第60話 ドキワクして来た!
翌日、午前九時。
「落ちないようにしっかり掴まってな」
「うん」
家の車庫に駐輪していた浮遊自転車の鎖を外し、起動。
地面から三十センチメートル浮いたそれにまず燦覇を乗せてオレも乗る。オレが前、燦覇が後ろだ。少し前まで赤子・幼児を除く自転車の二人乗りは厳禁だったが、互いに連絡を取り合う事故自動回避AIが搭載されるようになってルールは緩和され、大人の二人乗りも許可が下りるようになった。ルール違反が重なれば半年間運転禁止されるが。
「じゃあ行っくよ」
「あーい」
自転車、とは言ったもののこいつは自分で転がす二輪ではなく、自分で転がる一輪だったりする。タイヤも輪ではなく球体だ。性質としては原付に近い。が、スピードがさほど出ないから免許とヘルメットはいらない。最大時速二十キロメートルだ。
歩道のすぐ横にある自転車専用レーンに出た。
他の利用者とぶつからないように慎重に運転し、進む。AI搭載とは言え人の運転ミスによる事故はゼロではないから油断は禁物だ。
小さな川、短い橋を超えると住宅街を抜けてショッピングゾーンに入った。
ここを超えるとアミューズメントゾーンがあり目的のリトルドームもある。
「もうすぐだよ」
商店街に入った。頭上ではディスプレイが風景やらコマーシャルやらを映していて、地上ではお客さんが行き交っている。
アーケードの真ん中にある車道・自動二輪専用レーン・自転車専用レーン・歩道の内一本を走りつつミラーで燦覇を見ると目をキラキラと輝かせていた。
「涙覇! 帰りに買い物したい! さっきおもちゃ屋さんあった!」
「おっけ。寄ってみようか」
商店街を抜けた。
抜けた先は駅。実はと言うかなんと言うか、国内で海まで一番近い駅だったりする。
今日は駅に用事はないのでスルーして、隣接されているアミューズメントゾーンに突入だ。
プールに映画館、ライブハウスにゲームにちょっとしたカジノまであらゆる遊びの詰まったこのゾーンには子供の頃からお世話になっている。
因みにだがスポーツゾーンはスクールゾーンの隣にあったりします。部活で使われるからすぐ隣に作られた。
「さ、着いたよ。ここがこの街『理央市』のリトルドーム・J-セブンスだ」
「水色!」
「そ。モチーフは水の流れ」
リトルドームの名は作られた順番に番号が当てられる。JってのはJAPAN=日本。つまりここは国内七番目に作られたと言う事だ。
レビテーションバイクを駐輪場にしっかり停めて、鍵をして、まずオレが降りて燦覇を降ろす。
「ここはオレが初めて父さん母さんに連れて来てもらったドームでもあるんだ」
一歳とか二歳くらいだったかな。
リトルドームの外にも人が沢山いて、顔見知りの何人かに軽く頭を下げられたので下げ返す。言葉による挨拶にはこちらも言葉を。
そんな事をしながらリトルドーム正面ゲートへ。
「良し、入りますか」
「入る!」
二重になっている自動ガラスドア、まず一つ超えて、二つ目が開いた途端爆音が響いて来た。
「お、おお」
戦闘音とバトルを盛り上げる為の音楽と実況と歓声。
元気の良いその四つに燦覇、ちょっと固まる。と思ったら。
「マイン、マイン……ドキワクして来た!」
どうやらテンションが上がってしまったらしい。オレを置いて駆け出してしまったもんだから慌てて後を追う。
「燦覇! ドーム内はバトル以外走るの禁止!」
危ないからね、人にぶつかったり転んだり。
「うい!」
素直に聞いて早歩きに変更、燦覇。
ドーム内には人がごった返しているから迷子にならないよう片手を繋ぐ。
「燦覇、一番上――三階に上がろうか。ドーム内が良く見えるよ」
「ん!」