第43話 どこに行く?
◇
重要なもの、重要な計画には予備が必須である。
と、誰かが言っていたな。
それを体現するかのような代物がここに。
「いやあ、白いのね」
半日が過ぎ『火樹銀花城』にオレたちを迎えに現れた『空の鏡』第二号線を見て、ウェディンは思わず【覇】のカメラ機能を一押し。パシャリ、と古風な音が鳴った。
破壊された黒と金の『空の鏡』第一号線に代わって現れた第二号線は白と銀で形作られていて眩く煌めいている。
それを見て感嘆するのはウェディンだけではない。オレもそうだし、他の乗客もだ。
ただ、感嘆はすぐに終わる。
誰もが帽子を取って誰もが目を瞑り、祈る。
『火樹銀花城』で行われた戦闘、これの犠牲者に向けて。
一つ一つ――いや一人一人が納められた黒い棺が列をなすオレたちの間を通って『空の鏡』に入っていく。
夢で死んでも現実にある体に影響はない。はずだったのに……ロッケン=オーヴァーがそれを許す事はなく。夢を通じて連動させられた精神を、魂を殺された。
現実を歪めたロッケン=オーヴァーは夢すらも歪めたのだ。
憎い。が、今は皆この気持ちを抑えている。
抑えて冥福を祈っている。
泣き崩れている人も、いる。
難しいな、護るって……。
「……痛いんだけど」
小声で抗議、オレ。なぜかと言うとキュアがオレの足を踏みつけているからだ。体重を乗せて。
「沈むなよ。あたしらは持てる力で戦った。バトルには勝ったんだ。故人の気持ちを勝手に代弁するのは好きじゃねえがあえて言うぞ。
お前は良くやった」
背中を押された。物理的に。列を乱さない程度に軽くだが力強く。
キュアの方を見やるともう一方の手が握り締められていて、震えていた。
そんな彼女の横には真架とジョハがいて、目元には涙あとが。
オレの逆隣りにはウェディンがいるけれど彼女はずっとオレの手を握っている。握って棺が通る度に納められている人の名を呟き、お礼を言っている。ありがとう、と。
少し遠くにいるアウサンは片膝を着いて両手を組み合わせ祈り続けている。
フレグリスは、彼を含めた『グリッター』は列の最後尾に揃い貸与されているサーベルを抜き顔の前に立てている。
『星織紙』は最前列で楽士たちの奏でる音に合わせ鎮魂歌を静かに歌っている。
オレもそれぞれの形で祈る彼ら彼女らに倣い、手を胸の前で立てて目を瞑った。手と手を合わせたかったけれど片手はウェディンの手に握られているからできない。と言うかオレも彼女の手から自分の手を離さずに握り返しているからできない。
最後の棺――最後の一人が『空の鏡』に収納された。
「皆さまもお入りください」
運営スタッフさん――クルーのこの言葉で今度はオレたち見送った側が『空の鏡』へ乗車し始めた。
静かに乗る人、名残惜しそうに振り返る人。
様々な反応を示す人々を乗せて『空の鏡』はゆっくりと動き出す。
オレは席から車窓を眺める。離された『霊旗』、痛めつけられた『火樹銀花城』が見えた。これらにも予備があるのか修復されるのかは知らない。が、きっと次の夢紀行までになんとか元に戻るだろう。
人は、想像よりも強いから。
『空の鏡』が特別なエリア『真秀なる時』を出た。
「終わっちゃうのね」
出た先は黒い宇宙の世界。通常の夢の世界だ。
ここから『空の鏡』は各駅を回って乗客を降ろしていく。
「ああ、でも終わるんじゃないよウェディン。
一つ夢が叶ったらまた新しい夢を見たら良いんだ。
オレたちはきっとそうやって活きていくんだと思う」
「……そうね。楽しみもあるものね」
「うん」
夢から覚めたらどうするか、一つ約束がある。
駅に着いた。が、ここはまだオレたちが降りる場所ではない。
『空の鏡』は発車し、次の駅を目指す。
