第92話 先ほどロッケン=オーヴァーより言葉が届きました
「言ったろ! あたしの刀は連結を斬る! とうにお前のブロックとあたしの体の接続は斬ってある!」
バックするバリエンスを追う為宙を蹴って一気に迫る。
「だがそうして身共に迫るって事はよ!」
右腕を振りかぶるバリエンス。
「その力には狭い射程があるんだろうが!」
キュアの前方が崩された。小さなブロックとなって割れた空間の穴に落ちぬよう急停止するキュア。いや、翼を操作し穴を飛び越えバリエンスを追撃する。
「器用だな! おぐ!」
刺突を顔面に受けてバリエンスの頬に傷がつく。
「つぅ! だけどよ!」
すぐに修復される。
「だったな!」
キュアによる連撃。
口、両肩、腹、足首。それぞれ貫かれて、それでもバリエンスはくず折れない。弱点たるものが見つからない。
しかも。
「気づいているか! てめえの攻撃には徐々に壁ができつつある! 解析が間に合ってんだ! 次第に効かなくなるぜ!」
「ならば!」
両断。バリエンスが縦に真っ二つにされる。
「シッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!」
その隙を逃さずキュアがまず右半身に刀を叩き込み粉々になるまで斬り砕く。おまけに花弁の業火で焼いて灰にして。
「解析が済む前にやるだけだろう!」
しかもこれで。
「弱点は左半身だ!」
「ハァ!」
裂帛の気合。吠えたのはバリエンス。
「なっ!」
なんと、空間全域がバリエンスの影響を受けて変貌したではないか。
これは――ガラスの……都市!
「っちぃ!」
舌を打つキュア。ガラスの都市がバリエンスの姿をかき消してしまったからだ。
都市全域にあいつの気配が充満しているせいで探し出せない。
「これで! 全てが身共の領域!」
たすけて
「「「――⁉」」」
いつの日にか聞いた声が、今、再び届いた。
たすけて
「誰だ!」
声を上げる、バリエンス。
あいつにも聞こえているのか。
たすけて
「身共になにを訴えてやがる! どこにいやがる!」
「バリエンス」
!
また、新たに声が加わった。
今度ははっきりとした女性の声だ。
「イリフか」
「今日はその辺りで。
手前たちに助けを求める声を無視できません。
追跡しますよ」
「……っち」
舌が打たれる。
同時に都市が元のキューブの世界に戻って――いや、虹の塔にまで戻った。
バリエンスも姿を見せている。失った半身を半端に再生させている姿で。
「イリフ、この塔の守護はどうする?」
半身の再生を続けながら、バリエンス。
「放棄で構いません。
先ほどロッケン=オーヴァーより言葉が届きました。
イギリスの塔が攻略された模様です」
「「「!」」」
「アルティウス! やられたのか!」
「ええ。ですのでもうここも守る必要はないと」
「……っ」
ギリッ、強く鳴るバリエンスの歯。
「……分かった。
強運を呪いな、キュア。
次はねえぞ」
「お前がな」
「ふん」
どこまでも挑発しあう二人。
しかしバリエンスの姿が『門』の向こうに消えて行く。
名残惜しむ姿など皆無ですぐに『門』は閉ざされて、けれど空の様子に変わりはなく。
が、開いた。天への道が。
日本とイギリス以外も開通したのかは分からないが、ここは確かに開いたのだ。
ならば。
「……昇ろう」
オレのセリフに皆それぞれ肯定を表明する。
ここで止まっていても意味はない。
開いた道、昇るだけだ。




