第06話 私の一番好きな言葉よ
「【王室エポック・リンク】からも許可が出た?」
世界中の王室王族の繋がりからウェディンの自由が認められた。
バトルが行われていると思しき場所へと走りながらそんな話が。
「そう」
「……危険はないと判断された?」
「きっと御旗が必要だったのよ。バトルにおける御旗が」
「御旗、か」
成程。象徴となる『戦の女神』が勝利を呼び込む事が多いのは確かだ。
しかしそれなら。
「護衛はいなくて良いのかい?」
「エリアチャンプ以上の『騎士さま』がいるのかしら?」
言って綺麗にウィンク一つ。
騎士さま、ねえ。ガラじゃないなあ。
そう言ってもらえるのは、選んでもらえたのはとっても嬉しいのだけれど。
「正直ね、涙覇がエリアチャンプだと知った時は落胆したの」
「……ああ」
良く言われる。年齢ゆえに。親ゆえに。
こんなものかとか、幼すぎるとか言われたっけ。
挫けそうになった事は何度もあった。
でも挫けなかった。
父さんや母さんに愛されている実感があったから。
凹んでいたらダメだって思ったんだ。
なにを言われても影っていてはダメだって思ったんだ。
愛と言う太陽がある限り。
「幼い子でもチャンプになれるくらいレベルが低いんだって。
けど違った。
涙覇は誰よりも楽しんでいた。私だって楽しんでいたけれど涙覇には自由があった。
御両親が偉い方々なのにそれに潰されず、気負わず、楽しそうだった。
でも私には自由がなかった。
家系が家系だから隠れて、怯えて、どこか冷えていた。
だから星を操る涙覇を倒そうと躍起になって星を喰らう者なんてパペットを得た。その時は嫌っていたな、メイド・オブ・オナー。
けれどね、涙覇を見ていて変わったの。
学ばせてもらったのよ。
楽しむと言うのはこう言うものなんだって。
最初は目をくらます太陽のようで疎ましかったけど、名前を聞いただけで目を背けていたけど、私は影にいるんだって気づいた。
変わりたかった。
自然と光の中にいたくなった。
人には太陽が必要なんだって、羨ましいから疎ましいんだって分かった。
思えばメイド・オブ・オナーが海水体なのは星を、太陽の光を常に映せるからだろうな。火を消す水じゃなくて。
けどそれは偽物。模造品にも良さはあるけれど満足は無理。
そう言う事に一度気づくと這い上がるしかなかった。
影から出て、太陽に手を伸ばして、私自身が太陽になりたくなった。
涙覇の横にいたくなったのよ。
同じレベルで。
まずは自分を好きになる事から始めて、それには涙覇を疎んでいた過去を否定せずにいようって思って、これは前を向くと自然にできた。メイド・オブ・オナーも好きになれたし。
気持ちって本当に大切なのね。
で、積極的に涙覇に関わって過ごす内に気づいた。
私、影から出られていたんだって。
涙覇に付いて行ったおかげ。
ただ連れて行ってもらうんじゃなくてこれからは私も勇気をもって一歩ずつ進もうと思った。これができて初めて涙覇に並べるんだから。
できているかは周りが判断してくれたら良い。
色々ありがとう涙覇。
今じゃ目を背けていた【涙覇】が私の一番好きな言葉よ」
恥ずかしげもなく微笑みながら。
……実のところ、最後らへんはぼんやりとしか聞いていなかった。聞こえなかった。
恥ずかしくって頭が沸騰したからだ。
嬉しかった。嬉しかったんだ。
「……ありがとう」
「いえいえ。
ま、そう言うわけでこれをプレゼントするわ」
「え?」
【羽衣】のディスプレイを表示させいくつか指で操作しだすウェディン。すると僕の【羽衣】が鳴って。加えてギフトボックスが表示され灯っている。
「開けてみて」
「ん」
ギフトボックスを指でワンタップ。生体認証が行われ箱が開いて消えて代わりに小さく衣装一式が表示される。
「これは?」
「【王室エポック・リンク】所属のデザイナーたちが作ったコスチュームだって。普通より防御力が上がっているらしいわ。私ももらったの」
様々な衣装を小さく表示し中からとある衣装をタップするウェディン。【羽衣】が光り、形が変わる。
白い生地と蒼のグローパーツがメインで虹色のグローラインが入っているスーツに似た衣装。左胸には少しだけ虹色のフラクタル・パターンが。ふむ、サイバーな騎士って感じ。
「涙覇も」
「了解」
怪しい物ではなさそうだったので貰った衣装をタップ。【羽衣】が光って変わって。
白い生地と紫のグローパーツがメインでスーツに似た衣装。ウェディンと同タイプのサイバー騎士風。ただし腰には黒い機械がついていてグローラインは桜色だ。左胸にも少しだけ桜色のふみ文が。僕が日本人だからこの色この柄にしてくれたのだろう。桜、良いよね。
「この腰の奴は?」
「盾だって」
「盾?」
「日本のサムライは盾持たないでしょ? だから少しでも防御の役に立てば良しだって。危険を察知しての自動防御に加えて【覇】を通しての脳波操作もできるみたいよ。今の内に慣れておいた方が良いかも」
「脳波」
イメージする。腰のが動いてビームを防ぐイメージ。
「オオ?」
機械が自然に浮き上がり僕の前方で光の盾が展開される。
どれくらいの衝撃に耐えられるのかは不明だが良いなこれ。かっこいい。じゃなかった、光の星・巡と併用すればかなりバトルが楽になるかも。
「涙覇、前」
「ああ」
一番近くで行われているバトル現場に着いた。公園だ。
脚を止めてフィールドを見やると戦っているのは人馬に似たモンスター=コンピュータウィルスと九人のパペット持ち【パペットウォーリア】とそれ以外のXRゲームユーザー八人。とギャラリー。
必死になっている人いればゲーム感覚で遊んでいる人も。
まあ、3D表示されているだけなら害はないし、遊びになってしまうのも分かるが。
『星冠』を始めサイバー関連のガーディアンはいないようだ。どうして?
一番近くにいる人を捕まえて聞いてみるとどうやら別の場所で別の強敵と戦っているらしい。
「なら、こいつで手こずっている場合じゃな――!」