表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/73

第09話 ドーンとぶつかっていきなさい

 ◇


「なんの為に強くなりたい?」

「え?」

 

 ゼロをぎりぎりで追い返した夜、僕が生きているのを感づかれてはいけないとウェディンが言うものだからそれを了承し素直に家に帰った。

 父さんと母さんはまだ帰ってなくて代わりにメッセージが届いたのが二十時。それによるとまず僕たちが“通常のルール外”でXRを使用したのは不問とし、今後もロッケン=オーヴァーの件が片付くまで超法規的措置がとられるらしい。とは言え無闇な対人戦闘にはやはり罰則が適応される場合もあると言う。急ぎルールが整えられるだろう。そして父さんたち『星冠(ほしかむり)』も『三極(ヴィルーソ)』の二人と戦っていたとの事。痛み分けで終わったようだがその後『星冠(ほしかむり)』の本拠点【スローンズ】に召集され帰ってきたのが二十一時。

 ウェディンは父さんたちの帰還をこっそり確認するとイギリスへと帰っていった。しばらくして『お休みなさい』と言う音声メールが届いたのがなんとなく嬉しかった。当然僕も『お休みなさい』を返した。日本とイギリスの時差は八時間だからあちらは昼間だけれど。

 父さん母さんも疲れていたようだったから夜には起こった事だけを伝え、僕の希望は述べなかった。

 世界が大変な時に寝られるかなとも思いつつベッドに入った僕だったがしっかり二十三時から朝の七時まで熟睡できた。自分で思うよりも疲れていたようだ。

 一階に降りて朝食時、ここで僕は今の自分の気持ちを父さんたちに伝えた。

 

「強くなりたい」

 

 ――と。

 すると父さんから帰ってきた言葉が、

 

「なんの為に強くなりたい?」

 

だった。

 なんの為……そりゃこれまでの夢通りに父さんを超える為で……。

 そして死にたくはないからで――

 

「父さんを――オレを超える。なんの為に?

 そもそも涙覇(るいは)が【治す世界(クラーツィ・モンド)】を相手にする必要はないだろう?

 涙覇は世界の守護者じゃない。政治家でもない。軍人でもない。

 ならどうして刃を振るう? 刃に乗せる想いはなんだい?

 どうして今、強さが欲しい?」

「えぇ……」

 

 そこまでは考えなかった。ただ単純に目標とする人を父さんに定め、父さんを超える事こそ親孝行にもなるだろうと考えた。

 が、なんの為……親孝行? いや、これは後付けだな……じゃあ、どうして僕は父さんを超えたい? どうして強くなりたい?

 今の状況に照らし合わせるなら強くならなければ()きていけそうにないから。

 殺されるから。

 だけれど夢を持ったのは今じゃない。

 流されて生きるのも良くはない。

 僕は……。

 と、顔を俯けていると。

 

「母さん?」

 

 に、顔を抱きしめられた。

 

「ワタシはね、父さんと――(よい)と並んで活きたかったんだよ」

「え?」

「ワタシが『星冠(ほしかむり)』第一等級だった頃宵は第零等級だった。

 それがとても苦しくて、悔しくて、情けなかった。

 宵と並び立ちたい、この人と一緒に活きたい。

 宵が苦しい時その苦しみを理解できる人になりたい。

 宵が嬉しい時その嬉しさを理解できる人になりたい。

 だから強くなりたかった。

 涙覇にはいない? そう言う人」

 

 一緒に、並んで活きたい人……。

 あっさり顔が浮かんでしまった。

 

「……ウェディン」

 

 僕の最大のライバルで、最大の友達で、最大の……恋する相手。

 お姉さんであると知って驚き、お姫さまであると知って驚き、ちょっとまずいかなと思った。ドームでやっている事がばれたら、僕といる時間が多い事がばれたら……。一般人の僕と、て。

 

「悩む必要なんてないんだ、涙覇。

 今の自分では彼女に合わないと思うなら、なりたい自分に目標を定め、その為に強くなれば良い」

「……うん」

「でも彼女を言いわけに使ってはダメだよ。

 涙覇は涙覇自身の為に強くなるの」

「うん。

 ありがとう、父さん、母さん」

 

 戦う理由は理解した。自分の心に確信を持てた。

 僕は親に恵まれている、な。

 

「あ、ところで二人ってウェディンの正体知ってたりする?」

 

 確か『星冠(ほしかむり)』は――

 

「そりゃあ」

「ねえ」

「「『星冠(ほしかむり)』の最大のスポンサーは【王室エポック・リンク】だから」」

 

 声を揃えてこう言う。

 やっぱり知っていたか。

 

「教えてほしか――いや、ううん、やっぱ良いや。

 親のコネで知ってもあれだろうし」

「そうだな、プリンセス・リアが教えて良いと思った時に知れば良いと思っていた」

「そして彼女は涙覇に教えた。これは大きな一歩だよ。ドーンとぶつかっていきなさい」

「ん」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