第87話 自身の怒りは自身で乗り越えるしかない
と、安心したりほっこりしていられる状況ではなかった。
オレは急ぎ別のスフィアへと目を配る。
が様々なサーチを阻害されているせいでやはりどのスフィアに誰がいるのか分からずに。
「あ、アウサンはあそこ」
「え?」
あそこと言いながら真架が指さす先は当然一つのスフィア。
「たまに声が聞こえるから」
「そっか」
では、と言う事でそのスフィアへと近寄って。
「!」
近寄る途中でスフィアに異変があった。スフィアを形作る無数の【世界の患い】が集合し五体の人型になったのだ。
「ふむ、足りなくなった感覚を合わせて補おうと言うのか」
五体の中央にはこう言うアウサン。
彼の目がオレたちに向いて一つ頷きすぐにそらされて。
「アウサンのジョーカー・ベリープルは五感を一つずつ奪う毒だよ」
「ああ。奪ったものの融合されて補われたのが今、って事か」
「うん」
五体の【世界の患い】が手に黒い矛を生み出した。
まずは一体がアウサンへと仕掛ける。仮称エネミーAとでも呼ぼうか。
エネミーAは正面からアウサンに向けて矛を振り上げ――腹に目が開かれ光線が放たれた。
しかしアウサンのアイテムである無数のナイフ・フェリオンによって防がれる。
アウサンの下方にエネミーB。
上方にエネミーC。
後方にエネミーD。
前方にエネミーE。
元々正面にいたエネミーAは無数の目玉に化けた。
光線と矛による攻撃の乱舞。エネミーAが放つ光線が防がれるとすぐに矛による攻撃が行われ、矛がアウサンの動きを封じるとすぐに死角から光線が放たれる。
けれどもアウサンはナイフで全てを捌ききる。死角からの攻撃も見えているようにだ。
「見えているんだよ。彼はパペット・トレリオンの目だけを顕現・共有する事ができるから」
なんと。
「死角なし、なんだよね」
それにも驚きだが、見えているからと言って全て捌く彼の判断の速さと体術にも驚きだ。
ナイフを操るのに思考しているだろうに反応が一秒もかかっていない。
体を操るのにだって思考しているだろうにぶっちゃけナイフより速い。
頭脳派の印象があったがなかなかどうして。
埒が明かないと思ったのかエネミーBも目玉の群体に化けた。
増えた目玉から一斉に光線が放たれる、が、ナイフが編み込まれて球形にアウサンを守る。
しかもなんと、鏡のような刃で光線を反射したではないか。
ランダムな反射ではない。的確に目玉一つ一つを狙った反射だ。ゆえにこれは最早反撃。
光線に貫かれた目玉はどうなる? 自身の怒りを食らった事になるが。
――……っあ!――
苦しんでいる。苦悶の声が漏れている。
「そうか。甘味部分が!」
怒気に浸食されているのか。
「苦しむが良いさ」
編まれたナイフを三つの壁に分解しながら、アウサン。
「自身の怒りは自身で乗り越えるしかない。
これはお前たちが乗り越えなければならない絶対的な巨山だ。
その為に一度、落ちろ」