第84話 怒り以外の感情を知れ!
右腕と左腕、双方を使い光線を防ぎクナイで眼球を落としていく。
「これで!」
最後の一つだ。
クナイが眼球を貫いて、落とす。
全ての眼球を落とし終えた。
下には落ちた眼球がたまっていて――合流し合体し一つの大きな目になった。
まだ動くのか!
「!」
オレの左右前後を囲むようにキューブが配置された。
上は開いているが、これなら逃げられるぞ?
なんて考えは甘かった。
大眼球からキューブの中を通る極大の光線が放たれたからだ。
そうか、オレの速度よりも光線の方が速いと見て上空は塞がなかったのか。
正しい。
オレと光線では光線の方が速い。
「それがどうした!」
極大光線に包まれる。
強く心を持て。
この光線は心を心で侵食し機能停止させるものだ。
「太陽のように!」
だから。
「綺羅めけ!」
心を折られなければ。
やり過ごせる!
「オ――――――――――――――――――――――――――――――――――ォ!」
極大光線の中、降下するオレ。
クナイを全て光の刀剣に。一条の流星となって大眼球を――大眼球がバリアを展開。
「まだだ!」
一瞬バリアに止められる。が、『凛凛翼』の威力を最大に。
バリアを貫いた。
光の刀剣が大眼球に届き貫き、こちらの感情をダイレクトに流し込む。
「お前があの祈りの菓子たちの化身だと言うのなら!」
オレの心に触れてみろ!
心に触れて成長しろ!
「怒り以外の感情を知れ!」
潜り込め。こいつの心の奥底へ。
トゥルーフォルスがなにを考えこいつらを産み落としたのかは分からない。
本当にただ復讐の為かもしれない。
が、オレに見せた姿も彼の一面ならば、きっとこいつにも苦味だけではなく甘味を残している。
甘味を探し出し、底から浮上させろ。
「!」
怒気が抵抗してくる。
オレを押しやろうと。
「敗・け・る・か!」
怒気の河を泳げ。暗い河を潜れ。もっと深く。
希望に手を伸ばす。触れる。
希望よ、こいつの甘味を輝かせてくれ。
「――見えた!」
暗い怒気の河に小石のような光、紙に包まれた小さな菓子が一つ。
それに指の先が、届いた。
包みの紙が解かれる。
中からは強く輝く光のキャンディー一粒が出てきて。
「さあ!」
照らせ!
――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!――
押し込めていた自身の光を浮上させろ! そして笑え!
お前だって、楽しく活きて良いのだから!
「その怒気に包まれていた手で!」
光の刀剣を消す。消して、オレは利き腕である右腕を伸ばした。手を広げる。
「オレの手を取ってみろ!」
こちらの手が汚れていても、お前の手が汚れていても、取り合える手があるのだから。
大眼球の姿が解けた。
多くいた【世界の患い】はたった一人の黒い影に。
そいつがオレの右手に向かって右手を伸ばし――遂に取った。
重なった二つの手から閃光が放たれる。
広がる閃光は向きを変えて【世界の患い】に殺到し、黒い影を照らしていく。
黒い影は白い人型へ色を変え、ゆっくりとその姿が消えて行く。
ゆっくり、ゆっくりと光の粒子になって消えて行く。
頭が消え、胴体が消え、脚が消え、繋がった右手を最後まで残して、やがて右手も消えて。
「?」
オレの右手に違和感。
広げてみるとそこには光るキャンディーが一粒あった。
しかしそのキャンディーも消えて行く。消滅していくのではない。溶けてオレの右手へと染みていくのだ。
「……ああ、そうか」
【世界の患い】は心を成長させて、暖かな心をオレに遺して、オレを成長させる一助になるのを選んだのだ。
ならばもうオレはお前を【世界の患い】とは呼ばない。
「お前はそう、最期の瞬間、“仲間”だったよ」
友とは違うのかもしれない。
けれど、共に歩む“仲間”になった、そう言う事で良いだろう?
「一緒に行こう」
オレと一緒に。ずっと。