表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/100

第99話 先ほどの女性は

 お腹にくる甘さではない。

 人を酔わす甘さだ。

 オレも例にもれず一瞬だけクラっときてしまい、思わず振り返ってしまった。

 香りのもとを見て少しばかり目を見張る。

 女性だった。

 光に当たって白くも見える紫系ホワイトパープルの髪の女性。伸ばされた髪はお尻のあたりまで伸びていて、眼の色はピンク系ホットピンク。肌の色は白。日焼けもシミもない。

 そして顔は、オレの判定で美女に分類された。

 年の頃は二十後半だろうか。一人の十歳前後の女の子の手を引いていて、女の子の顔は美女にとても良く似ていた。見た目こそ違うが腰までの髪と眼の色も同じ。間違いなく親子。

 父親とは思えない初老の男性を伴っていて、事実付き人のようだった。

 魅了された。外見で人を判断すると嫌われる世の中だが、雰囲気もあって魅了された。そしてそれはオレだけではない。他の乗船客だってそうだ。

 無論、


「凄い美人ね」


ウェディンも。


「……」

「――ん?」


 ウェディンの手がオレの両頬に触れた。触れて、グキッと首が鳴るほどに力強く回す。美女から視線をはがしたのだ。


「見すぎです」

「ごめんなさい……」


 首を摩りながら。

 最後にちょっとだけ顔を向けるとどうやら美女親子は劇場エリアに向かうらしい。背だけが見えた。

 何人かが美女を追って移動を始めて、付き人と思われる初老の男性に追い返されていた。


「ん?」


 おや、その男性が――白系スノーホワイトの髪に眼の色と同じ青緑系ターコイズのメッシュを入れた初老の男性がオレたちの傍までやってきたぞ。左目に紫系ミルキーラベンダーのオーディオスペクトラム――『覇紋(はもん)』だ――を輝かせ、両の目でしっかりとオレたちを捕えている。人違いをしているのではなさそうだ。

 なんだなんだ見てたの怒られるかな。


「失礼します。

 天嬢(てんじょう) 涙覇(るいは)さまとウェディン・グリンさま、天嬢 燦覇(さんは)さまでございますね」

「え」


 なんと声をかけられた。しかもこちらの名前まで知っている。

 緊張が走る。いつでもバトルできるように身構えつつ、


「……そうです」


こうウェディンが応えた。

 すると男性はウェディンにグッと顔を近づけて他の乗船客に聞こえない声量で言うのだ。


「プリンセスとお見受けします」

「「!」」


 知られている。いくらウェディンが顔を隠さず幅広く活動しているとは言え、少なくともオレがいる時にこんな風に声をかけられるのは初めてだ。

 続けて男性は話す。


「自分は『神赦譜術(プロミスト・)教会(リリジョン)』のザイと申します」


 再び目を見張る、オレとウェディン。


神赦譜術(プロミスト・)教会(リリジョン)』――祭事の頂点だ。


「先ほどの女性は教皇ステイ・クラリティーさま。

 教皇が御三方と話をしたいと。

 いかがされますか?」


 目を見合わせる、オレたち。

 ついで件の美女親子が消えて行った方を見て。

 教皇ステイ・クラリティー。キリスト・イスラム・仏等々問わずその頂点にいる彼女と彼女の家族の安全の為、普段教皇として表に出る時は常に白いベールを顔にかけ、人種も年齢も不詳の人物だ。

 そんな人からの接触!

 ベールを被っていないと言う事は今はプライベートなのだろう。こちらも騒いではいけない。心を落ち着ける為に一度深呼吸を。

 そして改めて目を合わせる。

 燦覇は今一つ分かっていないようだが、オレの答えはもう決まっていた。迷っていない目を見るにどうやらウェディンも決まっているようだ。

 だから二人一緒に口を開いて言うのだ。


「「お願いします」」


 ――と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