第85話 自分の中にある光と向き合って
強く右手を握り込んだその時、爆発音が聞こえた。
黒いスフィア――【世界の患い】によって形成された球体の一つからだ。
スフィアの間から見える中の様子は煙が充満していて詳細不明だが、きっとキューブによる爆発だろう。
オレは爆発のあったスフィアに向けて飛翔し、
「中にいるのは誰だ⁉」
と叫んだ。
こちらの戦闘とあちらの戦闘による移動と妨害で誰が閉じ込められたスフィアか分からなくなっていたからだ。
オレの声に応えたのは。
「アタシ!」
真架だ。
「待ってな! すぐにスフィアを破る!」
スフィアを作る無数の黒い人影【世界の患い】の背に目が開かれた。
例の光線が来る、と思った。身構えたが数秒待っても攻撃は来ずに。
「涙覇! 大丈夫! もう侵入した!」
スフィアが解けていく。いや、【世界の患い】が膝を着く?
中から現れたのは当然真架だ。
彼女に対して【世界の患い】がこぞって膝を着いている。
そうか、真架とジョハのジョーカー・綉だ。確か侵入能力。
「……ごめん、本当はこんな形で心を捻じ曲げるのは好きじゃないのだけれど」
膝を着く【世界の患い】の間を通ってオレへと向かってくる真架。
本当に申しわけなさそうな表情だ。
――ならば――
「「――!」」
――ここで死して詫びろ――
膝を着く【世界の患い】からの声か。
操られているにもかかわらず抵抗する意思が生きているのだ。
死して、と言っているがなにかをしてくる様子はない。真架に対して怒りがあるものの体が動かないのだろう。
「……なら、自分の中にある光と向き合って」
――必要ない。怒りこそ生。生きる理由だ――
「キミたちの中に光があるのには気づいている。トゥルーフォルスって言う人の事をアタシは知らない。けど、意味なく光を残しているとは思わない。それこそ必要ないから。
だから、キミたちが光と向かい合うのは義務であり、義理。
親に対して不義理を働くの?」
――そのような事――
「光を浮上させてあげる。
ちゃんと見て」
真架の操作下にある【世界の患い】は震えている。なんとか体を動かそうとしている。が、彼ら彼女らの体に藤色の光が一瞬走った。ジョーカー・綉の力が強く注ぎ込まれたのだ。
光を浮上させる、真架はそう言った。
そしてその言葉を現実にするように【世界の患い】の胸から小さく輝く包みが排出された。一粒の光のキャンディーを包んだ紙だ。
膝を着く全ての【世界の患い】の胸から現れたキャンディーは中央に集まり、包みを解いてゆく。
包み紙の中に収まっていたキャンディーが溶けあい、一つに。
「見なさい。
これがキミたちに託されたトゥルーフォルスの思いだよ」