第91話 動揺なんていらないさ
だが喜ばないキュア。苦しまないバリエンス。
キュアは即バリエンスから距離を取って、
「ふん」
バリエンスの目が明滅。胸に空いた刀傷が治っていくではないか。
「身共はハナから人間じゃねえ。お前らが戦った連中よりも上の【世界の患い】。
これくらいやるさ。やるとも」
オレたちの戦いが終わっているのを確認し言葉が発せられる。
怒りは篭っているが薪をくべられた様子はない。てっきり仲間を失って更に怒ると思ったが違うらしい。
「連中は納得して消えたんだろう。なら身共が喚く必要はねえ」
「消えたと言うか、オレたちに託したんだが」
「だから? 連中の選択には文句はねえが身共の怒りに違いは出ねえぞ」
ダメか。少しは動揺してくれるとありがたいのに。
「動揺なんていらないさ。あろうがなかろうがあたしが斬る!」
「斬ってもムダなんだよ!」
「存在を固定する部位はあるだろうが!」
キュアによる連撃。バリエンスの眉間に穴が開き、首が斬られ、心臓を貫かれる。
しかし。
「あああるさ! 見つけられねえだろうがな!」
自ら体を解き、ベビーブルーの粒子へと変貌するバリエンス。
変貌し、キュアの真後ろで体を再構築。
拳打を撃つバリエンス、肘打ちを撃つキュア。二つがぶつかり合って衝撃波が二人を弾く。
いや、空気が爆発している?
「こいつのアイテム! 殴った対象を爆裂させるグローブだ!」
「インカウ! 古代戦艦オウコの砲塔を固めた二つのグローブ!
そしてジョーカー! クラウ!」
「!」
空間に穴が開いた。重力の穴ではない、小さなブロックが崩れるようにだ。
ブロックは宙を漂いキュアを囲い込む。
「まずは!」
ブロックの形が変わった。杭だ。杭となってキュアを襲う。
「っち!」
舌を打つキュア。
幾百にも及ぶ杭を避け続け、一つ二つと刺さり始める。
このままではじり貧。いずれやられそうだ。かと言って一対一の勝負に割り込むとキュアに斬られるだろう。ギリギリまではこのままだ。
「上を見な!」
と言われて素直に上を向くキュアではない。杭からもバリエンスからも視線をそらさない。しかし影が差した為にそっと目を向けた。オレたちも同じく向けて、ゾッとした。
上方の空間が広範囲に渡りブロックとなって崩れていく。いや針となって降ってくる。
まともに受ければ間違いなく体中に穴が開く。けれど避けられるほど狭い範囲攻撃ではない。
「積み木殺し!」
キュア、ジョーカー起動。刀を薙いで針の一つを斬った。
同時に消える針の集団。
「なに⁉」
「あたしのジョーカーは連結を斬る! 針と空間との接続を斬らせてもらった!」
「だが! 完全無敵の能力はない!」
ブロックが形を変えてバリエンスの体に装着されていく。悪しくはない。むしろ神々しい姿だ。
バリエンスは体を低くし、姿を消した。
「っつ!」
とっさに防御力を上げるキュア。そこに飛び込んでくるバリエンス。突貫だ。キュアが防御力を高めていなければ上半身と下半身が分かれていただろう。
「らぁ!」
刀を振るうキュア。
「喰うか!」
バリエンスの体から粒がまかれる。装着していたブロックが粒に変貌したのだ。
粒はキュアの体に付着し、
「おお⁉」
彼女の体に超速度の振動を加える。
そこに。
「ぐぅ!」
キュアの両肩、両手首、両足首を貫く杭。
「てめえらの救世主の如く心臓を貫いてやろうか!」
「させるか!」
「なに!」
躑躅色の花弁がバリエンスを包み込み、燃える。
キュアの刀の刀身、その内部に舞っていた花弁が外に出て業火となったのだ。
あんな事できたのか。
「だが!」
バリエンスが吠える。一切の苦悶のない声だ。
それもそのはず。ブロックを壁に変えて自身を守っていたのだから。
急拡大する壁に炎が蹴散らされる。
しかも。
「っ!」
壁に空いた隙間から槍になったブロックが飛びキュアの両掌を貫いた。
「すぐには動けねえだろう!」
「喰らってればな!」
キュアの顔が上がった。眼光も鋭く。口角も上がっていて笑っている。
「ぐぁ!」
急速に接敵していたバリエンスの右脚を刀で撃ち貫く。
「なぜ!」




