第19話 ウェディン! 力を貸してくれ!
ウェディンは無事か? 【羽衣】が所々破損しているがケガは?
国王さまと王妃さまは――ウェディンの背後に護られている。
加勢に行きたいがゼロをどうする?
なんて悩んでいると。
「前を見なさい!」
ウェディンからゲキが飛んだ。
「こちらは大丈夫! 私を信じて!」
少しだけ顔がオレの方へと向けられる。がすぐに離され、言葉もそれっきり。
だからオレは。
「……驚いたな」
大して驚いてなさそうに、ゼロ。
前に、ゼロに向き直ったオレを見ての一言だ。
「見棄てるのか」
「棄てないさ」
ウェディンは信じろと言った。その言葉を信じず、疑う事のなにが信頼か。
「オレの相手はお前だ、ゼロ」
「そうすると良い。
俺の相手もお前だ、涙覇」
右手に握る槍がまっすぐオレに向けられる。
向けられ槍に黒い光が渦を巻き――
「落ちろ」
「!」
消去の黒が横殴りの竜巻となって放出された。
回避が間に合わない。
「くっ!」
体を動かす暇はなかった。なんとか夜空色の数式で三重の盾を張れたがそれに衝突した消去の黒が暴れている。
おまけに盾は一つ二つと砕かれて最後の一つに到達された。
「くぅ!」
オレは盾を放棄し、防いでくれている間に上空へ逃れる。
「!」
逃された先に、ゼロ。槍を構えたゼロ。
「あう!」
その槍に左肩を貫かれてしまった。まずい。
「消えろ」
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!」
肩を貫く黒い槍から溢れる消去の黒。オレを体表から、体内から攻め立てる。
「く……そ!」
夜空色の数式を纏った手で槍を掴む。が、抜けない。ならば。
「あぁ!」
上へと動かし、槍は肉を切って体外へと出された。
即座に距離を取って治療しようと試みるが、ゼロが迫ってくる。槍にとって最適な距離に肉薄してくる。
「ストーカーかい!」
振るわれる槍。弾く刀剣。しかし片腕で振るった刀剣は槍の圧に敗けて大きく外へと振られて。
「しま――!」
黒い槍がオレの右翼を縦に斬る。
浮力が維持できなくなってオレはマグマの大地へと急降下。それをゼロは追わず、オレはなんとか一つの夜空色の数式を作り出して落下地点のマグマを冷やして固まらせる。
ドッ! と固まったマグマをバウンドするオレの体。
すぐに体勢を立て直し、刀剣をクロスボウへ変えてゼロへと矢を放つ。が、あっさりかわして見せられて。
ゼロの二本の槍がオレに向けられる。両の槍に消去の黒が集まって――
「――!」
驚愕したのはゼロ。
集まっていた消去の黒が霧散し、ゼロの左腕が肘から飛んだ。オレの矢を受けて。
背後を見やるゼロ。
その先にはウェディン。ファルに勝利したウェディン。オレの矢を――光の星・巡の威力を受け取り、放ったウェディンがいた。
「棄てないって言ったろ」
そして一手の遅れは二手目の遅れに繋がる。
ゼロが背後に目をやっている隙に天上を黒に染め上げた。
もう一度世界に倣おう。
世界は今星々に溢れている。世界はこの形に進化した。
ならばきっと、強い希望はこの形にこそあるのだろう。
黒の天上に星が輝く。
一つ、二つ、三つ。
点は線となり、線は画となり、画は命となり。
アンドロメダ座
一角獣座
射手座
海豚座
インディアン座
魚座
兎座
牛飼い座
海蛇座
エリダヌス座
牡牛座
大犬座
狼座
大熊座
乙女座
牡羊座
オリオン座
画家座
カシオペヤ座
カジキ座
蟹座
髪の毛座
カメレオン座
烏座
冠座
巨嘴鳥座
ぎょ者座
キリン座
孔雀座
鯨座
ケフェウス座
ケンタウルス座
顕微鏡座
小犬座
小馬座
小狐座
小熊座
小獅子座
コップ座
琴座
コンパス座
祭壇座
蠍座
三角座
獅子座
定規座
楯座
彫刻具座
彫刻室座
鶴座
テーブル山座
天秤座
蜥蜴座
時計座
飛び魚座
船尾座
蠅座
白鳥座
八分儀座
鳩座
風鳥座
双子座
ペガスス座
蛇座
蛇遣い座
ヘルクレス座
ペルセウス座
帆座
望遠鏡座
鳳凰座
ポンプ座
水瓶座
水蛇座
南十字座
南の魚座
南の冠座
南の三角座
矢座
山羊座
山猫座
羅針盤座
竜座
竜骨座
猟犬座
レチクル座
炉座
六分儀座
鷲座
全天の持つ命、命に溢れる希望に手を伸ばす。
ゼロは今左腕にあった円環を失っている。希望に届くはずの一欠片を失っている。
チャンスはきっとここにしかない。
星が、星々に煌めく天上が消えた。
代わりに、オレの手に現れる綺羅めく刀剣。
ありったけの希望を上乗せした天上の刀剣だ。
これに夜空色の数式を与え力を倍加。
オレは叫ぶ。
「ウェディン! 力を貸してくれ!」
オレ一人では叶わないだろう敵に向かう為、手を借りよう。
信じる人の手を取ろう。
「――ええ!」
晴れやかに微笑むウェディン。
剣を構え、ありったけの希望に手を伸ばす。
「さあ! 綺羅めく時だ!」
オレ。
ウェディン。
上昇と下降。
ゼロは視線をオレに向けて迎撃態勢。だが。
「!」
一瞬で振るわれるオレの刀剣とゼロが捨て置いたウェディンの剣が彼の首を挟み込む。
「オ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
精魂込めるオレと、
「ア―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
精魂込めるウェディン。
刀剣と剣が――交差する。
「――ッッッ!」
ゼロの目が凍る。驚愕に凍り染まる。
己の首が飛んだと言う事実に。
斬った。
斬った!
刀剣と剣からゼロへと流れる希望。
それは赤ちゃんへと届き、ゼロと分離させる。
空中で手を取り合うオレとウェディン。
二人のもう片方の手では赤ちゃんを支えて。
落ちて往くゼロの首と体。
マグマに沈む、同化を失ったゼロ。
勝利した。
その結果にオレとウェディンが笑もうとした瞬間。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――オ!
「「――!」」
ゼロの落下点から透明な光が昇った。
なんだ?
「遅かったな」
響く声はゼロのもの。
「俺のジョーカー・チェンジリングは夢と現実を交換する」
まさか……。
「同化が解ける前にすでに交換しておいた」
まさか。
「蘇生された俺と死した俺」
まさか!
「赤子を必要としない俺と赤子を必要とする俺」
ゼロが復活する。
全てのオーバーレイを突破した状態で。