第56話 父さん母さん、花火は見られた?
川の字になって寝るのはちょっとと言うか色々問題があるので、ウェディンはイギリスに帰還、燦覇はオレの家で寝てもらう事になりました。
「えっと」
と言わなくても良いのだがなんとなく言葉にしつつ玄関横にある郵便ボックスを確認する。
「良し、届いてる。流石に『門』があると早いな」
「それなあに?」
郵便ボックスから取り出した小箱を見て、燦覇。
「【覇】だよ。燦覇用の」
「おぉ~」
燦覇の顔が華やいだ。
これ、【覇】はお祭りに行く前に注文しておいたのだ。販売元が注文を受けて商品を用意し『門』で送る。途轍もなく早い。
「涙覇たちと一緒になれる?」
「なれるなれる」
なれ――る、よな? 人間用の【覇】だけど燦覇にマッチしなかったりすんのかな?
今になって不安になって来た。期待させておいてダメでしたはシャレにならない。良い方に考えとこう。マッチングするマッチングする。
「ただいま」
「ま」
小箱をパンツのポケットに入れ玄関に触れて生体認証で鍵を解除、横にスライドする扉を抜けて家に入った。
奥の方から「おかえり」と言葉が飛んでくる。父さんと母さんからだ。出かける前は仕事でいなかったのだが帰宅しているらしい。
「父さん母さん、花火は見られた?」
「見たよ。お? その子は?」
リビングに入って、すぐ横にある台所で夕食の準備を進めている父さんの目に燦覇が入る。同じく夕食準備中の母さんもこちらに目を向けて。
世間には一日に必要なカロリーを一粒で摂れると言うグミもあるけれど、おまけに材料を入れれば調理してくれるクッキングマシンもあるけれど、更におまけに光の粒子が料理に化けるシステムもあるけれど、うちは手料理が主だ。利便性より手作りの温もり重視。時代にはあってないのだろうが、問題はないと思う。
だからオレも燦覇の事が済んだら準備に加わろう。
点けっぱなしにされているテレビは夜のニュースを流していた。どうやらコンピュータウィルスを取り逃してしまったらしく、ネットワークの中に逃げられたとかなんとか。
タコみたいな外見のコンピュータウィルスだ。
て、コンピュータウィルスの出現位置が北の方だ。先ほど落ちた星、あれだろう。
「えっと、この子は燦覇」
燦覇を一歩前に出して、両肩に手を置きながら紹介する。
「……実は」
一つ一つ説明する。夕方からここまであった事を。
この燦覇がここ最近目撃されていた幽霊さんだった。
幽霊さんに触れた時天球儀が起動した。
転移した先はお菓子の河。
そこに辿り着いた時幽霊さんにちゃんとした体が備わった。
現れたトゥルーフォルス。結局正体が分からなかったトゥルーフォルス。
ナルと言う名のお城とパーパスと言う名のジョーカーにして世界。
聞かされた幽霊さんの正体。
天球儀について。
帰還して幽霊さんに燦覇と名づけた。
ちゃんと話せたと思う。
オレの話を聞いて父さん母さんは目を合わせる。
合わせてちょっとだけ二人で内緒話タイム。
さあ、どう言う反応が返ってくる?