第77話 ここは……
「全員いる?」
ウェディンの確認にそれぞれが応えて。
上昇していた虹の塔の浮遊機能もなくなったようで一瞬体が落ちかけるがすぐに翼の浮力で体を浮かせる。
同時に色々分析。空気はある、呼吸できるから。重力は1G。毒がまかれている様子はない。無数に浮かぶ大小様々なカラフルなキューブに足を着くが罠もない。床に、正方形のブロックが埋め込まれている平坦な白い床に足を着く者もいたがそちらも罠はないようだ。
「ここは……夢の世界に似ているけど」
それでも違和感がある。なによりオレたち寝ていないし。
「電子の世界さ」
「「「!」」」
油断はしていなかった。全員が突然の奇襲にあわないよう気配には敏感になっていただろう。だが不意に響いた誰かの声に目を見張り――ゾ……、気温が下がったように感じた。肌には鳥肌が立っていて身震いを何度かする。これは殺気――か?
「身共が形成したメタバース上位エリア。
体ごと入ってもらった」
「!」
突然だ。目を開けているのに視界が真っ暗闇に沈み、体中を剣に貫かれるイメージ。
そう、これはイメージだ。圧倒的な殺意が見せる幻想。
けれどもこれだけで本当に殺されてしまいそうな痛みのあるイメージ。
このままでは殺意に殺される。
「――ォ!」
頭に衝撃。自分で自分を殴ったのだ。
痛みでオレは我を取り戻し、
「戻った、か」
元のキューブの世界へと帰還した。
どうやらいつの間にか倒れていたようで体を起こし、
「皆!」
まだオレ以外が倒れたままだったからまずは傍にいるウェディンに駆け寄り抱き起した。彼女は涙を流していた。呼吸もまともにできていない。オレと同じく殺意の攻撃を喰らっているのだろう。
「ごめん」
一言謝ってウェディンの頬をひと叩き。
すると。
「――はっ!」
ウェディンが止めていた呼吸を取り戻す。
「やろう!」
そこで下方から声が。キュアだ。自力で生還したらしい。
「ありがとう……涙覇。燦覇を」
「ああ」
ウェディンの横に倒れている燦覇にもひと叩き。
「燦覇!」
「いった――い!」
燦覇も覚醒。今の痛いはビンタに対してだろうか殺意に対してだろうか。後者にしておこう。
「キュア! 真架とアウサンは⁉」
「真架にはビンタ! アウサンは蹴った! どっちも戻ってるぜ!」
蹴らんでも良かった気がするが、置いとこう。
「どこのどいつだ! 出てきやがれ!」
怒号を上げるキュア。
そして抑えられるオレたちに向けられる殺意。
だから気づけた。
得体のしれない視線がある事に。
目を向ける。少し先にある浮かぶキューブ。そこにこちらを覗き込むように見つめる人物がいた。