第12話 どっこい実は
「――で、敗けたと」
「……ん」
なんとか、ギリギリの状態で五分はもたせた。もつ事ができた。
が、こっちボロボロ、あっちピンピン。
ウェディンと母さんがクッキーを持ってきてくれた頃にはぶっ倒れていて。
「……悔しいな」
仰向けに倒れたまま天井を――空を見上げる。
「でもどこか嬉しそうよ、涙覇」
オレの傍にしゃがみこんで、ウェディンは不思議そうな顔をする。
「そうかな?」
「ええ」
「……そうかも」
オレの目標が、父さんが遥か遠くにいるのが分かった。悔しいけれど、父さんの輝きの強さを知れて嬉しい。オレの父さんはこんなにも強いんだと思うと嬉しいのだ。
そして。
横を向く。すると父さんが母さんの持ってきたクッキーを食べている様子が見えた。
そして、同じ第零等級である母さんも強いのだろう。父さんと同じくらいに。
なんて二人だよ、全く。
「よ」
と言いながら上体を起こす。
「クッキー貰って良い、ウェディン?」
「え? あ、ええ勿論」
ラップのされたお皿に乗っている茶色のクッキー。を一つ二ついただいて。
「……美味しい」
暖かく、柔らかなクッキー。幸せの味。
「ありがと」
嬉しそうに、ウェディン。
「さて、涙覇。それにウェディンも聞いておきなさい」
「「はい」」
クッキータイムと言う休憩を終えて父さん母さんはオレたちのもとへとやってきた。
全員起立状態である。
「さっきまでの涙覇とのバトルはオーバーレイ・フォースだった。
これがオーバーレイの限界。だね?」
オレとウェディンは一度顔を見合わせる。見合わせて頷きあう。
同化現象、つまりオーバーレイ・フォース、これが限界のはずだ。この上はない。
「どっこい実はフィフスが存在するんだよ」
「「!」」
母さんの言葉に目をみはる。
フィフス! フィフスだって!
誰も使ったのを見た覚えがない。ドームでも、それ以外でも。情報としてすら持ち得ていない。
「フィフスは危険なのさ。失敗したら脳が情報量に敗けて焼き切れるからな」
なん……。
脳が焼き切れる、つまり命を失う、その事実にゾッとする。
「だから父さんたち大人はフィフスを隠す事にした。
誰もチャレンジさせてはならないと。
使わせるほどの状況にもならなかったからね。
けれど」
状況が変わってしまった。【治す世界】によってコンピュータウィルスが放たれ、これらは実体化できる。
そして『三極』。オレが歯が立たなかったゼロ。そんな奴が三体。
「だから二人には教えておこう。
オーバーレイ・フィフスとは――」