第52話 キミは今から
「戻った、か」
光の中を一歩進んだ先は自分の部屋。
手の先に繋がるは幽霊さん。
コトン、と音がした。なんの音だろうと振り返ってみると天球儀が転がっていて。
恐る恐るつついてみるが変わった反応は一つもなく。トゥルーフォルスが作ったと言う天球儀。拾い上げてじっくり見ても普通の天球儀だ。これ自体に特殊な力はないのだろう。
天球儀を元々飾っていた棚に戻す。
「さて。えっと」
幽霊さんに目を向けて呼ぼうとして気づいた。
オレ、この子の名前知らないや。
「キミ、名前は?」
「ないよ」
「……ふむ」
姿自体ついさっき得た子だ。ないのはしようがないか。
なら。
「自分でつけるかい? 一緒に考える?」
「ん~」
顎にピンと伸ばした人差し指の先を当てて思案顔。
「一緒」
そして元気良くこう言って。
「一緒ね。おっけ。んじゃこれを見て」
幽霊さんを座椅子に座らせて、オレも座布団を引き寄せて彼女の横に腰を下ろした。
同時に【覇】で表示した最近の流行の日本人名をリストアップ。幽霊さんに見えるようにディスプレイをオレだけが視認可能なソロモードから全員が視認可能なパーティモードに切り替えて移動させる。なにも考えずに日本人名を出したが、問題なかっただろうか。
「他の国が良かったかな?」
「んーん」
首を横に振る、幽霊さん。
「一緒!」
先ほどよりも更に元気良く。少しびっくりしたが、同じタイプの名前を望んでくれてなんとなく嬉しくなった。
「このリストの中に自分につけたい名前はある?」
「ない!」
ないか~。となるとちょっと考える必要があるな。
「涙覇みたいに、かっこいい名前が、良い」
「お、ああ、うん」
かっこいい言われて嬉しくなった。オレがつけた名前じゃないけど、両親が褒められたみたいで。
「オレみたいな名前か」
となると子供に名前をつける感覚で良いのかな。子供、持った事ないけど。
「繋がり、欲しい」
「繋がりね」
なら涙か覇を使った方が良いな。
オレの名は母さんから涙を貰って、父さんがオレこそ覇者に成れるようにと覇をつけてくれたと聞いた。お気に入りの名前だ。
う~ん、母さんとこの子に血の繋がりはないから涙はちょ~~~~~~~~と遠慮してもらおうか。
意志を継ぐと言う意味で覇を使おう。
「覇を使おうと思うんだけど」
「うん!」
了解が出た。
一文字は覇で決まりだ。
「次は――」
「涙覇らしいの!」
「オレらしい」
オレってなんだろう。ウェディンは太陽のようと言ってくれた。オレ自身もそうであろうと心掛けている。
ならば。
「陽……は安直か?」
もうちょっとだけ捻って。
「燦燦。太陽が輝く燦燦。
覇と燦燦……燦覇」
「燦覇!」
幽霊さんの表情が華やいだ。それはもう太陽のように。
「燦覇」
そしてもう一度大切そうにこの言葉を呟いて。
「燦覇が、良い」
「そ?」
「うん。燦覇は、燦覇が良い!」
もう自分の名前と決めたようだ。
嬉しくなった。正直不安もあったのだ。オレの名づけを気に入ってくれるかと。親ってのはこう言う気持ちを抱えて名前をつけるのだろう。大変だなあ。
「良し、分かった。キミは今から燦覇だ」
「うん!」
この子の名前は決まった。
では次にすべきは燦覇用の【覇】を買って――ん?
その【覇】で表示している時刻が目に入った。現在十八時四十分。……ウェディンとの待ち合わせは、三十分。展望台は『門』禁止だから近くに開いて五分歩くとして……。
「……おぅ」