、今より素材の数が増えれば武具製作も潤うでしょう、貧困層の人々にも働き口が見つかるかもしれません」
ガリウスは素直に頷く。
「あなたの発想は商人そのものですね、冒険者としても優秀なのでしょう、どうですか不定期で構いませんので私どもの商会に顔を出してアドバイザーとして働くというのは」
「冒険者としての活動が優先ですが、新しい商品の発案などもしてみたいですからね、お引き受けします」
「ありがとうございます、ではあなた方にはより投資をして切っても切れない縁を作り、私どもに力をお貸ししてもらわなければなりませんね・・・いかがでしょう、私の所有している物件を無償でお譲りいたしますそちらに移動なさっては?家事などで時間を取られてしまうことも問題になりそうですのでメイドを2名派遣しましょう」
「私たちにそこまでの価値があると思っておいでですか?」
「もちろんです、あなたには私と同等の価値がある」
誉めてるのか自慢しているのかどっちなんだ、両方か。
「わかりました、お言葉に甘えます。」
「素晴らしい、それではそのように手配しておきます」
ガリウスは紙に住所を書いて教えてくれた。
「一時間後にはいつでも入居できるように手続きも済ませておきます、素材に関しましては担当の者がギルドに回収に行きますのでそのようにお伝えください」
「わかりました、ご英断感謝します。」
俺はガリウスと握手をし、今後のパートナーとして心の中で誓った。
そういえば契約書も結んでいないが大丈夫なのか?
これで王宮の不満が爆発したとき、問題になるのはこの指輪だけか。
文様が刻ませた銀の指輪、王宮が返却を求めた際に同じもの、もしくは代替品を用意しないとな。