勧誘
タイミングよく昇級試験に立ち会える事になったのは神様のおかげだろう。
試験官として何をするのか分からないが誰もやりたがらないというのは面倒くさい事なのだろうか。
先入観を持っても仕方ない、面倒くさいことでも結局は仲間を集めるためにはやるしかないのだ。
俺はギルドの中で時間が来るのを待ち、その間人間観察をしていた。
ギルドには威張り散らす荒くれや冒険者になりたてのものをバカにするような輩はいなかった。
前の世界にもそんな人はいなかった、神様が冒険者を大切にしているように感じる。
「ジークさん、こちらへ来ていただけますか?」
「分かりました」
イリスに案内されて別室に行くとそこにはたくさんの冒険者がいた。
エルフ、シーフ、ドワーフ、ファイター
大人から子供まで、子供のように見えるだけかもしれないが、様々な職業、種族がいた。
「みなさん、今回の試験官を務めるジークフリードさんです、ジークさんご挨拶を」
「Aランク冒険者のジークフリードです。ギルドに頼まれて試験官を務める事になりました。試験の内容も聞いていませんが役割はこなします、よろしく」
「ではジークさん、実技試験を行う前に冒険譚を語っていただけませんか?」
「…冒険譚?」
「心構えでも構いませんよ?」
いきなりそんなことを言われても冒険譚は無理だ。
心構えなら…何とかなるか。
「冒険譚はやめておきましょう、そうですね…そこのシーフの君」
俺は1番前にいた少年を指差す。
「は、はい僕ですか?」
「君は冒険者として1番大切なものは何だと思う?」
「えっと…仲間…ですか?」
「それはなぜ?」
「1人で達成できない依頼でも仲間となら切り開けると信じているからです」
「なるほど、じゃあ次はプリーストの君」
「私は…命だと思います」
「なぜ?」
「自分自身も、仲間も死んでしまっては何も残らないからです」
「これが答えだ、と言える人はいますか?」
誰も何も言わない。
そりゃ正解なんてないからなぁ。
「沈黙で間違っていません、答えなんて人それぞれなのですから、仲間が大切だという人は仲間を守り、信頼できる関係をつくればいい、命が大切だという人は死なないように安全マージンをしっかり取ればいい、作戦を練ればいい、力をつけ、知識をつければいい、大切なのは自分の中で決めたことを最後まで貫く意思、これだけです」
「ジークさんは何が大切だと思うのですか?」
イリスが俺に問いかけてきた。
それらしいことを言えば良いだろうと思っていただけに訪ねられると困る。
冒険者として大切なことか…
「僕は役目を全うすることですね」
「役目?」
「シーフはファイターやドワーフより力はなく、ウィザードやプリーストのように魔法を使うこともできません、ですが斥候や遊撃、魔物による奇襲に対して誰よりも早く察知できる大切な役目を持っています、自分ができることを最大限伸ばしてパーティに貢献することが大切なことだと思っています」
「なるほど…」
「1番後ろの角に座っているアーチャーの君、僕に聞こえないように小さな声で何か言ってみてくれ」
「……」
「実力も大事だと思う、なるほどね」
俺は素早くアーチャーの彼の背後に周りナイフを首に這わせる。
「もちろん実力も大事だよ」
「み、みなさん見えました?」
イリスは全員に問いかけるが目で追い切れた人は1人もいなかった。
「君たちが死なないように評価する、それが僕の仕事だからね、実力があることも示せて良かったよ」
俺はイリスの横に戻り話を終える。
「話はこのくらいでいいのでは?実技試験っていうのに、うつりますか?」
「わかりました、Aランク冒険者の実力を目の当たりにしたのが初めてでしたので…驚きました」
俺は愛想笑いを浮かべる
「実技試験はみなさんの力量をジークさんに見てもらい、Dランクの依頼を受けられそうなら合格を出してもらいます、では演習場へ行きましょう」
イリスに連れられて演習場へ向かう。
その間誰1人として言葉を発しなかった。
ちょっと圧を出しすぎたかもしれない。
演習場では1人数分ほどの実戦形式で実力を見ていく事にした。
力任せに剣を振るファイター。
俺の行動を先読みして矢を撃つアーチャー。
自前のスピードを披露するシーフ。
それこそ様々なアピールを皆がする。
俺は全員に合格を出した。
Dランクの依頼ぐらいなら正直なんとでもなるからだ。
ちゃんとチームとして動ければの話だが。
「全員を合格にするのには何か理由があるのですか?おそらく一人の不合格者も出なかったのは初めてのことだと思いますが・・・」
「特にありません、経験を積むことが大切だと思っているので」
「誰か良さそうな人は見つかりましたか?」
はっきり言ってわからない、というかレベルを上げて装備を整えれば誰でもそこそこ戦えるはず。
性格がよければそれでいいのだ。
「残念ながら見つかりませんでした、他に仲間を集める方法を探してみます」
俺は踵を返し演習場から立ち去ろうとした。
「待ってください」
後ろから誰かに呼び止められ振り返った。
シーフの女性が俺の前に来た。
「私に戦い方を教えてください」
他の受験者がいる中で一人の少女は大声で俺に言った。
シーフというよりもいいところのお嬢様のように見える。
「・・・いいですよ」
そういうと他の受験者も一斉に教えてほしいと詰め寄ってきた。
さすがにこの数の面倒を見るのは無理だ。
「私の友人も二人見てほしいのですがよろしいですか?」
「いいですよ、明日の昼にギルドで待ち合わせでいいですか?」
「わかりました」
「他の方々には申し訳ありません、私の体は一つですので先に声をかけた方を優先させていただきます」
そういって俺はギルドを後にする。
あのシーフは・・・名前を憶えていないな。
明日話をしたときに自己紹介でもしてもらうか。




