第26話 感謝するよ
薄い緑の光――いや、炎が昇った。
なんだこれは?
見て分かるほどの強力な力の波動。
強い精神力と強い意志。
これが生まれて間もない『進化竜』の真価。
「待たせたな」
炎が落ち着く。
気づけばイレはオレと同じ目線にまで昇っていて。
イレの目が、瞳孔が緑光の十字になっている。数は三つ。左右に一つずつと額に一つ。
その目でこいつはなにを見る?
「世界を」
「……世界」
「ハイハイルは強力過ぎた。三千世界を揺らすほどにな。
ゆえに我は力を封じたのだ。
だが、貴様が奥の手を使わねばならないほどに我の力を認めたならばこちらに一切の加減は無用。
感謝するよ」
……先日、オレはゼロと接する事で奥の手たる星霊体を使うに至った。
今のこいつはあの時のオレと同じだ。
敵に認められて決意する。
その喜びをこいつも実感したんだ。
「さあ、ゆくぞ涙覇!」
イレの両手が動く。
攻撃の為に。
けれどその手はオレには向かわずに自身の胸の前で重なり合う。
両手を使ってなにやら印を結んでいる。
「まずは慣らしだ」
瞬間、上空が輝き熱を持った。
「なっ……!」
大気の一部が蒼い炎に変わったのだ。
物体の操作ではない。
これは『変質』だ。
イレの結ぶ印が変化する。
それに伴い蒼い炎が竜巻となりオレを包み込む。
……あんまり飛び込みたくない烈火だ。
上は――塞がれているな。下も同じく。
つまりは出口なし。
だけれどオレのエネルギーならば。
夜空色のエネルギーを集める。すると一つの数式へと変化して。
数式に指を這わせ、撃ち出す。
弾け霧散する蒼い炎。
姿を現したイレはまた別の印を結んでいた。
「え」
印を見た、瞬間世界は暗闇に沈む。
手足は動かせず、胴体も動かせず、頭も動かせない。
闇ではない。なにかに拘束されている。
だけど!
夜空色のエネルギー、ゼロポイントエネルギー全開。
体を拘束するなにかにヒビが入る音。
じょじょに砕けていくなにか。
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!」
叫ぶ。気合一つ入れたのと同時になにかは完全に砕けてバラバラに。
これは岩だ。岩がオレの体を押さえつけていたのだ。
「もう気づいたな。
我は常、ハイハイルを物質への干渉に留めている。
が、リオは――完全なるハイハイルは違う。
我が三眼に映る全てを解析し、干渉し、変質させる。
世界を改竄する力だ」
世界改竄!
「涙覇、貴様の力も理解した。
世界の中にあって世界そのものに成る力。
だが忘れるな。
我の力は世界を改竄する。
貴様と言う世界すら! 改竄してやろう!」
印が結ばれる。
同時に左足に走る不愉快な感触。
見やるとそこには分解されていく足があって。
「この!」
即座に夜空色のエネルギーを足に使用する。
イレの力を撥ね退けて数式によって瞬間再生。
これは後手に回ってはいられない。
夜空色のエネルギーをイレに向かわせる。
しかしイレは宙になんの素材か分からない立方体を生み出してこちらの攻撃を防ぐ。
「だけど!」
更に夜空色のエネルギーを送り込み立方体を砕いて通過。
がすぐに別の立方体が現れる。
砕いては防がれ、砕いては防がれ。
「む」
イレの目が上に向く。そこにオレがいるからだ。
オレの手には光の星・巡の刀剣。これを更に夜空色のエネルギーで包み数段上の刀剣に強化済み。
まるで刀剣自体が燃えているかのようにエネルギーを噴き上げている。
この刀剣でイレを斬りつける。
だが結ばれた印によってイレの全身が雷に包まれた。
オレに届く雷は体を感電させるがそれでも構わないとイレを斬る。
雷は夜空色のエネルギーで無力化できる。
できずとも最早体の方が止まらなかったし。
ところが斬った雷の中にイレはおらずに。
『門』が開かれた様子はなかった。
どこに消えた?
「ぐ!」
周囲に目を配ったその時、首を掴まれた。正面――斬りつけたところから伸びた手に。
「存在を限りなく希薄にして避けた!」
「そうかい!」
でも首を掴む両手は実体化しているだろう。
刀剣で手を斬りつける。手首から切り離されたイレの両手。が、わずかに動いて印を結ぶ。
切り離れても動くんかい。
おまけに斬られた手首の方から新しい手が生えてきてもう一度オレの首を掴む。
すると今度は自分から手首を切り離して、また生えてオレの首を掴み再び切り離して生えてきてオレの首を掴み。
気色悪いなおい!
そうしてオレの首を一周する手首たち。そいつらが一斉にオレの首を絞めつける。絞め殺すのではない。首の骨を折る勢いで。
その間にイレは別の印を結び、オレは首を囲む手首に夜空色の数式を放ち凍らせて砕く。
「生半端な力では殺せないか。
ではこれは?」
呼吸が止まる。無酸素空間だ。
がすぐに夜空色のエネルギーで酸素を生成。
――違う。これが通じないのは予想できるはずだ。ならなんの為の攻撃だったのか……決まっている、時間稼ぎだ。
印が結ばれる。
オレの視界を塞ぐ布。前後左右上下全て塞がれる前にオレは布を燃やして視界を確保。
お? 霧だ。それも鼻をつんざく匂い付き。目にしみる。喉もピリつく。これは毒入りの霧か。
風を起こして霧を払うとそこにはイレが空中に立っていて。
手はなにかしらの印を結んでいる。
変化はなし、か?
「いいや、時間は稼いだ。必要な印はあと一つ。
これで最後だ」
印が、結ばれる。
「ん」
空間が歪む。時間の流れにも変化あり。
時空に接続して改竄した?
なんと言う凄まじさ。
「さあ、生まれ出ろ!」
「生まれ――」
時空が渦を巻く。渦を巻いて竜巻となり、荒れ狂う。
地を裂き、山を裂き、海を裂き、空を裂く。
なんだ?
渦を巻く時空が猛り、ゆっくりと体躯となっていく。
これは――龍か!
濃い緑の龍だ。それも街一つを横断できるほどの巨躯。
オレは即座に夜空色のエネルギーをヤマタノオロチにして龍へと向かわせる。
龍の口が開く。なんと言う牙の数。数えるのがイヤになるほどの牙が並んだ凶悪な口が開かれ、
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
不思議なエネルギーが放たれた。
オロチの首一つが吹き飛ばされて、それでも別の首が龍に噛みつき。
「見学している暇はないぞ、涙覇」
印を結ぶ、イレ。
「こちらはこちらでやろうじゃねえか!」