第73話 この子、涙覇の子供なの?
一時間が経過し、オレの部屋。
「攻略決行日は世界標準時で次の月曜だってさ」
起きた燦覇が一階で夕食を摂っている中、オレはウェディンとキュアの二人と映像通信中だ。
「了解だ。んじゃ前日に日本入りするわ。お前んちに泊めてく――」
「ダメよキュア。ダメ、絶対」
「ホテル代もったいないだろ」
「だからって男の子の家に泊まらないの」
「男っつってもこいつだぞ」
こいつ。オレの事です。
「涙覇だって時には狼になるのよ」
「はっはっ。逆に喰ってやるよ」
「ダメよ絶対!」
う~ん、オレが置いてけぼりになっているな、オレの話してんのに。
「私とホテルに泊まるの。割り勘なら良いでしょ、安くなって」
「わーたよ。っち、涙覇の部屋漁ろうと思ってたのに」
「やめてください」
「お? ヤバいもんあんのか?」
「ないけどね。……ないけどね」
「なんで迷った? オイ?」
いや、男目線ではなくとも女目線だとどうかなって考えただけですよ、うん。
「たっだいまー。ご飯おいしかった!」
「オオ、お帰り燦覇」
「ちゃんと歯磨いて来たよ、偉い?」
「偉い偉い」
オレの言葉を聞きながらベッドにダイブ、燦覇。
「……涙覇、一緒のベッドでは寝てないでしょうね」
「寝てないから。ウェディン」
「ならよろしい」
「ウェディンよぉ、あんま縛ると涙覇も浮気すんぞ」
「んな!」
や、しませんし?
「忘れんなよ、涙覇は『星織紙』の生みの親。
ひょっとしたらそれ繋がりで美人なタレントと会っているかも知んねえぞ」
「……っつ! どうなの涙覇!」
「どうもこうも『星織紙』の親って事は秘密だって」
「そ、そうよね」
「いやあ、秘密を餌に釣っている可能性も」
「ないわ」
「匂わせぐらいしてるだろ」
「して――」
ふと、部屋を見る。『星織紙』のバーチャルフィギュアが一体ある方向を。ベッドの頭の方にあって、燦覇が今夢中になっているフィギュア。実体があるのではなくホログラム表示されているフィギュアで、踊っていたりする。音声だって出る。
これ、非売品なんだよね。『星織紙』から貰ったものだ。
「――ない」
匂わせにはならない、よな?
「迷ったな」
「迷ったわね」
「意気投合しないでくれる?」
迷ったけどさ。
「と、とにかく、決戦は月曜!
他に呼んでおきたいメンバーは?」
「話は聞かせてもらったー!」
「「「は?」」」
突如部屋に響く声。表示されるウィンドウ。
そこに映ったのはなんと。
「ジョハ!」
「ハァイ、皆元気ー?
真架もいるよ」
「どうも」
「ど、どうも。ってかいつから聞いてた? どうやって聞いてた? なんで聞いてた?」
「ふ、うちと真架に入り込めない場所なんてないのだ」
「怖いんだが?」
「そっちの子、燦覇を見張るようにって上からの指示。アタシたちの意志ではないよ、仕事」
「あ、ああ、そっか」
いやそれでもねえ?
「うちたちも参加するよ、決戦。
建前は仕事。本音は一緒したいだけ。
今ならもれなくアウサンもついて来ます」
「アタシたちを見張ると言う意味で」
……成程。大変だな、そっちも。
オレはセキュリティを強化しとこう。向こうにとっては仕事でもいやんな場所まで見られるのはちょっとね。
「構わないよ。防がれるならしようがない。むしろ防いで」
どうやら真架にとって面白い仕事ではないようだ。
「うちにとってもだよ? 本当だよ?」
念を押されると嘘っぽいぞ、ジョハ?
「んじゃ、少なくともこのメンバーとアウサンで行くと。
他に偶然一緒になる人たちもいるだろうから、ケンカしないようにキュア」
「なんであたしにだけ言うんだ涙覇?」
ケンカっ早いからです。
「深い意味はないっす」
「ふん。役に立たない連中なら置いて昇るぜあたしは」
そう言うとこだよ、そう言うとこ。
「月曜までは二日。それまで各自体調に気をつけて。
それじゃあまた」
オレの締めの言葉に、
「おう」
「りょーかい」
「ええ」
キュア、ジョハ・真架が返事をしてウィンドウが閉じられ、
「また連絡するわ。涙覇も体調崩さないようにね。バイバイ」
「ん、バイバイ」
最後にウェディンを映していたウィンドウが閉じられた。
机に向かっていたオレは椅子に背を預けて一呼吸。
「ねえねえ涙覇」
「うん?」
「この子、涙覇の子供なの?」