第36話 うっわなにする気だよお前エロガキめ
紙テープと紙吹雪が舞い一曲目が始まった。
黒の世界は色鮮やかにカラーを変えてコンサートを、パーティーを盛り上げる。
オレたちは最前列にいたが『星織紙』は宙に道でもあるかのように城内を、城外を歩き、髪型を変えて、色を変えて、衣装を変えて一等星の如く輝き誇る。
時にはしっとり歌いあげ、時にはダンスを披露し、時には自ら楽器を手にする事も。
そこに。
「星誕」
彼女のパペット、プリズムな鳩が一羽顕現し、
「ウォーリアネーム【星に希う】」
同化。背に虹色の――七色の絵の具で彩色したインクの翼が纏われる。
バーチャルだからこそ彼女の息は乱れず、トークも進み、客であるオレたちは魅入られ続けるのだ。
とは言え。
「ウェディン」
の耳元に口を近づける。ウェディンは名を呼ばれただけで頷きを返し、
「ええ。せっかくだからコンサート以外も楽しまないとね」
とオレの耳元に口を近づけて言うのだ。
「食べるかい? 泳ぐ? 遊戯場に行く?」
「少し食事をして水で遊びましょ」
「おっけ。じゃあ行こう」
足を動かす前にオレは『星織紙』をもう一度見た。
その眩しさに目を細めて、なんとなく幸せな気持ちになった。
これはそう……親としての気持ちだ。
我が子『星織紙』が世界に綺羅めき続けますように。
祈りながらオレはウェディンと星の料理が並ぶテーブルへと向かった。
「おぅ」
テーブルに向かい辿り着いたオレたちを出迎えたのは、キュア。
右手に肉、左手にグラスを持ったキュアだった。
幸せそうに頬を膨らませている。食べ物がパンパンにつまっているのだ。
「キュア、行儀悪いよ」
「すっげえぞここの料理。うますぎて手と口が止まんねえ」
オレの注意はさらっとスルーか。
「キュア、食べるか喋るかどちらかに」
もぐもぐごくん。
ウェディンの注意には素直に従い、口に入っていたもの、手に持っていたものを食べるのを優先する。
ってかどうしてオレの注意は聞かないのか小一時間問い詰めたい。
まあ、良い……釈然としないがイラついている場合ではない。
「どれも美味しそうね~」
料理を見ながら、ウェディン。
そう、イラついている場合ではない。今は食事だ。
星がテーマの料理の数々は見た目がとても綺麗で、崩してしまうのがもったいない、そんな気分になってしまう。
が、この香り……鼻腔を刺激する甘い香り、辛そうな香り、しょっぱそうな香りが食欲すらも刺激する。
だからオレもウェディンも料理に手が伸びて食事開始だ。
「うっま」
「な? あたしの気持ち分かんだろ涙覇?」
「ん、まあ」
確かに会話よりも食事を優先したい気になる。
あ、ジュースも美味しいや。
こんなに美味しくて多くの人が凄い勢いで食べているのだからすぐに食材が尽きてしまうのでは? とも思うがどうやらその心配は無用らしい。
食べても食べても配膳係の人がどこからともなく料理を運んできているから。
そうか、夢だから食材も無限なのか。いや、ひょっとしたら完成品がポンポン出てくるシステムでもあるのだろうか。真相は分からないがとにかく尽きる事はなさそうだ。
だからオレもウェディンもキュアも遠慮なしに食事を続け――二時間。
「流石に……食べ過ぎたわ」
壁際に用意されている椅子に座して、ウェディン。
「夢だから太ったりはないが満腹って気分にはなるんだよな……口ン中どころか脳の中が料理で埋まってんぞ」
同じく椅子にぐったり座して、キュア。
「リアルに影響なくて良かった……オレ案外あっさり体重増え――」
「体重の話はしないで」
「体重の話はすんな」
椅子の背もたれに背を預けたままオレは話を繋げようとしたのだがぶった切られてしまった。
女の子、体重に敏感。覚えておこう。
「え~と、オレ体動かそうと思うんだけど二人はどうする?」
外には魚の住む卵型の水――通称・海があり、人が泳ぐのも許可されている。
食後の運動にはちょうど良い。
「私もそうするわ」
「あたし行って良いんか? お前らだって充分甘い関係だろ」
「「甘……」」
両想い……だとは思うが……えっちい事はしてないよ?
「なんだキスもまだなのかよ、意外と奥手だな、涙覇」
「どうしてオレだけに言うのか」
「いやあプリンセスに乱れる事を推奨するのはな」
ほう、その辺の良識はあったか。
「って、オレが乱れたらウェディンだって乱れちゃうんだけど?」
「うっわなにする気だよお前エロガキめ」
「キュアが話ふったんだろ」
「え? 涙覇ってエロいの?」
「「「は?」」」
第四の声が会話に入ってきた。
誰のものかと言うと――
「ジョハ」
声に顔を向けてみるとジョハだった。
その……なんと言うか。
「え~どうしよううちそんな目で見られるの?」
水着姿の、ジョハだった。
薄いピンク色のバンドゥ・ビキニの、ジョハだった。
ジョハのちょっと後ろにいる真架も水着である。
こちらは白いクリスクロス・ビキニだ。
二人とも濡れていてどうやら今まで泳いでいたらしい。
……そう言えば城内、水着OKだったか……いやしかし……目のやり場に……困るな。
「あ、ホントにエロい目してる」
「してませんよジョハ?」
テレるのはしようがない。世の男なら理解してくれるだろう、そう信じている。心の底から信じている。
「え~と、どこの誰だ?」
「あ、そっかキュアは初めて逢うのね」
ウェディンに促され、キュア・真架・ジョハは順に自己紹介。
ジョハの正体に一つ二つリアクションがあるかと思ったけれどなんと「ほぅ」と言っただけで基本大きな驚きはなく。それにオレが目を向けていると「女だぜ? 秘密の一つくらいあるってもんだ」と当然のように言われた。
そう言えばちょっと前までウェディンにも実は二十歳って秘密があったな。
キュアにもあるんだろうか?
「あたしは貴族の出だ」
マジか。なのにどうしてこうなった。あ、日本の影響だった。
「んでそっちのお前はストーカーかなんかか?」
キュアが目を向けてそう言ったのは真架たちの背後五メートルくらいに人がいたから。ジッとこちらを見ている男性だ。黄色い水着姿の。
「あれは無視で」
……それで良いんですか真架? 無視言われて落ち込んでるよアウサン。
仕方ないのでオレがアウサンの紹介をしておいた。
「失礼、少し良いですか?」
「ん?」