第02話 オーバーレイ・セカンド!
「星伽! まずは僕にアイテムを!」
『了解!』
バトル開始のエフェクトが閃くと同時、星伽、咆哮。天に向かって吠えたのだ。
すると星が一条僕の右手へと落ちてきて、僕はそれを、光の星・巡をグッと握り込む。
イメージしろ。なによりも強い剣を。
星が姿を変える。単純な十字の形をしているが、僕が一番使い込んでいる形・刀剣だ。
パペットには二つ基本能力がある。
ユーザーへのアイテム生成はその内の一つ。
そう、パペットバトルとはパペットだけを戦わせるのではないのだ。
勝つも敗けるも傷つけるも傷つくも共に。ユーザーも共に戦うタッグバトル。
ゆえにバトルではパペットに設定されているライフ100を0にするか、ユーザーに設定されているライフ100を0にするか、あるいは『戦線離脱』をコールさせるかすれば勝利となる。
僕が刀剣を握り込んでいる間にウェディンもアイテムを手にしていた。
彼女が手にするのは、剣と盾。
パペットシステムで創られた証である光を持っているが僕の光の刀剣とは違いちゃんと金属の質感を持っている。
「行こう星伽! 先手を取る!」
『おうとも!』
星伽の天女の羽衣――翼が強く輝く。二頭の翼の間に光が集まり――
『―――――――――――――――――――――――――――――――――――――オ!』
雄叫びと共に横殴りの竜巻となって放たれた。
しかし。
「メイド・オブ・オナー!」
『―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ア!』
ウェディンの呼び声に応え、メイド・オブ・オナーが一本の銀の針を口の前に造り射出する。
巨大な針だ。そいつと星伽の放った光とがぶつかり合い、閃光を周囲にまき散らす。
現在形作られているフィールドの風景は海岸線だが、海水が、岩が、砂浜が削られていく。
互角。互角の威力でもって光と針は衝突し余波が弾ける。
だが。
こうなるだろう事は分かっていた。だから僕もウェディンもすでに駆け出していて。
しかし次の行動はウェディンが先。彼女の持つ盾が『開き』、吹き荒れる力の余波を吸収していく。
そうだ、彼女の剣と盾はただの通常兵装ではない。
盾・ライスシャワーから力を吸収し――
「はっ!」
振られる剣・フラワーシャワーから吸収した力が斬撃となって放たれた。
「けど!」
それをまともに喰らう僕ではない。
刀剣にしていた光の星・巡、その姿を一時解いて右拳に纏わせる。
ウェディンの剣と盾が強力なのは分かっていた。けれど僕の光の星は自在に姿を変えられるのだ。
雷が落ちるような轟音が響く。僕が光のグローブで斬撃を砕いた音だ。
すぐに光を刀剣に戻して――
「――!」
銀の針が僕に向かって飛来してきた。メイド・オブ・オナーによる第二撃だ。
速い!
『させん!』
銀の針が僕に当たる瞬間、間に星伽が割って入り翼で針を弾き飛ばす。
「サンキュ!」
「よそ見したわね」
礼を言う一瞬だけ、確かに僕は星伽を見た。けど一瞬だ。ほんの少し。その隙を縫ってウェディンが僕へと迫る。
【覇】による身体拡張、それは『心』の在り方と【覇】を獲得した後の訓練と言う『努力』に応じて行われる。ウェディンは現在百メートルを三秒くらいで走れるレベルだ。
でも! 僕の動体視力と反射速度だって拡張されている!
