2日目③ ー狂乱ー
サクサクと進み、柵の手前まで何事もなく到着。
ここから出現する魔物が変わると予想していた。
案の定現れた敵は
トカゲウォーリア、ワイルドボア、ハイコボルト
もう少し奥で現れる敵が出てきた。
メリッサがタンクをしてくれるおかげで俺は遊撃に回ることができ、難なく倒すことができた。
すでにレベルは37、クマドリが強化されていることを考えると50レベルは欲しいと思うようになっていた。
「そろそろ小屋が見える頃かな?」
「小屋?」
丁度小屋が視界に入る。
後半のマップに行くためのボート小屋だ。
「本当だ、安全なら少し休憩しない?」
「休みたーい」
1000年間形を維持していることは気にしないでおこう。
「そうだね、少し休憩しておこうか」
「・・・のど渇いた」
魔物が発生しないセーフエリアは少ないからちゃんと休憩をとったほうが良さそうだ。
ゲームと現実の差がこういうところで出るんだな。
タヤとメリッサが小屋に向かって歩く中、シルクは俺の横に来て並んで歩く。
子供か。
「あれ、鍵が閉まってるよ?」
「本当だ、この呼び鈴ならしたら空いたりしない?」
メリッサが呼び鈴を鳴らすとドアが開く。
「空いたー」
悪寒が走った。
空いているのなら理解ができる、1000年前に俺が開けたからだ。
最初閉まっていて呼び鈴を鳴らすと扉が開く。
ということは中に誰かがいるということだ。
「二人とも扉から離れろ!!!」
俺は大声を出すと同時にタヤとメリッサを突き飛ばした。
タヤとメリッサは勢いで転ぶ。
同時に入口が吹き飛んだ。
ギャオオオオオオオオオオオ
小屋から飛び出してきたのはクマドリ、しかも番で現れた。
クマドリ二体と戦うことは、予想はしていた。
出会うのが速すぎる、本来戦闘になる場所半分までしか着ていない。
三人とも方向で怯んでいる、攻撃力ダウンのデバフだ。
俺は状態異常体制が高いから回避できているようだ。
俺は素早く二体を切り付けヘイトを買う。
「少し時間を稼ぐ!体勢を立て直したらメリッサがヘイトを買ってくれ!」
俺はクマドリ2体と向き合った。
まともに戦えば5秒も持たないだろう。
レベル30になった時に覚えた絶技「分身」
クールタイムが120分と長いが今使わなくていつ使うのか。
俺の影からもう一人の俺が生まれ、左に全力で走ると影は右に動く。
クマドリはレベル75、1v1をしても勝てる相手じゃない。
「スネークヴァイト!」
シルクが大きな声で魔法を唱え、召喚された蛇が俺と対峙しているクマドリに噛みつく。
クマドリの突進で吹っ飛ばされるがダメージはあまりない、攻撃力ダウンのデバフをかけてくれたみたいだ。
「プロテクション!オーバーヒール!」
「エンチャントウェポン!」
タヤがメリッサに補助呪文をかけ、メリッサも自身の攻撃力を上げている。
体勢は建て直せたみたいだ。
「俺が引き付けているうちに三人で一体を倒してくれ!」
「わかった!時間がかかる魔法を使うから援護して!」
俺の分身はクマドリの攻撃で消滅する。
シルクが呪文の詠唱を始める。
タヤがマジックブーストをシルクに使い、メリッサが攻撃を受けて時間を稼ぐ。
「一人で受け持つのはさすがにきついな」
俺はクマドリに攻撃することを諦め、回避に神経を注ぐ。
俺の分身は2度のひっかきと1度の体当たりで消滅した、俺も同じだけは耐えられるだろう。
「ぐっ!」
クマドリの振り下ろした手が俺の左腕を切り裂く。
致命傷は避けることができたが直撃すると腕が持っていかれそうだ。
「リデンプション!」
タヤが全体継続回復魔法を唱える。
回復量は低いがプリーストの詠唱が短いのは助かる。
「二人とも避けて!」
シルクの声でタヤとメリッサは横に飛ぶ。
「フリーズランサー!」
シルクの周りに魔法陣が4つ形成され、氷の槍がクマドリに突き刺さる。
「ギシャアアア」
メリッサの与えていたダメージもあり、断末魔をあげクマドリは消滅する。
「残り一体だジーク!メリッサの後ろに!」
パーティーを信じて俺はメリッサの後ろに退避する。
「シルクはもう動けそうにない!ジークは回復するまでシルクをカバーしてくれ!」
「任された!」
メリッサとタヤで時間を稼いでくれている。
「シルクは大丈夫か?」
「MPが減ると・・・呼吸が辛くなる、MPが3/70だからちょっと動けないかも、ごめんなさい」
「いやよく一体倒してくれた、俺が戦線に出られるようになるまでカバーするからゆっくりしていてくれ」
リデンプションのおかげでHPは半分まで回復できたがメリッサもタヤもだいぶ疲弊している。
メリッサの攻撃でクマドリに少しずつダメージを与えているが倒すまでに至っていない。
運が高い俺がとどめを刺すのがベストだがこのままじゃ崩壊してしまうかもしれない、倒しきれないかもしれないが一撃にかけるしかない。
「次のクマドリの攻撃の後俺がとどめを刺しに行く、攻撃の後俺は動けなくなる、もしクマドリを倒せなかったときは・・・全力で逃げて一人でも生き残ってくれ」
「ジーク・・・ダメだ・・・」
「メリッサ、一度だけ攻撃を耐えてくれ」
「死んじゃだめだよ!」
クマドリが突進してくる。
俺はシルクとタヤが突進の軌道にないことを確認し横に回る。
「でやああああああああああああああああっ!」
メリッサは突進に合わせてステップを踏み重心をずらしフランベルジュをクマドリの目を狙い突き刺・・・さらなかった。
クマドリは直前で首を振り目を躱したがフランベルジュは運よく鼻に刺さる。
「ギシャアアアアア」
暴れるクマドリはフランベルジュを叩き降りメリッサを睨みつける。
タイミングを見て俺は高くジャンプし、クマドリの首をめがけてナイフを突き刺す。
完璧に突き刺さったがクマドリは俺を突き飛ばされる。
全員の体力がクマドリの一撃で削られるほどにボロボロになった、ここまでか・・・
「ブラッディ・・・バレット・・・」
シルクのか細い声が聞こえた。
赤い弾丸がクマドリの首に刺さった俺のナイフにあたり、ナイフとともにクマドリを貫いた。
クマドリは消滅。
ブラッディバレット、通常のバレットスキルと同じだけのMPを消費、追加でHPを消費することでダメージが上昇するもろ刃の魔法だ。
全員が限界まで戦い勝利したが、気を抜いている状況ではない。
新たに魔物がリポップしたとき、間違いなく全滅する。
「タヤ、急いでボート小屋に入るんだ・・・」
メリッサとシルクは気絶していた。
俺はシルクを、タヤはメリッサを担ぎボート小屋に向かう。
シルクはとても軽かった。
なんとか小屋に入った俺とタヤは無言で周囲の警戒をした。
先にタヤが疲労から気絶するように眠りについた。
俺はそれから数十分敵がわかないことで安心し、緊張の糸が切れ倒れた。