そうして色々な駅を回って、とうとうオレたちが下車する番だ。
「ん~」
雲の王国に着いて、ウェディンは大きく伸びをした。
「さ、て、と」
指を振って【覇】の目覚まし機能をセット。どうやらウェディンは五分後に目覚めるようにしたらしい。
それを見たオレも同じ時刻にセットする。
「起きたら約束の場所に集合だ」
「ええ」
見晴らしの良い雲の上にあるベンチに座って少し雑談を交わして。
五分はあっと言う間に過ぎ去って『瑞門』が自動で開く。
「じゃ、現実で、ウェディン」
「そうね。起きたらメールするわ」
「うん。また」
「またね」
二人はそれぞれの『瑞門』を潜る。
これで、体の方は目を覚ます。
「ん」
オレは目を覚ましてベッドから降りると体を捻った。流石に数日も寝ると体が痛いな。
しかし。
「さて、行くか」
「おっす~」
約束の場所に着いてみるともう真架とジョハとアウサンがいた。
まだ予定の二十分前なのに早いな。
「おはよう、真架、ジョハ、アウサン」
おっす~の言葉と共に手を向けてきたジョハに自分の手を重ねるオレ。ジョハの髪色は夢と同じだ。夢の中だけ変えているのではなかった。
虹の塔の根元、日本のとある都市にあるこのカフェはお店の内外にテーブルがある。三人は外で椅子に座していたからオレも座して。
そうそう、世界に七つある虹の塔『綾なす塔』を使用し天に、オービタルリング【地球城】に上がろうとする試みは現在まで四度行われ全て失敗している。上がる途中で強力なコンピュータウィルスがいるらしい。
シャトルで宇宙へ昇ろうとしても悉く落とされる。
『凛凛翼』では宇宙どころか海外にも出られない。密入国・出国し放題になるからセーブがかかる。
だからどの国も慎重になっているのだが一国だけが違った。アメリカにある青いドラゴン像に守られた『綾なす塔』では毎日挑戦者を募って攻略に勤しんでいて、しかし達成されていない。
オレは赤翼を有す日本の『綾なす塔』を見上げる。
塔を守るモンスターか……冒険心をくすぐられるな。
自然笑みが零れた。
「おはよー」
五分と少し過ぎてウェディンが合流。
更に。
「おはようございます」
フレグリスが三分後に合流し、
「おお、はぇえな」
約束の時間一分前になってキュアが合流。
残るは一人だ。
約束の時間がやってきた。
時間ぴったりになって姿を見せたのは。
「こちらでは初めましてです皆さま」
なんと『星織紙』。歌姫の登場に周囲がざわついたが、まあ良いか。
一つの楽しみ、約束とは即ちリアルで――現実で皆と逢う事。
逢って遊ぶ事。
まだまだ大変な世の中であるのは分かっている。
けれど今だけは。
今日だけは楽しもう。
……違った。真剣になるのは必要だ。真面目モードになる日もあるだろう。
だけど楽しむ事を忘れるな。
楽しさはきっとどこにでも、小さくとも隠れ潜んでいる。
それを見つけて楽しみ続けるんだ。
「どこに行く?」
オレの問いかけに皆は顔を見合わせて、言うのだ。
「「「どこにでも」」」
そうだ。オレたちはどこにでも行ける。
どこまでも進んで往ける。
歩む意志さえあれば、どこまでも。
こうして一日が過ぎていく。
一日一日しっかり足を動かして、進んで往こう。
誰もが横に並んでいられるように。
綺羅めく未来を手にする為に。
オレたちが未来を照らす綺羅めきであり続ける為に――
この第43話をもって第一章は終了です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!!
よろしければ評価等お願いします!(祈
冗談抜きでほんっとうに嬉しいので!
第二章はちょっと間をあけて連載スタートします。
その時はまたよろしくお願いします(*˘︶˘*).。.:*♡