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第53話 ……恋人に忘れられるのは、淋しいのね

 この街の外れには中規模の展望台がある。公園を兼ねた展望台だ。

 山をバックにするそこからは街全体が見えて、風も弱いから子供たちにとって絶好の遊び場である。

 一時期、事故を理由に公園から沢山の遊具が消えた日本だが今は安全面を考えた上で復活している。ここにも十を超える遊具があって、いつもは家族連れが数組必ずいる。

 今日はお祭りの日だから少ないが、それでも二組いて眺めていると心にゆとりが生まれてくるようだ。

 微笑ましいね、うん。


「目をそらすな~」

「いひゃい(痛い)」


 両頬をつねられた挙句上下に揺さぶられた。変な顔になったらどうする。


「事情は分かったわ。

 ここに来るまでに連絡くれたのも良し。遅刻には目を瞑りましょう。

 で・も」


 頬をつねる指が離れた。んで開かれた両手が両頬を包みこねるように回される。

 そんなオレの変顔を見て燦覇(さんは)が笑っていて。


「時刻を見るまで私を忘れていたのは、お仕置きがいるわね、涙覇(るいは)?」

「あ、怒ってるのそこなんだ、ウェディン」

「そーよ」


 認めちゃったよ。


「……恋人に忘れられるのは、淋しいのね。初めて知ったわ」


 頬をこねていた手が止まる。もうただ両頬を包んでいるだけだ。

 だから揺れていたオレの視界も定まりウェディンの表情が良く見えた。泣きそうとまではいかないがそれでも悲しそうで。


「……ごめん」

「……ん。私も、めんどくさい女でごめんなさい」


 しばし静寂。

 トンボが行き交い鈴虫の鳴き声と子供の声が場を支配し、オレとウェディンは見つめ合って――その間ににょきっと背伸びした燦覇が登場した。


「誰~?」


 急に恥ずかしくなって慌てて一歩距離を取るオレとウェディン。


「あ、ああ燦覇。この人は――」

「初めまして、ウェディン・グリンよ。涙覇の恋・人の」


 恋・人が強調された。あの、燦覇は恋敵にはならないのでは?


「恋人……結婚するの?」

「「けっ⁉」」


 いやまあ? このまま続いていけばいずれはだが。


「ま、まだだよ」

「ふ、ふ~ん、まだ、なんだ。まだ、なのね」


 ああもうややこしいな言葉って。


「と、ところで、私の姿になにか一言は?」


 お、おお? 場面転換か。


「似合っているよ、青い朝顔の浴衣」

「そ、そう? ありがとう」

「マインは~?」

「燦覇も似合っているよ、黄色いひまわりの浴衣」

「よっしゃあ」


 ガッツポーズ。可愛いな。

 燦覇の服は【羽衣(シール)】だ。オレが予備として持っておいたものをプレゼントした。

 ああ、羊に似た角は隠していない。この世の中バーチャルアイテムを身に着けている人も多いから燦覇を不思議に思う人はいないだろう。


「移動しようか。お祭りはもう始まっているし」

「そ、そうね」

「手。手」


 手? なにやら燦覇が両手を上にあげている。どうした?

 なんて思っていたら左手をオレに向けて、右手をウェディンに向ける。

 ……繋ごうって意味かな?

 オレもウェディンも燦覇の小さな手を取って。


「行こ」


 三人繋がったところで駆けだす燦覇。

 慌ててオレたちも小走りに。慣れない浴衣で三人揃って転ばないかと心配したがちょっとした早歩き程度のスピードだったから杞憂に終わりそうだ。

 それはまあ、良いのだが。


「……笑われているわね」

「微笑まれているんだよ、この感じは」


 展望台を出てお祭りの舞台である小学校に向かう道すがら、同じようにお祭りに向かう人々を追い越すたびに後ろからクスクスと言う笑い声が。


「ちょっと大きな子供に振り回される若夫婦ってところだろうから」


 笑っている人たちからオレたちを見れば。


「私、随分若い頃に産んだのね」


 自分で言って自分で笑うウェディンである。

 オレは……そこに至るまでのうんたらを想像して真っ赤になっていた。オレのバカ。


「着いたーなんか赤いよ?」


 街の真ん中に鎮座する小学校に辿り着き首を傾げる燦覇。

 なんか赤い、のも納得だ。


「提灯だよ、燦覇」

「提灯」

「そ。考えてみたらなんで赤いのが多いんだろう? まあ良いんだけど」

「涙覇、燦覇の興味もう移っているわよ」

「え?」


 言われ燦覇を見やるともの凄く目が輝いておられた。太鼓の置かれた舞台を中心に円形に並ぶ屋台を見て。


「せっかくだ。お金の続く限り遊ぶか」

「遊ぶ!」


 お祭りの屋台で売っているものって結構値段高いけど、普段貯めているデジタルマネー+現金ならなんとかなる、と思う。お小遣いに加えてパペットウォーリア西京地区エリアチャンプやっているからスポンサーもついているし。


「私も半分は出すわよ」

「良いの?」


 お姫さまだからいっぱい貰ってそうではあるけれど。それにウェディンもイングランド地区のエリアチャンプ。スポンサーも当然いる。


「ええ。最近の女は奢られるだけじゃないのよ。

 因みにプリンセスだから多くお金を貰っているって言うのはうちでは当たっていないから。貰っているところもあるけどね」


 読まれてた。


「私のところはお小遣い制。一ヶ月の額は――」


 驚いた。

 なにに驚いたってオレがお小遣い一ヶ月三万円なのに対して倍くらい貰っているのに驚いた。

 ウェディン、それは多く貰っているって言うんですよ?


「え、そうなの?」


 苦笑しながら伝えてみると目を丸くしていた。まあ良いさ。王室王族が一般の感覚を知るのは重要だろうけれどそこに落ち着くのは違うと思うし。国の象徴でなければならないから。


「涙覇、ウェディン。遊ぼ!」

「ん、そうだな」

「行きましょうか」


 と言うわけで、お祭りだー。

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