第58話 いっぱいさ
「了解。
それじゃ燦覇の事は私から【王室エポック・リンク】に伝えるわね」
「うん」
下ではなんとなく話し辛かったので(恥ずかしいから)二階の自室にて早速ウェディンに映像通信をかけた。かけてひと通り説明終了。
「じゃ、今日はお疲れさま。
お休み。
燦覇もゆっくり休んでね」
「ああ」
「はーい」
「……涙覇、燦覇に手出したらダメよ」
「出すかい」
信用してくれませんかね? そう言うとこ。
「……一緒のベッドで寝るのも禁止」
「え~」
え~はオレのセリフではなく燦覇のです。間違えないように。
「涙覇くらいの子が女の子と一緒に寝るのはダメなの。絶対」
……前に添い寝した気がするが。
「んじゃマインはどこで寝れば?」
「あ、オレが床に布団敷くから燦覇はオレのベッドで寝なよ」
「良いの⁉」
「ちょ、ちょっと待って! せめて枕は替えなさい!」
「枕ってそんな重要なん?」
妙なところにこだわるウェディンである。
なんだ、匂いとかの問題っすか?
「い、色んなところに唇が当たってそう、だし……」
「あ~」
つまりあれだ。間接キスを警戒していると。
……枕での間接キス……気にするかな……。
「ふ、ふん。嫉妬深くてごめんなさいね!」
拗ねてしまった。そっぽを向く姿がちょっと可愛い。
嫉妬されるのもまあ、このくらいなら可愛いもんか。
「分かった。オレの枕はオレが使うよ。
じゃ、またねウェディン」
「ええ。また必ず。
燦覇も」
「うん。またね」
三人軽く手を振りながら閉じられる映像通信。
なんとなく二~三秒くらい静寂が続き、
「あ、燦覇」
思い出した事が一つ。
「うん?」
「【覇】」
「は! そうだった!」
パンツのポケットに入れていた小箱を取り出すオレ。指輪を入れる小箱よりも小さな箱。綺麗にラッピングされているそれを燦覇に手渡す。
「開けてごらん」
「うん」
まずは白い紐を解いて、ついで紙の包みを破らないように丁寧に外していく。
すると出てきたのは黒い箱。
それも開けてみると――
「光ってます」
一粒の涙型の蒼い光が浮いていて。地球のようだ。
「これが【覇】だよ。
手で光に触れてみて」
「手」
右手の人差し指がピンと伸ばされる。伸ばされて、指の先で【覇】に触れると、
<生体認証を開始します。イエスorノー>
と言う音声と文字が表示された。
オレを見て来る燦覇。
「言葉でも良いしイエスを指でタップでも良いよ」
「イエス」
と言いながら同時に指でもタップ。
<認証開始。終了。
同期・融合を開始します>
「お?」
燦覇と【覇】を繋げるように現れる白い無限の帯――メビウスの輪。
【覇】の姿が細い糸になって解けた。蒼い糸は無限を超えて燦覇の喉に触れて消えて行く。呑みこんでいるのだ。
全ての糸が喉へと融けて消えると今度は燦覇の体が蒼く輝き始め、様々な色へと変化する。蒼から白へ、白から赤へ、赤から緑へ、緑から黄へ、と言う具合に。やがてその色の変化は桔梗色に落ち着いて。
続いて胸に【覇)】所有者の証、同期を示す固有の模様『覇徽』が描かれて。
更に続いて左目に現れるは【覇】起動中を示す桔梗色の数個の泡『覇紋』。
ここでようやっとメビウスの輪が消えて、
<全てのプロセスを完了しました。
ようこそ、【覇)】の世界へ>
Welcome! と言う文字と紙吹雪が舞った。
「お~」
「終わったよ燦覇。きちんと同期できた」
文字と紙吹雪が消える。
良かった。人間用の【覇】だったからマッチするか不安だったけれど、ホッとした。
「なにができるの?」
「アプリ、インターネットの利用はもちろん、
機能の脳波操作
身体拡張
智識拡張
防御能力
治癒能力
世界言語瞬時翻訳
サポートAI
テレパシー
レビテーション
XR。
いっぱいさ」
「いっぱい!
涙覇と一緒?」
「んー、オレと一緒になるにはもう一個。
パペットシステムがあるね」