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第23話 事実に、栄える悪と言うのもあるものだ

 治した。あいつに【(はたがしら)】があるとして、それでも治癒が早すぎる。

 おまけに流れ出たはずの光の血までもが消えているのはどう言う事だ?

 

「予想よりも強いじゃねえか、涙覇(るいは)

「……そりゃどうも」

「けどな」

 

 イレ、浮遊。足を浮かせた状態で上体を曲げて地に両手をついて――

 

「まずは足場を失くすか」

「!」

 

 車道が、歩道が、瓦礫が全て砂になる。

 その全てが上空に向かって噴き上がった。

 

「この!」

 

 まずい、目の中に砂が入った。

 口の中にも入ってしまったからジャリジャリしていて気持ちが悪い。

 

「入ったな、体に」

「!」

 

 体に入った砂にイレの操作が届く。

 目を貫き口を貫く為に。

 けどだ。

 

「? 貫けねえ?」

「帆座で体中に幕をはった。

 入ったななんて言わずに貫くべきだったな」

「成程。

 察しの良い事だな」

 

 しかし、と続くイレの言葉。

 

「ジョーカーはジョーカーで防げる。

 同時にジョーカーはジョーカーで破れる。

 我でも理解している事柄だ。

 つまりは貴様のジョーカーとて我のハイハイルで破れると言う事」

「……オレは努力を欠かしていない」

「だから生まれたての我では無理だと?

 人の考えそうな事だな。

 だが生まれ持った性能に違いがあるとしたら?

 その性能に同じ【(はたがしら)】が加わっているのなら?

 我が貴様に敗れる道理はねえ」

「悪役の考えそうな事だ」

「事実に、栄える悪と言うのもあるものだ」

 

 分かっているとも。

 世界にある国々が全て善で統一されているのではないのだから。

 オレにとって人を殺すイレは悪だ。

 こいつが後の世に栄えるかはオレ次第だが、忘れてはならない。

 イレは人によって作られている。

 要するに人の悪意が栄えているわけで。

 結局、人の敵は人か。

 

「……ま良いや。その辺は後で考えるさ」

「良いぜ、続けよう」

 

 睨みあう。

 砂はまだ舞い続けている。

 はたしてジョーカーで来るかアイテムで来るか……。

 イレの口が、開く。

 

「【(トリ)】――エスペラント」

 

 フィフスで来るか!

 

「【(トリ)】――エスペラント!」

 

 イレの全身に現れる薄い緑の円環。

 オレの全身に現れる夜空色の円環。

 互いの手が、希望に伸びる。

 

「「!」」

 

 閃光が煌めいた。

 オレとイレの希望がちょうど二人の真ん中でぶつかり合って弾けたのだ。

 同時に飛翔する二人。

 オレは光の星・(めぐり)を放ち、イレは上昇しながらそれをかわす。

 どこまでも昇っていくイレを追う。

 と思ったらイレが急降下。

 速い上に人間ではありえない挙動。確実に体が引き裂かれる動きだったが、そうか、コンピュータウィルスだもんなあいつ。

 イレはオレに頭から突っ込んできている。

 体当たりでもする気か?

 しかし違った。

 目を凝らさなければ分からなかったがイレの頭上に小さな棘があった。

 空気を固めて作った棘だ。

 あいつ、超高速降下であの棘を使いオレを両断する気か。

 

「なら!」

 

 光の星・巡を頭上に。全身に。纏った光の星・巡を高速回転させる。

 イレの棘をドリルで粉砕する!

 上昇するオレと下降するイレが、ドリルと棘が衝突し衝撃音。

 互いに後方へと弾かれて、雷鳴。

 唐突に広がった雨雲から雷がオレへと落ちる。

 が甘い。

 オレは腰の盾と楯座の障壁でそれを防いだ。

 続いて蠍座の毒を糸のような水流として放出。

 即座に身をかわすイレ。

 を追う毒。

 裂かれる雨雲。

 雨雲から降ってくる水針の雨。

 飛翔で針をかわして毒とオレ自身でイレを前後から挟み込む。

 だがイレはオレに向かって手を伸ばす。

 

「――っつ!」

 

 イレのハイハイルがオレの体を這いまわる気配。

 なんだ?

 この気持ち悪さは――

 

「【(はたがしら)】の治癒機構を暴走させた。

 過ぎた回復で内部から崩れろよ」

「崩れるか!」

 

 水瓶座、起動。

 オレ自身に聖水の力を流してハイハイルを浄化する。

 その時一瞬体が止まり、水針の雨が全身を打ちつけた。

 が、鳳凰座の炎を皮膚に纏わせて水の針を蒸発させる。

 薄皮一枚は傷つけられたがすぐに治癒。問題なし。

 イレは?

 

「なに?」

 

 見上げると、イレはなんと毒に触れているではないか。

 触れた右の掌が腐っている。

 

「安いものだ」

 

 オレを倒せるなら、か。

 イレのハイハイルを流された毒が糸となってオレに向かってくる。

 

「けど!」

 

 毒に希望を流す。

 主導権はオレに戻り、毒は消えた。

 と見せかけて煙にした。

 オレは上昇を急停止させ、イレは再び毒を掌握すべく煙に向かって手を伸ばし、

 

「む」

 

気づいたか。

 そいつが毒ではなくただの水の霧になっている事に。

 ハイハイルはどうやら侵入できなかったようだ。

 この手の『力を流し込む』系統能力は相手を理解しなければ失敗する場合が多い。

 今、イレがミスったようにだ。

 だがイレの思考停止は一瞬。

 

「ならば!」

 

 すぐに次に移る。

 

「⁉」

 

 驚愕したのは――オレ。

 呼吸ができなくなったからだ。

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