サツマイモを食べる話。
お題『立冬 × ホリゾンブルー』
「はふっ、ほふっ」
焼き芋の甘い香りを、潮風が運ぶ。
「むふふっ」
熱々甘々な食味に、彼女の頬が緩む。
しかし甚だ疑問である。
先週、彼女はここ──海を望むベンチで、大声で宣言していた。
『痩 せ る ぞ ー !』
なのに今、芋を貪っている。
「ん、うぐ、うぇっ」
懐疑してたら、突然の嗚咽。
彼女の目から涙が溢れ、鼻水まで流れ始めた。
「うっ、うっ、旨っ」
しかしそれでも食べ続ける。
何があった?
私はつい、彼女の独白に耳を傾けた。
「彼女いるの、知らなかった……ううっ」
ふむ、今ので大凡理解した。
惚れた相手に好かれんと痩せる宣言するも、既に先約が居たという訳か。
「はむっ……ん?」
おっと、彼女が私に気づいたようだ。
「……たべる?」
泣き面の笑顔が滑稽だった。食べかけの芋が、目前に突き出される。
私は遠慮なく啄んだ。
しばらく彼女は、大海を見つめていた。
濃い海と、淡い空の青の境目。
その先の大地を望む。そんな目だった。
「またね!」
彼女は急に立ち、去っていった。
彼女の目はもう、未来に向いていた。
またね、か。
今度会えるのは、来年の初夏かな。
私は彼女を見送った後、強く羽ばたいた。
そして、彼女の見据えた水平線に飛び立つ。
今日、私達は海を渡る。