第71話 生きたい!
「っ、燦覇!」
慌てて駆け寄る。
燦覇の呼吸が薄い。汗の量が尋常ではない。震えてもいて。
なにより燦覇の体にノイズが走っている。
これは――細胞が耐え切れずに悲鳴を上げているのか。
オレは希望に触れる。触れて燦覇の状態を戻そうと試みる。
が、圧される。
戻そうとするオレと消滅に向かう燦覇の体。
「くそっ」
正直楽観視していた。
燦覇なら問題なくクリアできるのではないかと。
危機感を持つべきだったのだ。
緊張を保つべきだったのだ。
簡単に得られる力なら世の中が狂ってしまう力なのだから。
「消えるなよ! 燦覇!」
どうする? 状態を戻せはしない。ここで留めるのが精一杯だ。
……ならば。
戻すのではなくフィフスの完成に向かう手助けをする!
「綺羅――『星霊体』!」
希望には触れたままジョーカーを起動させるオレ。オレの全てをゼロポイントフィールドに置換する。
腰の刀剣に、その白い柄に触れて抜き放つ。が、金のハバキの中に収まっていなければおかしい刀身は欠片もなく。
オレの燦覇を想う期待が白い蛍火となって天に輝き、掲げた柄に降り・流れてくる。
綺羅めく蛍火は巨大な十手の如き直刀の刀身と化して。
その刀身を燦覇の体に触れさせる。
この刀剣の名は霊剣『陽に恋う大君』。
未来を斬り開く【明日を望む勇気】の結晶だ。
「『ひのめの国』」
霊剣から勇気が燦覇へと流れる。と、霊剣と燦覇が共鳴して心が燦覇を内側から温め満たす。
「燦覇……明日への一歩を!」
強く、強く踏み出すんだ、燦覇!
「力を従わせようとしてはダメだ、燦覇。今、死がやって来ているだろう? 死を正しく恐れろ。遠ざけるのではなく、恐れ、活きる為の活力にするんだ」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――ッぁ!」
燦覇が苦しんでいる。
苦しいのならそれは。
「死から逃げている! 燦覇が逃げて死が追いかけているから! 苦しい! 悲鳴が出てくる! 逃げるのではなく向かうんだ! 受け入れるのとも違う! 正面から向き合って! 恐れながら! 死ぬのはイヤだから生きるんだと!
その向こうに希望はある! 希望はいつだって死を超えた先にあるんだ!」
「涙……覇」
燦覇が泣いている。
思わず彼女の手を取るオレ。
すると、燦覇の感情が流れてきた。
「燦覇」
この子はずっと明るかった。けれど内心は違うようだ。
「キミは……」
人と違う自分に怯えている。
自分を曝け出した時、人々が自分を恐れないかと怖がり、怯えてずっと泣いていたのだ。
「……やだ……見ちゃダメ」
「……ごめん」
心の奥底を見られるのは誰だってイヤだろう。けどもう見てしまった。
だったらオレが燦覇に言ってあげられるのは。
「燦覇、オレとウェディン、それにジョハも恐れなかったろう?」
「……うん」
「逃げなかったろう?」
「うん」
「大丈夫だ。ひょっとしたら他の人たちは去ってしまうかもだけど、オレたちは一緒にいるよ」
「……うん」
人は、意外と友達が一人いるだけでも強くなれるものだから、大丈夫だ。
燦覇の表情が変わった。涙を流しているけれど苦しみはなく、微笑んでいた。
「燦覇、ずっと一緒にいよう」
「うん」
「だから、生きてくれ」
「――い……」
そうだ。
「き……」
「叫べ!」
「……たい―――――――――――――――――――――――――――生きたい!」
「踏み出せ!」
発光。
桔梗色の閃光が発せられる。
閃光が砕けた。その全てが燦覇の体へと殺到する。殺到し、円環となって燦覇を飾る装具となった。
燦覇は――眠ってしまったか。
だが燦覇は死と生を受け入れ成長した。新たな円環はその証だ。
「ふぅ」
一つ大きく息を吐いた。
大変だったが、前進、だ。