第74話 行こうか、燦覇
『星織紙』の事だ。
「ん~」
秘密だけど、親しい人皆が知っているのに燦覇だけに教えないのは……気分が良くないな。別に漏らしたら罰金とかがあるのでもないし。
だから。
「そうだよ」
この後、『星織紙』について少し詳しく話した。
彼女のデザイン時、色の設定に苦労した事。
服装を決めるのにデザイナーとしての勉強をした事。
人を魅了する声を追求した事。
AIを作る時性格にオレっぽさを残した事。
初めて喋った言葉が“お父さま”である事。
初めて歌った唄がカエルの唄だった事。
初めて踊ったダンスで失敗した事。
世界最高峰のバーチャルAIアーティストとして採用された時、共に涙した事。
そして。
「お父さま」
「お?」
こうして仕事の合間には必ず逢いに来てくれる事。
「本物だー!」
「おや? この子は?」
「ああ、この子は――」
『星織紙』にも燦覇について教えた。
現状も一緒に伝えると。
「月曜は仕事です。ご一緒できずごめんなさい」
自身にオーバーレイ・サードを起動させ、燦覇を膝の上に乗せながら。
「いや、謝る必要はないよ。『星織紙』は自分のやりたい事をやっときな。
オレたちも絶対に帰ってくるから」
「……はい。またライブに来てくださいね」
「ああ、勿論」
「燦覇もいつの日か来てね」
「絶対行く!」
「ありがとう。では、Iはこれで」
「うん。バイバイ。フレグリスに会ったらよろしく言っといて」
フレグリス=スワロウ、夢の世界の防人『グリッター』の長だ。
「バイバーイ。またね」
「はい、バイバイ」
『門』を開き、去って行く『星織紙』。
彼女の姿が見えなくなって『門』が閉じられても、
「綺麗だった!」
燦覇、興奮収まらずに。
オレが初めて芸能人を見た時の反応に似ているな。
この後寝るまで燦覇の気持ちは昂ったままだった。て言うか寝言で『星織紙』の唄を真似て歌っていた。
生みの親としてなんだか妙にこそばゆかったのを記しておく。
「オレも寝よ」
今日の日記を書き終えてウィンドウを閉じようとした時だ。
たすけて
と言う文字が日記にポツンと記された。
「怖いって」
ジョハのイタズラ、じゃないよな?
一体誰がなにから助けてほしいと願っているのだろう?
布団に入り、目を閉じる。
誰かが続きを書くかと思ってウィンドウは閉じずに。
けれど朝を迎えても続きはなにも書かれていなかった。
「ふう」
ヘルプメッセージについて気にはなるものの気にしすぎても埒が明かなそうなのでいったん保留。
ウィンドウを閉じてオレは一階で顔を洗った。
すっきりしたところでもう一度二階の自室に戻り燦覇を起こし、今日一日はのんびり過ごす事にした。休息、大事。
燦覇とゲームをしたり、ウェディンとキュアから日本に到着・ホテルに着いたとの報告を受けたり、買い物に行ったり、夏休みの宿題をやったり。
そうして一日は過ぎ夜がやってきた。
日記を書いて布団に入って目を閉じる。
ほどなくして眠気に襲われ――あ、そうだ。戦いがひと段落したら燦覇を夢の世界に連れて行ってあげよう。きっと驚くもののすぐに馴染んで楽しみだすだろう。オレもそれを見ながら一緒に遊ぶのだ。
なんて考えていたら意識がゆっくりと閉ざされていき――気づけば朝になっていた。
うん、睡眠八時間、しっかり眠ったな。
布団から出て朝すべき事も全て終え、少し時間をゆったり過ごし、そして。
「行こうか、燦覇」
「うん」
皆と合流して『綾なす塔』へ赴く時間が迫ってきた。