第07話 全力で、撃つべきだったな、子供
人馬の目が変わった。て言うか色からして青から赤に。戦闘色って奴。
しかも僕が変化したと認識した瞬間人馬は目の前にいて巨岩の剣を振りかぶって下ろしていて。
鳴り響く轟音。僕の機械の盾と巨岩の剣がぶつかって鳴った音だ。光がスパークする。
あぶ……危なかった……。
動揺したのは僕だけではない。これまで戦っていた人たちもあまりに急激な人馬の力の上昇に驚き、固まっている。
そんな中でウェディンだけが素早く次の行動に移って、巨岩の剣を握る人馬の右腕を切り落とした。
が、即座に左手に巨岩の剣を持ちかえる人馬。おまけに大きく振りかぶってウェディンを横に斬りつける。
「くっ!」
なんとか盾で防ぐも動きを封じられるウェディン。瞬間、人馬の右腕が生えた。二振り目の巨岩の剣を握った状態で。ウェディンに狙いを定めた状態で。
させない!
アイテムの光の刀剣を握り、人馬の首を一閃。が、皮一枚で斬撃が止められる。
「硬い!」
人馬の目が僕に向く。
こいつ、僕とウェディンを狙っている。積極的に倒そうとしてくる。
どうして?
――余力のある内に強敵を狙い倒す。そこに疑問でも?
「!」
巨岩の剣をやり過ごす僕の脳裏に話しかける誰か。この声は――ロッケン=オーヴァー!
――すでにパペットウォーリアチャンプの半数は倒された。
ウェディンに目を向ける。と、彼女も僕を見ていた。どうやらロッケン=オーヴァーの声が届いている。
――気をつけなさい。
どの口が!
――各地のチャンプたちはオーバーレイを重ねても倒されたのだから。
人馬の口が開く。開き、言葉が発せられる。
「オーバーレイ・サード」
サード! XRに質量を与えるサード! つまり!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
吠える人馬。巨体である体を支える脚が地面にめり込む。
ただの3Dが実体化した瞬間だ。
いきなりの『本物の敵』出現に上がる悲鳴。
3D映像の実体化。飽和状態にある兵器開発を打破する為に軍事転用を見越して完成された技術。
それをオーバーレイ・サードで実行したと言う事はこいつはパペットシステムを踏襲しているのか。確かにパペットは子供のバトルパートナーとして、大人の社会生活サポートAIとして広く受けいれられているけれどなんか複雑。
「ウェディン!」
「ええ! 涙覇も気をつけて!」
必要以上にビビってはいないようだ。なら良し。僕も大丈夫。今は恐れるよりも緊張を保ちつつこいつを倒す。恐れに跪くのはその後だ。
「星伽!」
「メイド・オブ・オナー!」
それぞれパペット顕現。
続いて声を揃えて。
「「オーバーレイ・サード!」」
パペット実体化。
この技術は軍人でない僕たちも使用可能だ。XR技術で人を心身共に傷つけてはならないと専用の法があるが――破った場合軽い罰から重い罰まであるが相手がこいつなら許されるだろう。ってか許してくれ。
人馬が強く地面を踏みつける。瞬間。地を蹴る勢いに敗けて遊具のいくつかが吹き飛ばされる。だがそれを気にしている暇はなかった。人馬がフェイントを交えつつ僕とウェディンに迫ったからだ。
速い。加えてフェイントとか! だけど!
星伽の翼が灯り光の洪水が放たれる。
メイド・オブ・オナーからは銀の針も。
しかし人馬は駆けながらもその二つを巨岩の剣で防ぎ・割る。が、攻撃の残滓が人馬の視界を塞いだ瞬間僕とウェディンはパペットの背に乗って宙へ。
「恐れている人は下がって!」
半ば呆然としている人たちに向けて叫ぶはウェディン。彼女の言葉に正気を取り戻した人たちは避難する人たちが殆どで、三人がパペットをオーバーレイ・サードに。だが人馬によって即座に倒されてしまい、人馬は空気を蹴った。は?
なんと空気を蹴って上昇してくるではないか。
「この!」
無量大数の光の星を人馬に向けて放つ。人馬はそれを巨岩の剣で防ぎ、光の星の後方に位置していたウェディンが――彼女のパペット、メイド・オブ・オナーが人馬の首元に噛みついた。噛みついてすぐに人馬を振り回し僕に向けて飛ばす。飛んできた人馬の首元に星伽の翼が更に傷をつけて。
あと少しで首が落ちる。だが人馬の勢いはちっとも揺るがない。痛覚ないんだろうか。
その後もパペットたちが牙や爪で、僕たちが剣で切り続けるも人馬は決定的な一撃を避け続けている。
ならまずは。
光の星を刀剣から縄に。更に十本の光の縄を作り出し人馬を捕えて動きを封じる。
「ウェディン!」
「了解!」
即座に人馬に迫るウェディン。そしてとうとう剣で人馬の首を――落とした。
光の爆弾かのように爆散する人馬。
良し勝っ――なにか冷たいものが、僕の首に触れた。
「……っ!」
冷気。悪寒。殺意。
振り向く暇などない。防御する暇もない。
【死】
攻撃しなければ狩られる!
僕自身を巻き込む覚悟で光の星を降らせる。同時に手に持っていた光の縄を刀剣にして脇の間を通して刺突。
が。
「なっ」
光の星、刺突した刀剣、その全てが砕け散る。
僕の首に手を添えている男の皮膚と服に触れただけで。
「……ッ」
ウェディンも動きを止めている。無理もあるまい。彼女はこれまで僕の攻撃を受け続けてきた。威力は承知している。だから完全に効果がなかったのに驚き、恐れを感じたのだろう。
「全力で、撃つべきだったな、子供」
背後の男が囁く。冷たく、重い声だ。心もこもってないように思う。
ダメだ……生き残れるイメージが浮かばない。それだけで全身の力が抜けていく。
抜けて、手を降ろした瞬間視界にウェディンが入った。
いけない。諦めるな。ウェディンを護れ。未来の可能性を棄てるんじゃない!
「オ―――――――――――――――――――――――――――――――――――オッ!」