「喰うか!」
刺突されるウェディンの剣を体を捻る事でかわし、勢いそのまま体を回転させて遠心力を伴った刀剣でウェディンの首を狙う。
「拡張されているのは私もなのよ!」
そうなんだよ。ウェディンもなんだよ。
だから首狙いの一撃は屈みこんでかわされ、顎狙いの突き上げる刺突が放たれるも僕はバックステップ一歩でそれをかわし、撃ち下ろされる剣を横に避けてかわし、その剣を思いっきり踏みつける。砂浜にめり込むウェディンの剣。
剣を踏んでも無事なのは今着ている服がナノマシン衣料【羽衣】だから。この防御力がなければ靴を破かれ足の裏を斬っていただろう。
「もらう!」
光の刀剣をウェディンの首へと撃ち――
「甘いわよ!」
しかし盾によって防がれ、
「な!」
なんと光の刀剣が消えてしまった。吸収されたのだ。
そして。
「はっ!」
「!」
足で抑え込んでいた剣から斬撃が飛ぶ。僕の足から仮想の血が――光の粒子が流れ出てライフが削られた。
「一歩の遅れは――」
しまった。
「二歩目に必ず繋がるわ!」
剣から足が離れた。
当然それをスルーしてくれるはずもなく、撃ち上げられる剣で更に剣を抑えていた左足を斬られ切断を表すノイズ化現象が起き、
「いただくわ」
心臓に刺突を喰らい、
「!」
ウェディンが目をみはった。
そりゃそうだろう。
だって剣が服の前で防がれたのだから。
「あの時ね!」
「そ!」
光の刀剣が盾に吸収された時、ウェディンに見えないよう少しだけ光を服の中に退避させておいたのだ。それを今、小さな防御光として使用したのだ。
「でも!」
ウェディンが笑う。楽し気に。
こう思っているのだろう。「そんな小さな光では防げる圧力には限度があるんじゃないの?」と。正解だ。正直今の一撃とて防げたのは奇跡に近い。
けど、だ。
僕まだウェディンにアイテムの全てを見せたわけじゃあないんだよね。
笑う、僕。
そんな僕の表情に一瞬だけ眉を動かしたウェディンだったが、問答無用とばかりに剣を大きく振りかぶった。
この瞬間なら!
「星伽! アイテムを!」
「え?」
アイテムなら吸収したじゃない、とでも言いたげな表情。
そうだ、吸収された。星一つだけ、だけどな。
「!」
耳障りな音が響く。その音に誰よりも早くウェディンが反応し頭上を見やる。
頭上――いや、天を。
落ちてくる無量大数の光の星を。
「涙覇! あなたのアイテムは!」
「全天に綺羅めく無数の星さ!」
巡が、星の雨がウェディンとメイド・オブ・オナーに降り注ぎ――
「メイド・オブ・オナー! オーバーレイ・セカンド!」
光の星の雨が当たる前にウェディンはオーバーレイを一つ上げた。
「『ジョーカー』起動!」
『ディボース!』
これがパペットが有す二つの基本能力、そのもう一つ。
正式名称『鬼札』通称ジョーカー、パペット固有の特殊能力である。
パペットが有しユーザーとの意思共通で起動可能な力。
メイド・オブ・オナーのジョーカー・ディボースは――
「この光量でも! 消されるのか!」
あまたある物語の中で最強と言われる能力【無効化能力】、だ。
「けど! パペットシステムで絶対無敗の能力は! ない!」
あの人に、僕の目標であり超えたい人でもある父さんに言われただろう。思い出せ。
魂を鼓動に乗せて、想いを心に乗せて、誰よりも強く一歩を踏みこめ。
夢を! 全てに乗せろ!
「星伽! オーバーレイ・セカンド! ジョーカー!」
『綺羅!』
星伽のジョーカー・綺羅は――星の寓話を現実にする。
今回は単純にして強力なこれ。
冥王星。
「冥王の力で! 死界に落ちな!」
「涙覇が言った! 絶対無敗の能力はないのよ!」
死に追いやる冥王の力と無効化がせめぎ合う。
パペットシステムは人の心とリンクしている。
だから。
「オ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
精魂込める僕と、
「ア―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
精魂込めるウェディン。
二つの力がフィールドを埋め尽くし、混ざり合い――――――――――消えた。
打ち消し合った。
「!」
が、すぐに駆け出したのは――僕。
ウェディンの方は一瞬だが確かにホッとしたようだった。
その隙を逃さない!
「悪いとは思わない! 僕は! 憧れを超えていく!」
光の刀剣が、ウェディンの胸を貫いた。
バトルの終了を示すエフェクトが閃き、そして実況が叫ぶ。
『バトルエーンド! 勝者天嬢&星伽!』