第59話 名前は燦覇がつけるんだ
「それもやりたい」
「うん、分かってる。
まずは基本的に入っているアプリを表示させて」
こうやるんだ、と手を上から下に軽く振る。
すぐに燦覇は真似をして。
オレと燦覇、二人の前にダウンロードされているアプリのロゴが全て表示された。長年使用しているオレとでは表示数に違いがあるがいくつか同じアプリがある。その内の一つがパペットシステム――正式名称【キミの系統樹】。
「これはね、【覇】内の全てのデータ、メール・ウェブ閲覧履歴・保存ファイルなどなどをスキャンして一体のパートナーAI『双』通称パペットを創り上げるXRアプリだよ」
「全部?」
「全部。でも燦覇はまだ【覇】を持ってすぐだ。
だから――」
「えい」
「あ」
説明途中でアプリ起動。どうやら相当楽しみだったらしい。
<【キミの系統樹】へようこそ!
これよりスキャンを開始します。
よろしければイエスを。また後で行う場合はキャンセルを>
「イエス!」
<了解しました。
ではスキャンスタート!>
「おー」
燦覇の体に走るスキャンの光。
五秒くらい経って、
<スキャン完了>
終了した。
すると、燦覇の前に表示されたのは奇妙な模様の入った卵一つ。
<これより孵るは他ユーザーと絶対にかぶらないと言われる容姿・ちょっとだけかぶるかもしれない能力を持つパペットです。
パペットを成長させるのはデータ。嘘のデータは弾かれますのでご注意を。
孵化まで残り六十秒、大切に扱ってあげてください>
卵を掌に乗せる燦覇。
「ど、どうすれば良いの?」
「六十秒待って。あと五十か。
燦覇はまだ【覇】を持ってすぐだから、基本形態で――最低限の情報で孵るはず」
「早すぎた?」
「ううん。これからデータが記録されるたびに成長していくから早い遅いはないよ。
オレも【覇】を持ってすぐにパペットシステムを起動させたんだ。
で今は――」
星伽を顕現する。
「この夫婦獣にまで成長した。今もちょっとずつだけど成長中」
「おー」
六十秒まではまだ少し。
この時間を使ってXRに関する国際法について話していると時間はあっと言う間に経過して。
「あ」
卵にヒビが入った。
「お? お?」
ヒビが拡大していく。中から殻をつつかれて。
そしてとうとう卵が――割れた。
「おー」
割れた卵が消えて中から現れたのは――銀の三日月に乗る小さなドクロ。ショッキングピンクのドクロだ。左目の穴に小さな星がピアスのようにぶら下がっている。
なにこれロック。オレの時はヒヨコだったんだけど。
「お名前は?」
手の上にパペットを乗せて、訪ねるも返答はなくて。
「燦覇、名前は燦覇がつけるんだ」
「マインが」
「そう。
言葉も成長したら喋れるようになるよ」
「そか。
皓月で!」
「はや!」
皓月――皓皓と輝く月、か。燦燦と輝く太陽と対になる言葉だ。
しかしあっさり決まったなあ。
「良いの?」
「インスピレーションが大切です」
「そ、そっか」
まあ燦覇が良いなら問題ないだろう。
「んじゃこの皓月を成長させる為に色々体験して記録しなきゃね。映像録画機能の常時起動と写真記録機能、日記がおすすめです」
オレがいつもやっている事でもある。
「うん。
よろしくね皓月」
応えて頷く、皓月。
続いて映像録画機能をオンにする燦覇。成長させる気満々だ。
「燦覇。明日はドームに行ってみようか」
「ドーム?」
「パペットウォーリアドーム。
パペットバトル専用のドームだよ。
色んな場所にリトルドームがあって、各地域に一つずつ大きなドームがあるんだ」
リトルドームでの戦績に応じて一ヶ月に一度リトルチャンプが選出されて、半年に一度開催されるドームチャンプリーグに参加可能となる。そこで優勝するとエリアチャンプになれる。
日本で言うなら
北海
北陸
中部
東京
京
西京
四国
南州
以上八地域。
オレは西京のエリアチャンプになっている。
ドームチャンプリーグの上には二年に一度、パペットウォーリアの名を冠したバトル大会があって、国のチャンプと世界チャンプが決定される。
「マインも出られる?」
「当然。でも強大な壁があります」
「壁?」
「オレと言うエリアチャンプです」
「ふうん」
ふうんって……もうちょい興味持ってくれないかな……。
「ま、まあ良いや。
まずはリトルドーム、行ってみるかい?」
「うん!」
良し、明日の予定決定だ。
「それじゃ下に行こうか。
ちょっと遅いけど夕食だ」
「はーい」