第72話 ちゃんと生きて帰ってくるよ
それから二十分が経って。
「え、父さんたち行かないの?」
燦覇をベッドに寝かせ、ウェディンに成功した旨を報告し今、帰ってきた父さん母さんと食事中。
そこで『綾なす塔』攻略について聞いてみたのだが。
「ああ、オレたちは【スローンズ】に残るんだ」
との事だ。
【スローンズ】――父さん母さんの所属する『星冠』の本拠点である。『星冠』構成員しか入れない特殊な人工空間で場所は秘匿されている。
「第零等級からも何人かは攻略に行くけど、実は本命はそっちじゃない」
言葉を綴る父さんを母さんが見る。話して良いの? って感じかな。これに対して父さんは。
「良いんだ。最高管理には許可を貰っているから」
「いつの間に」
「涙月たちが『今度女だけで世界一周旅行しようね~』って言ってた時」
「え? なんの事? 分かんない」
母さんや。旦那も息子も置いて遊びに行く気ですか。
「まあ息抜きも良いさタマにならね。
で、命をかける戦いになるかもだから家族には話して良いってさ」
「ああ、そっか」
「ちょっと待って。命って?」
攻略に行かないのに? あ、でも本命云々って言ってたっけ。
「『綾なす塔』攻略に多くの人間を多くの組織から出すのは他が手薄と思わせてロッケン=オーヴァーを誘い出す為だ」
「!」
「その中でも御導 心迎氏を匿うオレたちの元に現れる可能性は高い」
御導 心迎。ロッケン=オーヴァーを削除する為の軍事AIコンピュータワクチン。女性で現在『星冠』と行動を共にしている。
「全組織、対ロッケン=オーヴァーを見据えて戦員を配置している。どこに現れるにしても一人ではこないだろう。大きな戦いになる。【スローンズ】に現れれば当然父さんたちも闘いに加わり、無事で済むかは分からない」
だから家族には前もっての挨拶を許可された、か。
「けどまあ、さようならはなしにしようか」
「ワタシたちだって死にに行くんじゃないからね」
「そうだ。勝って生き抜く為に戦うんだから。
涙覇だってそうだろう?」
「……うん」
けれど表情がこわばってしまう。
「そんな顔しなさんな。ワタシたちはきちんと帰ってくるからさ。
そもそもロッケン=オーヴァーが現れるかも分かんないんだし。
現れたら現れたで祝勝会と行こうぜい」
「……ん、うん」
「涙覇、『綾なす塔』攻略に行くなら涙覇もしっかり生き抜くんだ。
勝つ気で行くのは当然として、最悪、退くのを恐れないように」
「それは恥じゃないからね」
「……分かった。ちゃんと生きて帰ってくるよ」
笑って宣言、だ。
「ああ」
「うん。それで良し」