第38話 知人を、友人を、恋人を、愛人を、家族を疑ってほしい
こうして一日目が過ぎ、二日目。
今日も『星織紙』によるライブが行われ、数々の料理が並ぶ。
が、少しライブの様子が違った。
本日のライブは多くのパフォーマーが加わっている。
城内で、城外で、水上で、中空でパフォーマーが舞い、踊り、おどけ、種々様々な芸を披露していく。
「お? おお?」
そんな中キュアを含めた観客の幾人かがパフォーマーに指名されてパフォーマンスに加わった。
空をちょっと不格好に飛翔し、けれども楽しそうに笑う。
ライブの後半はほぼダンスパーティーだった。
「オレダンス経験ないんだけど」
「大丈夫よ、リズムに合わせて動けば良いだけ」
それが難しいんすよウェディン。
ウェディンの方はしっとりダンスも激しいダンスもイケるようで歌に、パフォーマーに遅れずついていく。
「小さい頃から叩き込まれているから」
そっか。社交の場で踊る事もあるもんなお姫さまって。
キュアも意外と踊れていて、真架とジョハは手を繋いでおどけている。
アウサンは諦めたのか堂々と着席中。
一方オレは。
ステップすら踏めないリズム音痴である。
いやだって、昔は学校で習っていたらしいが今はもうないし。
けれど「じゃあ楽しくないのか?」と聞かれたらこう応える。「や、楽しくはある」と。
そう楽しいのだ。
ただ動く。踊っていると言うよりも動いているだけだけれどそれでも楽しいのだ。
きっと気持ちが高揚しているから。
きっと心が本当に楽しめているから。
日常があるからこんな日が特別楽しめるのだと言う事は分かっているがそれでもあえて言おう。
これが毎日続けば良いな。
しかし楽しい時はやはり終わりがやってくるもので。
パーティーが終了した。
『星織紙』のライブはバラ―ドに入り、上がりまくっていた熱気は静けさに包まれて温度を下げてゆく。
中には恋人と思われる人たちがバラ―ドに合わせてダンスを続けていたりもするが。
しかし多くの人たちはゆったり体を揺らすくらいで、優しいバラ―ドに耳を傾けている。
休憩用の部屋も用意されていると言う話だったがほとんどの人は利用していないように思う。
オレたちもここに至るまで利用してないし。
皆少しでも長く、ここの空気を味わおうとしている。
日常を忘れてパーティーに浸ろうとしている。
いや、味わっている、浸っている。
まるで劇場の舞台に飛び込んだかのように。
誰もがキャストとなって舞台を演出し、残念な事に一人一人舞台を去って行く。
二日目が終わる。
残りは最終日。
『火樹銀花城』を去る日がやってきた。
「Iより皆さまへ」
と言う『星織紙』の挨拶から始まった最終日。
ライブが一時中断されて『星織紙』の左右にはパフォーマーが勢揃いだ。
『星織紙』がこれまでに「ありがとう」を言い、パフォーマー一人一人が礼を述べていく。
と同時に料理が披露されているテーブルが一つずつ消えていってもいた。
蒼穹だった外の景色も徐々に暗くなり。
本当に終わるんだな……。
誰もが淋しさを感じているだろう。
まだまだ夢にいたいと思っているだろう。
けれどもこれを超えなければ明日は来ない。
いつまでも夢の世界に活きているわけにはいかない。
オレたちは目を覚まし、足を地につけて活きていくのだ。
「では最後にIから。
また綺羅めく時にお逢いしましょう!」
『星織紙』が両手を、全パフォーマーが両手を上げてジャンプした。
途端彼女たちの姿を消すように全ての明かりが落ちて。
最後のテーブルも消えて。
そして――
「「「オオ」」」
歓声が上がった。
どうして?
蒼穹から夜空へと変わった景色。
そこに花火が上がったからだ。
光の花が咲き誇ったからだ。
これで最後。
これが本当のラストだ。
「ウェディン」
「ん?」
「今度は招待じゃなくて自力で来よう」
「――ええ」
どちらからともなくオレとウェディンは手を取り合う。絡め合う。
終わってしまうのは悲しいけれど『火樹銀花城』はずっとここにある。人の夢に存在し続けている。
輝きを失わずに。
『星織紙』も夢に存在し続ける。人の夢を色鮮やかに彩るように歌い続ける。
綺羅めきを失わずに。
夢に敗けぬよう現実を活きていくんだ。オレたちは。
やがて百万発用意されていた花火も終わり、景色が蒼穹に戻った。
『空の鏡』がどこからともなく現れて『火樹銀花城』にオレたちを迎えにやってきた。
『空の鏡』が停まる。オレたちを招くドアを開いて――轟音。
「「「――!」」」
人々全員が目を開き、悲鳴が上がった。
当然だ。
だって、『空の鏡』が砕け散ったから。
同時に手を取り合うように繋がっていた光『霊旗』も離れ離れにされて。
破壊されたのだ。
誰に!
「お報せする」
『火樹銀花城』に声が響く。
悲鳴の上がり続けるこの世界に。それを無視するかのように男の声が響く。
この声は――ロッケン=オーヴァー!
「此方はロッケン=オーヴァー。
人の煌びやかな居住の象徴たる『火樹銀花城』。
人の綺羅びやかな偶像崇拝の象徴たる『星織紙』。
人の眩い永遠の夢の象徴たる彼方たちを破壊させていただきたく」
ガラスが割れる音がした。しかし割れたのはガラスではなく空間で。
割れた空間。
そこから現れるコンピュータウィルス。
ますます上がる悲鳴。
いけない、パニックになる。
と、思った。
「え」
しかし乱れたのはコンピュータウィルスたちの方。
仲間を何体か失ったからだ。
誰よりも真っ先に動いたのは――『火樹銀花城』から飛び出てコンピュータウィルスに向かっていったのは。
「皆さまは慌てずに城内へ」
白に近い金の髪を持つ橙色の瞳の男性と彼に指揮される人たちだった。
真架とジョハにタオルをプレゼントした人だ。
そうか彼は。
「我々は【夜色】及び『真秀なる時』公式防人『グリッター』です。
ぼくは統長のフレグリス=スワロウ。
押し合わず城内に避難を」
『グリッター』の出撃でいくらか落ち着きを取り戻す人々。
中には完全に安心しきって笑顔を見せる人も。
「ウェディン!」
「ええ! 私たちも行きましょう!」
全てを『グリッター』に任せるのは無理だろう。コンピュータウィルスの数が多い。
それに空間を壊せるなら城内に現れる可能性だって――悲鳴。城内に移った人々からだ。
やはり現れたか。と思ったがどうやら状況が違った。空間は割れていない。
しかしコンピュータウィルスは現れている。どこから来た?
「ああ、言い忘れだ」
再び響くロッケン=オーヴァーの声。
「人々に偽装してコンピュータウィルスを混ぜておいた。
信じられないかもしれないが、知人を、友人を、恋人を、愛人を、家族を疑ってほしい」
人に――偽装!