第75話 バーチャル重ねているだけだ
家を出て、カプセルタクシースポットまで歩き、タクシーへ乗る。『門』を開いても良かったのだがもうちょっと時間があるのと燦覇に少しでも多くの事を経験してもらおうと思ったのでこっちを選んだ。
カプセルタクシーは無人のAI搭載自動運転タクシーだ。
「えっと」
行き先を音声入力し、生体認証で料金を先払い、動き出した。
スムーズに車道に合流して時速五十キロメートルで進む。
これにもレビテーション――浮遊システムが使われているからガタゴトと揺れたりもせず実に快適。
事故はまあ数える程度には起きているがそれは人による運転よりもずっと少ない数だったりする。安全と言えるだろう。
高速に乗った。少しそのまま進んで。
「もうすぐ西京を出るよ、燦覇」
「なんかある?」
「ゲートがあるくらいなんだけどね」
少し派手なのが。
「おお」
そのゲートを目にして、燦覇。
「『行ってらっしゃいませ』と『おこしやす』って書いてた」
「うん」
「『お帰りなさい』と『おおきに』って書いてる」
ゲートを振り返って。
「お家みたいだね」
「そうだね、故郷ってそう言うもんかな」
タクシーは順当に進み、高速を降りた。
一般道を進み、目的地近くに着いた。
肝心の目的地は歩行者天国の中にあるのでここからは歩きだ。
「さ、降り――」
降りようか、と言おうとしたのだが自動で開くはずのドアが開かない。手動で開けようとするもやはり開かない。
「涙覇、あれ」
「うん?」
燦覇の指差すフロントガラスを見てみるとそこには『ごめんなさい』の文字が。
「……またか」
タクシーのAIには会話機能はない。あくまで運転用のAIだ。
だからこれは別の誰かからのメッセージ。
きっと「たすけて」と同じ人(?)からの。
「あ、涙覇、鍵あいたよ」
ドアの、だ。
そして自動で開いたので降りる。
「せめて名乗ってくれたらなあ」
謎の人物はピンチに陥っているのだと思う。けれどこれでは助けにも行けない。どうしたもんか……。
タクシーが去って行く。自動でカプセルタクシースポットまで行って次の乗客を待つのだ。
「人がいっぱいだ」
「あ、ああ。ここから先は車が入れない歩行者天国。ショップがいっぱいあるよ」
とは言っても目的地に行かねばならないからのんびり見ている時間はないのだが。
「さ、行こう」
「うん」
目的地は以前夢の世界【夜色】から戻った時に皆と合流したカフェだ。
あっちこっちに寄り道しようとする燦覇をなんとかまっすぐ歩かせ到着してみると、
「おっす~」
以前と同じように真架・ジョハ・アウサンがいた。早いなこの三人。
「や」
「こんちゃ! 知らないおじさんがいる」
「おじ……ボクは二十四だ」
軽くショックを受けるアウサン。まあ燦覇から見たらおじさんか。
お店の外にある席に座っていた三人と同じテーブル席に着いて、五分弱。
「よお」
「お待たせ」
キュアとウェディンが到着した。
「生で見ると目が痛い!」
「オオ? あたしの髪か燦覇?」
「うん」
「これ染めてないぜ。バーチャル重ねているだけだ」
え? そうなん? ずっと同じ色だから染めてんだと思っていた。
最近はメイクと言えばバーチャルメイクが主流で確かに髪でも遊ぶ人が多い。だから同じ人間でも髪色が色々とカラフルなのだ。
「ほれ」
と言いながらバーチャルカラーを解くキュア。現れた本当の髪色は――
「ただの茶髪なんだよなあ。くすんだ茶だ。
つまんねえだろこれ。でも染めようとしたら周りに止められてよぉ。
だからバーチャルメイクで、なんだ」
再び髪色を変えるキュア。躑躅色のツインテールに戻った。
「んじゃ『綾なす塔』に行こうぜ、攻略攻略」
うずうずしているキュアが歩き出してしまったもんだからオレたちも慌てて後を追う。
ちゃんとお金を払ってお店を出て、改めて京に建つ『綾なす塔』を見上げた。
一対の赤い翼に守られた日本の『綾なす塔』。
鬼が出るか蛇が出るか。
行くか。