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第03話 世界中の皆さんこんにちは、あるいはこんばんは、またあるいはおはよう

「まだ引き分けよ。引き分けだからね」

「そうっすね」

 

 七勝七敗。確かに引き分けではあるが。

 バトルを終了し、それでもインターネット接続を切らないウェディン。

 今僕と一緒にフィールド外で他ユーザーたちのバトルを眺めているところだ。

 

「ま、流石日本『西京(さいきょう)地区』のエリアチャンプ。

 認めるわ」

 

 西京。新しくなった日本の地域名の一つだ。

 最北端方面から

 北海

 北陸

 中部

 東京

 (きょう)

 西京

 四国

 南州(なんしゅう)

 以上八地域。

 

「なぜに上から目線なのか。イギリス『イングランド地区』エリアチャンプ、ウェディン。

 まあ良いけど。

 それより、ウェディンは次の【パペットウォーリア】出るの?」

「え? あ~」

 

 この話題になるといつも曖昧なんだよな、ウェディンって。

 パペットウォーリア、二年に一度行われるパペットバトルの世界大会の事だが、僕は出る気満々。

 

「私そう言うのに興味は――」

「あるよな? エリアチャンプにはなってるんだし」

「……ドームはインターネット接続できるからねえ」

「それって、生身を見せたくないって事? 僕、ウェディンが実は男でしたって言われても受けいれる覚悟ですが」


 XR(クロスリアリティ)を使ってメイクするのは自由だが年齢と性別を偽るのは禁止されている。が、たまにやっちゃう人がいたりして。

 ウェディンもそうなのか?


「いやいや」

 

 首を左右に振る。

 

「女の子よ、私」

「じゃあなんで? 逢おうって言っても逢わないのはどうして?」

「女の子には色々あるの。

 涙覇(るいは)がもう少し大きくなったら教えてあげる」

 

 そう言うと立ち上がる、ウェディン。

 

「今日は帰るわね。

 家に帰ったらメールするわ」

「ん」





 

「ただいま~」

「ああ、おかえり」

 

 ウェディンがドームからログアウトし、しばらくそこにとどまって別のユーザーと世間話を一時間くらい行っていた僕。もう一戦しようかとも思ったのだけれど日曜日にお似合いのバトル待ち大行列ができていたから――整理券を取って待つ必要がある――諦め、夕方に家路についた。

 少しばかり遠くにある虹の塔・一対の赤翼に守られた宇宙エレベーターを背に十分程度浮遊自転車(レビテーションバイク)に跨って辿り着いた自宅の玄関を開けると出迎えてくれたのは父さんで。

 

「あれ? 今日『星冠(ほしかむり)』の方は?」

 

星冠(ほしかむり)』――サイバー関連に特化した世界規模のガーディアン。父さんはそれに所属している。

 しかも。

 

「第零等級には有休が多くてね。見本となるようきちんと取れって最高管理に言われたんだ。せっかくだから涙月(るつき)――母さんと一緒に涙覇の休日にあわせたんだけど」

「あ~」

 

 しかも、『星冠(ほしかむり)』最高位第零等級だ。母さんと一緒に。

 僕の自慢の両親であり、以前行われた【パペットウォーリア】優勝者である父さんは僕の師であると同時に超えるべき目標である。

 

「ずっとドームにいたからさ、ごめん」

 

 当然優秀な両親を持った事で息子である僕にも周囲から大きな期待が寄せられている。

 僕はその期待に応えたい――と言うのではなくて、いや勿論無視はしていないが、期待云々よりも僕は僕の意志で父さんを超えたいのだ。

 だって、父を超える子、かっこ良くない?

 

「良いさ。涙覇には遠慮してほしくないからね。

 それにドームでないと涙覇の好きな子には逢えないんだろう? ウェディンだっけ?」

「ち、違うし! 好きとかじゃないし!」

 

 断じて。うん、友達ってだけさ。一番仲の良い、だけど。

 

「母さんには秘密にしといてやるよ」

「息子をからかわないでくれるかな!

 僕、お風呂行くから!」

「お~、行ってこーい」





 

「はあ」

 

 浴槽に浸かって、僕は重い溜め息を一つ。

 勢いあまってお風呂に来てしまったがまだ十七時半だ。今、夏だから昼間の熱気が残っているし、入浴にはちょっと早かった。お風呂上りに汗かきたくないんだけどなあ。

 と、そんな事を思っていると【(はたがしら)】から音が鳴った。ポーンと言う軽い音。メールの着信音だ。僕だけの目に映るバーチャル表示の封筒、その差出人欄を見るとウェディン。あちらも家に着いたらしい。

 

「えっと」

 

 脳波で開封ボタンである封筒の封を、赤いロウを押すと(指でもいける。僕は状況に応じて使い分けるタイプだ)封筒が――メールが開く。

 すると中から一枚の紙きれが出てきて音声が流れ始めた。

 

『少しぶり。ウェディンです。

 こっち無事に家に着いたから。

 涙覇も着いていたらお帰りなさい。

 それじゃ』

 

 簡単なメッセージだ。が、それでも……うん、嬉しいもんだな。

 

「じゃ。

『お帰りウェディン。

 僕も無事家に着いたよ。

 今日はイギリスも晴れだっけ? 暑いだろうけれど薄着しまくって風邪ひかないようにね。

 じゃ、また』

 録音終了。送信、と」

 

 さて、体は浴槽に浸かる前に洗ったからもうちょっとのんびりして出ますか。

 なんか面白い番組やってたかな?

(はたがしら)】のテレビ機能を使って世界中の局にアクセス。昔は県域を越えての放送すらダメだったらしいが今では世界の放送を見放題。便利になったものだ。では、リアルタイム配信と録画配信の内リアルタイム配信の方を脳波でタップ。表示された地球儀から日本をタップし、各放送局のタイムスケジュールをチェック。ほとんどが夕方のニュースをやっていたからそれらは華麗にスルーして音楽番組の再放送を選んだ。世界最高峰と謳われるバーチャルAIアーティスト『星織紙(スターウィンク)』が出た回だからだ。

 彼女を観たくて選んだ。はずだった。が。

 

「あれ?」

 

 なにも映らない? 真っ黒な画面が表示されるだけだ。【(はたがしら)】がバグった……とは考えにくいから放送局側のエラーかな。念の為に僕だけが視認可能なソロモードから全員が視認可能なパーティモードに切り替えてみるがどちらも同じブラック画面。改めてモードを戻しても再起動してもダメだった。

 うん……もう少し待ってみようかそれとも別の局に避難するか、こんな風に悩んだ時間五秒。

 

「あ、映った」

 

 ブラックからカラーに復帰した画面。けれど。

 

『世界中の皆さんこんにちは、あるいはこんばんは、またあるいはおはよう。

 此方(こなた)はロッケン=オーヴァーと言う者です』

 

 映ったのは音楽番組ではなくて。日本のテレビ出演者も多国籍になったものだがその内の一人でもなくて。

 若い男性で。

 禿頭(とくとう)で。

 銀の瞳で。

 白い肌で。

 僕の知らない新人さん、とも思ったがこれは……。

 

『喜んでほしい。

 昨夜、日本とイギリスが共同開発していた【治す世界(クラーツィ・モンド)】が遂に完成しました』

「!」

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