第51話 忘れたくは、ないな
ジョーカー。パペットが有しユーザーとの意思共通で起動可能な力。
正式名称『鬼札』通称ジョーカー、パペット固有の特殊能力だ。
って事はこのトゥルーフォルス、パペットなのか?
「祈りは楽しい。祈りは怖い。
甘味もあり苦味もある祈りはお菓子になって河になる。これ以上相性の良い形はないから」
「祈りの……固まったお菓子」
踏んでたんだけど。
「楽しい祈り。
泣ける祈り。
哀しい祈り。
怒れる祈り。
苦しい祈り。
誰かの成長は心に触れて初めてできるもの。
キミは――」
トゥルーフォルスの目が幽霊さんに向く。多分、目があれば。
「これから色々な心に出逢うだろう。触れて成長する。
今、人の心に触れて成長したように」
ああ、だから「ありがとう」か。
「キミにはキミだけの体験が待っている。
そして泣いても喚いても最後には笑っていて。
ああ、出逢えて良かった――と」
……なんか、親みたいな言い方だな。
ひょっとしてこの幽霊さんもトゥルーフォルスのジョーカーで産まれたのだろうか?
「天球儀を」
「え? お?」
抱えていた天球儀が独りでに浮かんだ。浮かんで、トゥルーフォルスの前に。
「これは昔僕が作った」
「作った……」
「今となってはこちらとあちらを繋ぐ扉か。
キミとその子の出逢いは偶然。運命・引力と言う気はない。
けれどこれは絆の始まり。
弱ければ切れ強ければ保たれる。
そっぽを向くも自由。
結ぶも自由。
涙覇、キミはどちらのタイプかな」
問われ、オレは幽霊さんに目を向ける。
幽霊さんはと言うともう眠たそう。瞼が今にも落ちそうに上下していた。
「その子の手に触れてごらん」
一度トゥルーフォルスを見てもう一度幽霊さんを見る。
言われた通りに手に触れると――
「少し冷たい」
ひんやりとした氷ではない。かと言って温もりと言うには心許ない、そんな手だ。
「まだ二人の間の絆は強くない。
今、涙覇が外に出たらその子の事は忘れてしまうだろう。
僕の事も」
「……オレ」
幽霊さんの手を少し強く握る。この子に痛みが伝わらないように。
「忘れたくは、ないな」
せっかく出逢えたのだから。
「それじゃ、これからの涙覇に期待するよ」
「……ん、頑張るよ」
「扉を開く。もうお帰り」
輝く天球儀。
少しずつ大きくなる光がオレと幽霊さんとトゥルーフォルスの姿を消してゆく。
「その子はね」
そんな中で響くはトゥルーフォルスの声。
「人の作った膨大な情報ネットワークの中で産まれた情報生命体。
人でもAIでもなく。コンピュータウィルスでもワクチンでもなくリアルとネット双方に存在できる生命体」
待て。そんな情報をあっさり投げんでくれ。
「その子の冒険の始まりは涙覇、キミとの一歩からだ」
「――ああ」
忘れない。
全てを忘れない為に、忘れたくないから、
強く、
強く、
強く、
一歩を踏み出す。
光の中へと。
「頑張るさ!」