第63話 喰ろうてやるよ!
「ん?」
空間を超えて、なにかが現れ始めた。
これは――インターネットを通して誰かが参加する時に起こる現象だ。けれどすんなりいっていない。無理やりにこちらに出ようとしている。
空間を裂くようにして現れたのは、なんと巨大な機械のタコ。
「こいつは!」
昨日のニュースで観た。
倒し損ねネットワークの中に逃げられてしまったと言うコンピュータウィルスだ。
しかしなにやらボロボロだ。体中傷だらけ。今まで戦っていましたよ、と言う感じに見えるな。
「どっせい!」
「お?」
誰かがタコの頭部にドロップキックをかました。
いや誰かって言うか。
「ジョハ!」
夢の中で出逢い、何度かリアルでも遊んだ事のある女性型コンピュータウィルス・ジョハだった。
ただし彼女はパペットである。
真架と言う女性が持ったパペット、コンピュータウィルスの性質を持つパペットだ。
「涙覇じゃん、おっすぅ」
そんな彼女がタコの攻撃をかわしながら呑気に挨拶を。
「なんでジョハが?」
「いやあこいつ、ネットワークに逃げた後国議のコンピュータに攻撃仕掛けて来てさあ。
真架とうちが防衛と討伐に駆り出されたのさね。
でまた逃げるじゃん? うちも一緒にネットワークに潜って追いかけてここに来たのが今。
てかこっちどう言う状況?
なんで卵持ちがいっぱいいんの?」
「あ~」
「マインがやりましたー」
素直に言っちゃった。
「ほう、可愛いな。浮気ってか」
「違いますが」
可愛いのは認める。
「話せば長いんだ。今度ゆっくりな」
「つまりうちとまた逢いたいと。
デートに誘われたってウェディンに言ってやろう」
「やめてマジやめて」
おふざけを挟みつつ、タコの触手に攻撃を加え続けるジョハによって一人また一人と救出されていく。
タコはタコで触手の他に墨を吐いて攻撃していて、墨の流れの速さでステージがどんどん壊されユーザーとパペットが吹き飛ばされている。タコの動きもわりと速い。
オレと燦覇にも向かってくる墨だがきちんと避けていて今のところノーダメージだ。
「手伝おうか?」
「おねがーい」
良し、では早速。
アイテムである光の星・巡を出現させ――轟音。
「「「!」」」
なんとタコの腹に大きな穴が開いた。
いや穴って言うか、食べられたような跡だ。無論オレの攻撃はまだ始まっていない。
誰がやった?
「はっ! あまり足しにならんか!」
やった犯人を捜す必要はなかった。あちらさんが大声で存在をアピールしてきたから。
こちらから見てちょうどタコに空いた穴の向こう側に姿を見せているそいつはなんと。
「『進化竜』!」
だった。
『フリーブルーアワー』を名乗るAIの危険性を説いてきた人たちと、『ブラック・セイブル』を名乗るコンピュータ犯罪集団が協力し世に解き放ったコンピュータウィルス。恐竜が絶滅しなかったらをテーマに作られた者たちだ。
此度現れた『進化竜』は黒い。基本が黒の肌色で所々に黄金の装飾が施されている。体から生えているのを見るに骨か鱗が進化したものだと思う。
体躯の大きさはオレと同じくらい。翼竜の翼があり、尻尾は長く、目の色は黄金。
そして目に見えるほどに強力なバトルオーラも黄金だ。
性別があるのかは分からないが、あるとしたら声から察するに多分オス。
以前戦ったイレと言う『進化竜』よりも体は小さいが……感じる圧はイレ以上か。
「だがまあ! せっかく来たのだ! 喰ろうてやるよ!」
大きく開かれる口。
そしてどこも噛んでいないのに閉じられる口。
するとタコの一部が食べられたように消えた。
「味はまあ! うまいと言うには少々足らん!」
それでも『進化竜』は口を開けては閉じるを繰り返す。その度にタコの体は減っていき。宣言通りに喰っているのだ。
バトルオーラが揺らいでいる。僅かな変化を【覇】が捉えて数値化する。なんと、捕食の度にバトルオーラから感じる圧がほんのちょっぴり高まっていた。
「はあ! ほぼ変わらんか! まあ良い!」