第62話 ……ごめんね
一組目。
銃を抱えたユーザーと小型戦車のパペット。
撃退。
二組目。
霊剣を持ったユーザーとゴーストのパペット。
撃退。
三組目。
植物を操るユーザーと花の妖精のパペット。
撃退。
四組目。
念力を行使するユーザーとマジシャンのパペット。
撃退。
ここまではオレが全て撃退し、燦覇は学習&記録中。
五組目。
赤鬼化したユーザーと青鬼のパペット。
ここで。
「!」
皓月が全高三十メートルまで巨大化した。
成長速度が早い! 情報生命体だからあらゆる事象を吸収しているのだろう。
ショッキングピンクの骨には白い炎が纏われていて、天井近くまで昇った三日月の下では月光に照らされた様々な黒い骨たちが動き始めている。人の骨ではない、戦車・ゴースト・妖精・マジシャンを始めここに至るまでに目撃した“敗れたパペットたち”の骨バージョンだ。
「これは……ジョーカー、じゃないな」
全て合わせて皓月と見た。
「皓月、アイテム作って」
『あいよ』
もう話せるのか、皓月。
その皓月――巨大な骨が天にて輝く三日月に手を伸ばす。すると月光が燦覇に降り注ぎそれを、光の道を通って一つのアイテムが彼女の手に納まった。
深い紫に妖しく輝く大きな鎌だ。
「涙覇、ちょっと下がってて」
「あ、ああ」
大鎌が振り上げられて――静かに、降ろされる。
「⁉」
ジョーカー、起動。
燦覇を中心にステージの三分の一が崩壊。ユーザーアイテムもパペットもまとめて光の粒子と化してしまった。
現在対峙していた鬼もだ。近くにいて残ったのはオレと星伽だけか。
「……破壊の技?」
かと思った。
しかしなにやら様子が違う。
光の粒子が大きな皓月の腹に集まり始めたのだ。
収斂し、固まり、光の胎児となって。
この胎児の状態はそう、初めて燦覇と出逢った時と同じ。二等身で、ゆらゆら揺れる暁色の弱い火の塊、けれど火は線や数字にも見えるのだ。
まさか……まさか。
他を吸収し情報生命体を生み出すジョーカー!
そして、骨の軍勢に加わる黒骨バージョンの鬼。
「ん?」
皓月の腹にいた胎児が消えた。どこに?
「情報ネットワークの中に流れたよ」
「……燦覇」
「きっとこれから成長して、涙覇みたいな人と出逢うと思うよ」
「そう、か」
なんと強力なパペットとジョーカー。敵じゃなくて良かった。
「……ごめんね」
「え?」
燦覇が謝罪している。なにに対して?
「いっぱいのパペットを……」
ああ、そうか……。
パペットは一つの【覇】につき一体だけ。死んでしまったら卵に戻り、全く別の新しいAIを搭載して再誕する。姿は同じ、でも別の個体である。同じ名すら登録できない。
今回の場合はどうなるだろう? 死んだと言うより失われたのだが。
そう思って目の前にいる青年を見る。青鬼のマスターユーザーだった青年を。
「え?」
その青年の前には、一つの卵があって。
周囲を見やる。パペットを失ったユーザー全ての前に一つずつ卵が。
「ここまでが、燦覇の――皓月のジョーカーか……」
新たなパペットすら与えるとは。末恐ろしい子だ。
「今だ!」
「「!」」
声が響いた。その声をきっかけに生き残っていたユーザー・パペットが一斉に燦覇と皓月に襲いかかった。
中にはオーバーレイを上げているパペットウォーリアも。
全員でかつ全力で強敵と判断した燦覇たちを倒す気だ。バトルロイヤルの基本戦術だがオレもいるって事を忘れてもらっては困――
「「「⁉」」」
燦覇たちに襲いかかって来た全員の動きが止まる。
否、止められる。機械の触手によって。
なんだ?