第86話 想いをよろしく、心に触れる少女よ
――オオオオオオオオ――
【世界の患い】が手を伸ばしている。光るキャンディーにすがるように手を伸ばしている。これは真架による操作ではないな。【世界の患い】が操作を上回る力を自ら発揮しているのだ。
――我らに、このような――
異常なレベルの力の発揮に驚いているのか、それとも光のキャンディーの力強さに驚いているのか。
――この、ような――
泣いている。【世界の患い】がキャンディーに手を伸ばして泣いている。
彼ら彼女らに目はないのに、どこからか流れる涙。
今トゥルーフォルスの心に触れているのだ。苦味だけではない甘味に。
キャンディーの放つ光に【世界の患い】の指先が届いた。
それをきっかけに指先から黒い色が白い色に変わっていく。
――トゥルーフォルス、あなたは苦しんでいるのか――
――せめぎ合う許せぬ怒りと許したいと願う悲しみに――
――気づけずすまない――
――力になれずすまない――
――せめて我らの心を未来へ――
「?」
キャンディーが真架の胸へと飛来する。飛来し、その胸へと溶けて消えて。
――我らの存在意義は崩れた――
――体は朽ち、されど想いは遺る――
――想いをよろしく、心に触れる少女よ――
「……分かった」
【世界の患い】が消えて行く。白に染まった体、その指先から崩れて消えて行く。石が砂になるように。
「アタシ」
オレの傍まで寄って、真架は口を開く。消えて行く【世界の患い】から目をそらさずに。
「綉を心に触れるって表現されたの初めて」
「……そっか」
「うん」
【世界の患い】の最後の一粒が舞っていくまで目をそらさずに。
どこか、嬉しそうに、優し気に微笑みながら。