第96話 ……無茶苦茶だな
飛びあがるタタムガル。
大きな部屋の天井ギリギリまで飛んで何事かを話し始める。
一人でだ。おまけに聞いた覚えのない言語。
得体のしれない銀色のエネルギーがタタムガルの背に集まる。集まって、二対の翼に。
金属(?)の翼に光が燈った。今度は青白い光で、二対の翼の中央に光は収斂する。
なんと言う攻撃的なエネルギー。
なんと言う膨大なエネルギー。
それを見て部屋に集まっていた人たちの多くが逃げるように避難しオレたちは臨戦態勢へ。
だが。
「え?」
目を見張るタタムガル。無理もない。自身の片翼が突如消失したのだから。
暴走して弾けるエネルギー。よろめくタタムガル、その首にいつの間にか背後を取った幽化さんの手がかかる。
そのまま床にまで落下。更に蹴打を加えてタタムガルを飛ばす。
「レヴナント」
幽化さん、パペット顕現。
彼の横に一つの角を持つ狼が現れた。毛の一本一本が鏡のような巨狼だ。
凄まじいまでの圧を放つ魔獣だ。
脅威を察したのかタタムガルが体を電子の空間に沈ませ始め――
「ジョーカー・コラプサー」
しかし幽化さんとレヴナントがジョーカーを起動させる。
するとどうだ?
「!」
タタムガルの体が分解されレヴナントの体に吸収されていくではないか。
そうだ、幽化さんのジョーカーは“吸収進化”。あらゆるエネルギーを喰らい進化する無敵の力だ。
「悪いな」
全く悪く思っていない表情で。
「させない」
体の半ばを失って、タタムガルの体に青白い光が燈る。
「いけない!」
タタムガルの目的に気づいたのだろう、ウェディンが声を上げた。が、時すでに遅し。
なんとタタムガルの体が大爆発を起こした。自爆だ。
だが。
そのエネルギーすらも吸収されて。
最後の手段だったろう自爆は結果として誰も、なにも傷つける事はなかった。
ん?
「……涙覇」
「いえ、まあ、一応」
そう言うのはオレだ。幽化さんの右横に跳びこんだオレの手の中には一つの銃弾があって。
幽化さんのヘッドショットを狙った一射だった。彼には効かないだろうとも思ったが咄嗟に体が動いていた。
「良くやった。防ぐは容易いが跳弾まで面倒はみないからな」
褒められた。正直超意外。
「コラプサー」
「なっ!」
吸収進化、起動。けれど全て起動させたのではなく力を利用して暗殺者を引き寄せただけで終わって。
強化ガラスを割って部屋に飛び込んできた男はごく普通の男だった。スーツを着こなし、公務員って感じ。だが首には不似合いなチョーカーが。
「くたばったウンリの親衛隊だな。
主ともども死ぬか」
男が至近距離から幽化さんを撃った。だがそれは当たらない。幽化さんが銃口を握りしめ暴発させたから。
「――!」
男の胸に穴が開く。幽化さんの銃に穿たれて。
「あ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
撃たれた男が急速に衰えていく。
力を失い、外見も老いて、立つ事すらできずに倒れ込み――いや、死んで横たわった、のか。
寿命と生命力を吸収されたのだ。
「さて。こいつらの仲間の処罰にはすでに他所が動いている。俺ももう行く。
お前たちは好きに動け。邪魔をしたら撃つぞ」
ひど。
しかし好きにと言われてもどうするか……。
「皆」
「ん?」
幽化さんが去るのと同時、窓辺に立っている真架に呼ばれた。なにやら外を指さしている。見ろ、と言う意味だろう。
割れた窓から外を見やると広がっていた光景は――
「……無茶苦茶だな、復興の為に必要な人材も物資も不足中ってか」
キュアの言うように、街は壊滅状態だった。
オービタルリングは現在プレオープン中で限定公開中だが、ここに勤めている人の家族を中心に百万人くらい居住していたはずだ。
ここに昇った際に人がいたから正常に動いているのだろうと思った。が、ひょっとして避難民だった?
「話を聞けるかしら?」
「散り散りになってるぜ。
ここに連中がいたのはVIP用の建物で頑強だからだろうが、今のでここも安全じゃないと察しただろうからな」
「ボクたちはまず生存者の支援に回るべきでは?」
「もう国議本部には連絡を入れたから、すぐにでも昇ってくるよ。
アタシたちはむしろ話を聞かれる立場かも」
「必要な事は話すよ。
ただその前にオレはロッケン=オーヴァーが動いたのかも気にな――ん?」
【覇】が鳴っている。
この音は緊急コールだ。どうやらここにいるメンバー全員に届いているようだが、なにかあったか?
コールに応答するアイコンを押してみるとメールが起動した。
内容は――
「会議への出席要請?」




