第48話 真実はともかく大切なんだ!
十年も前だったならバラエティを少し騒がせるだけで終わった話だったろう。だけど「魂? ないない」なんて事をある聖人さんが言ってしまったものだから幽霊関係は一気に人の目を惹いた。映像に写真、はては交霊術まで飛び出してちょっとした事件事故よりもテレビやネット動画を賑わせた。
因みに件の聖人さんは所属していた教会を追い出されてしまったが「彼は権威の落ちていた教会を救う為に犠牲になったのだ」――と一部の人たちによって見放されるどころか讃えられ始めていたりする。
『目撃されているのは非常に小さな幽霊さんなんですよね。
赤ちゃんを少し大きくしたくらい。
ある日には街に現れ。
ある日には空で踊り。
ある日には木の上で寝ている。
そんな幽霊さんですから怖いと言うより可愛いと言う人が多いのです』
そこでテレビに目撃者による画が映された。
「……うん」
とっても良く似ているな……。
「ベランダにいるのと……そっくりだ」
二等身で、ゆらゆら揺れる暁色の弱い火の塊、しかし火は線や数字にも見えた。そんな幽霊さん。
苦手なんだよなあ、幽霊さん。
夜空に輝く星々は好きだけれど、だからと言って夜に現れる幽霊さんまで平気になったりはしなかった。
ただ冒険心は持っている。だから怖いけれど興味もあったり。
「いやいやオカルトの時代はもう終了だよ今はサイエンスの時代であってマジで宇宙人と交信しようと国家ぐるみで動く時代で人工的に魂とか転生とか作ろうって国もいるのにまさかねぇうひぃ⁉」
語尾が盛大に乱れた。もう言葉がすっ転んだと表現しても良い。
ではどうしてそうなったかと言うと――
「なっ」
幽霊さんが窓を思いっきり開けたからだった。しまった鍵かけてなかった。
「って、ものに触れるんだ……」
オレは、割と頭は良い方だ。背は――まああれだが霊能力とやらに比べれば知力と共に十分にある。
だから今必死に頭を回転させている。どうにか科学的な説明ができないかって。
「パペット? いやパペットが持つ独特な気配と光を持っていない。
ただのホログラム? が、ものに触れる。これはありかな? オーバーレイを上げれば。
誰かのイタズラ? これが一番可能性あ――り? ちょっと待ったー!」
ぶつぶつ呟くオレ。
その頭を踏みつけて部屋にインする幽霊さん。
そしてそのまま幽霊さんは部屋にあるアイテムの一つに脚を降ろしたのだ。
「それは昔誕生日に貰ったものだから壊さないでくれ!」
ちょっと変わった天球儀。星たちの動きを見る事で今生きている世界線とは別のパラレル世界を調べられると言うとんでも道具。
と、天嬢の家系で言い伝えられているアイテムだ。
いつから天嬢の家にあるのか?
本当にパラレル世界を調べられるのか?
一切が不明のアイテム。
オレがボロボロになっている説明書――紙きれ一枚――を読みながら使ってみてもトンと効果を発揮しなかったアイテム。
だけど、繊細な細工の施された天球儀ゆえに人の目を惹き、オレも心奪われたものだ。
だから。
「真実はともかく大切なんだ!」
慌てて幽霊さんを抱え上げるオレ。だったが、その時だ。
「!」
オレと幽霊さん、二人が触れ合っているところからいくつもの閃光が放たれた。
それは部屋に反射し窓から外へとあっと言う間に広がっていく。
「なんだ?」
閃光が粉になった。光の粉だ。
粉は漂い、数瞬の後に一点を目指してとても速く流れ始めた。
天球儀の元へと。
さながら銀河や星団かのように渦を巻き集まる光の粉は部屋に納まると昔のテレビが切れる時のような音を出した。
バツン、と。