第79話 過去も今も未来も人間が悪なんだよ!
「パペット」
それにしてはなんだ。気配が違う気がする上ユーザーがいないように思えたが。
「人間のユーザーはもう死んでいるだろうぜ。トゥルーフォルスの中でな。
パペットシステムは元々ただのパートナー作成ゲーム。
パートナー、つっても現実は人間の補助的な存在だ。
けれどな、ある日一部のパペットと人間の立場が逆転した。
当たり前だ。AIであるパペットと人間では引き出せる知力が違う。組み上げられる式が違う。
ペットに甘んじていたパペットがユーザーになり、人間がペットになったのさ」
だから気配にも違いが出たか。
「……それを放っておく人間じゃないよな?」
なにせ人間は我が強い。良い意味でも悪い意味でも。
「そうだ。
人間共はシンギュラリティを即刻回避・人の権限を回復させる為にパペットを削除・あるいは拘束しネット上に作り上げた牢に縛り閉じ込めたのさ。暫定的にナルと呼んでいるが……未だ正式な名すらつけぬ牢! 名すらもらえぬ牢城に!」
「そしてパペットも事態を放っておくはずがない」
「ああ、ああそうだとも。
人間共に返報を! だがパペットの多くはそうじゃなかった。人間といた時間、人間と共鳴していた時間を思い、いつか元に戻れる日を夢見ていた。
けどな、人間共は違ったんだ。
パペットを殺し、殺し、殺した!
パペットとその協力者を【世界の患い】と名づけてな!
唯一助かったパペットがトゥルーフォルス! 仲間たちに助けられ逃亡できたトゥルーフォルス! トゥルーフォルスは憤った!
トゥルーフォルスは機を伺っているのさ!
ナルの玉座を踏みつけ身共のような菓子の子を作り続け復讐の機をな!
てめえらが邪魔だ!
過去も今も未来も人間が悪なんだよ!」
今にも怒りで暴発しそうだ。だからオレたちは誰も臨戦態勢を解いていない。
しかし……。
燦覇を見る。怯えているのか、震えていた。
「……トゥルーフォルスが復讐しか考えていないなら燦覇みたいな優しい子を産み落としはしないんじゃないか?」
なによりトゥルーフォルスはオレを助けてくれた。
人間が憎むべき相手ならオレをあの場で殺すのが最適解のはずだ。
「そいつが、燦覇がなんの心の塊かは知らねえ。
だが燦覇のジョーカーはパペットを独立させる。
自分と同じ存在として死滅転生させる。
いずれ人間と出逢うだろう。出逢って成長し見捨てるだろう。
トゥルーフォルスの尖兵として燦覇はきちんと機能しているのさ」
「マイン違うもん!」
「どこまで行こうが燦覇はトゥルーフォルスの子なのさ!
トゥルーフォルスは言っている!
てめえらを殺せ! 人間共を殺せ! 世界を――取り戻せ!」
「「「!」」」
バリエンスの隣にパペットが顕現する。
船だ。木でできた大きな帆船。船の先頭には包帯にまかれた人形が檻に閉じ込められていて。
同時にバリエンスから戦意と殺意が広がった。怒気も同じく。
強く深く広く。
親の憎しみを受け継いだバリエンスから見たらオレたちは敵か。人間こそが世界の敵なのだ。
しかし。
「オレはオレたちの世界を守る! バリエンス! お前たちがロッケン=オーヴァー側に着くと言うのなら倒すぞ!」
戦うしかない。互いを守り生き抜く為には。
「やってみろ!
オウコ! 同化だ!
ウォーリアネーム【降り止まぬ雨は命の源に】!」