第37話 なんか首に痛みがあって
皆して話し込んでいると一人の男性が寄ってきた。背の高い――百九十くらい――白人男性で、ホワイトに近いゴールドの髪。すっごいサラサラしてそう。橙系サンフラワーオレンジの瞳は潤んでいて色っぽく、左目には水色系リンカーンライトブルーの花の『覇紋』。白いスーツを着こなすお兄さんだ。アウサンと同じくらいの年齢かな。
「城内は水着OKだが体を拭いた方が良いですよ。風邪をひかれてしまう」
と言うのは多分嘘。いや違うか、本音であるのと同時に別の意味も持っている。気遣いと、もう一つは城内を水浸しにするのはちょっと勘弁、って事だと思う。料理にも水が落ちたら問題だろうし。
「これ、どうぞ」
真架とジョハ、二人に一つずつタオルを手渡す男性。
「ありがとう」
「どうもです」
「いえ。それではぼくはこれで」
タオルはプレゼントらしい。颯爽と去って行く後姿はまるでモデルが歩いているようで。
なんと言う……イケメン。
「涙覇もああなんねーとウェディンに棄てられっぞ」
からかい顔で、キュア。
ああ言う風に……なれそうもないな。
「いえ、涙覇は今のままで良いから」
「「「へぇ」」」
ウェディンの言葉に女の子三人の声がハモった。
「今のままが大好きってか」
「キャー」
「そ、そう言う意味では! そう言う意味――だけど」
圧倒的! こっぱずかしさ!
でもイヤな恥ずかしさではなかったり……。
「もう妻にするっきゃないぞ涙覇」
「話早すぎるわ!」
「泳ぎに! 泳ぎに行きましょう! ほらキュアも!」
「お、おお」
「真架~うちらどうする?」
「せっかくだからもう少し一緒に遊ぼ」
全員起立。
そして皆仲良く(?)海へと向かうのだった。
頭冷やそう……。
「どうせなら水着変えてみようっと」
海へと向かいながら、ジョハ。
「え? 変える? ジョハ何着水着持ってんの?」
正確に言うなら何着【羽衣】に登録してんの? だけど。
「へ? ん~、二十着くらい?」
「多いなっ」
「うっそ~、真架も結構持ってるよね?」
「十五着」
仰天である。
うっそ~オレプール用と海・河川用の二着だけなんですが。
「二着! なんで満足できんの?」
「男の水着いっぱい見たいのかいジョハ」
「え? 水着って言うか服は自己満でしょ?」
……そうか、誰かに見せる為に買うって発想がおかしいのか。……おかしい……のか?
「ウェディンとキュアは?」
真架に問われて二人は。
「十三着だな」
キュアまで!
「ざっと三十」
一番多いなウェディン。
「……因みにアウサンは?」
オレに問われてアウサンは。
「……八十着ほど」
「「「多いわ!」」」
どう言うタイミングでどの水着に着替えるんすか。
「で、でもオレは一年経つと買い替えるし」
なんとなく対抗するオレである。
「【羽衣】ってサイズ調整してくれるからシーズン毎に買い変える必要はないんじゃないの?」
「ウェディンは知ってるでしょ。オレ、結構服の好み変わる」
一年前はちょっとワルっぽい水着穿いたっけ。ロックにはまってたから。
「ああ、そう言えば鎖ついてたわね……普段着に」
ついでに言っておくとウェディンと水着で遊ぶのは今年が初めてだ。ウェディン、リアルで逢ってくれなかったから。
「水着にもついてたぞ、鎖」
「え? どうしてキュアが知ってるの?」
「どうしてもなにも遊んだからに決まってんだろウェディン」
「……へぇ」
うぁ、睨まれた。
「あくまで友達としてだよ」
「そうだな、ただナンパ野郎が来た時は『僕の彼女になにか?』って言ってたけどな」
言わなくて良い事を!
「ふ、ふぅん」
「まあ気にすんなよ二人の邪魔する気はないからよ」
からかう気は満々だよな?
「あ~でもナンパ君が来たら同じ事言ってほしいなぁうち」
ジョハまで加わりやがった。
「ねえ真架?」
「そうだね、ナンパはめんどくさいから」
「……まぁ? 護りはするけどさ」
「許可するのはそれだけだから。それ以上いったら怒るから」
現時点で血管が浮いて見えるようですがウェディン。
「さっさと着替えましょ。もう到着よ」
言いながら【羽衣】を操作し水着にチェンジ。
ほう、ウェディンは白のボーイレッグか。……なんか直視できないけど、
「お似合いで」
「そ、そう」
オレに褒められて髪の毛を使い胸を隠す仕草。可愛いな……。
「あたしはこれで行くか」
黒のレイヤード・ビキニにチェンジ、キュア。
「この下、Tだぜ? T」
「知らんがな」
興味はないよ? うん、ないない、多分。
「うちはこれっと」
ジョハが変えた水着は紫色のプランジング。胸の間がおへそまでぱっくり空いたの。……また大胆なのを……。
「アタシは、これで良いか」
紺色のレースアップに変えたのは真架。ひも、引っ張ったらどうなるんだろう?
あ、ひっそりアウサンも水着変えてる。お尻の喰い込み必要ですかい?
オレは、選択の余地がないので海・河川用の水着にチェンジ。色は黒だ。
「さあ行っくぞー!」
とタオルを手首に巻き、同じくタオルを手首に巻いた真架を伴い城の端から水に飛び込むジョハ。
『火樹銀花城』は水の上に浮かんでいるから飛び込み放題だ。聞いた話によると監視スタッフが常駐しているとの事だがどのキャストがそうなのかは判別できない。楽しむ人々の中に上手にとけこんでいる。『空の鏡』と一緒だ。
「あたしも行くぜ!」
頭から飛び込むキュア。水面まで五十メートルはあるのに水飛沫がほとんど上がらない見事な飛び込みだった。
「私たちも行きましょう涙覇!」
「お、オオ?」
ウェディンに手を引っ張られ、彼女は足から、そして背中から飛び込むオレ。
おぅ……降り注ぐ光に照らされて綺麗で透明な水、魚たちだ。にしても深いなこの海――『水絢』。最大一キロメートルの深さがあるんだっけ。遠くから見たら割れた卵の形になっているこの海を抜けたらどうなるんだろう。夢で死にたくないからやる気はないが。
とりあえず浮上し――!
首に激痛。
なんだ?
ここは夢だ。呼吸ができなくて水死はないが激痛のせいで視界が歪む。
首になにがあった? 危険な生物が泳いでいた――わけないな。そう言えば前にもあったっけ……すぐ静まったけれど今度は?
いけない、全身が麻痺したように動かない。
これは、危険だ。
「涙覇!」
「――はっ!」
ウェディンたちに、四人の女の子とアウサンに体を持ち上げられて水上に顔が出た。
おかげで恐怖が薄らいで、【覇】の治癒能力を全開にできた。激痛が治まっていく。
「涙覇、お前泳げたよな?」
「……ああ、なんか首に痛みがあって」
「首」
ウェディンがオレの首元に目を向ける。ジッと見て、
「見た目はなんともないわ」
顔を一度横に振る。
「つっただけ、だったのかな?」
首をつった経験はないが、あれだけ痛みがあるものだろうか?
「休む?」
「や、大丈夫だよ真架。もうなんともない」
首を触っても回しても痛みはなく。本当になんともなくなった。
「きつくなったら言ってね、まだ二日あるんだから無理しないように」
「ありがとうジョハ。そうする」
皆の心配してくれる気持ちがありがたい。
けど、もう本当に大丈夫っぽいから遊びを続行する事にした。
また痛くなったら素直に医務室に行こう。




