第109話 ポチっとな
「……まずいのでは?」
宿泊するホテルに着き、早速チェックインを。と思ったオレだったが、苦笑する。
なぜかと言われると。
「いくら恋人とは言え、同室とは」
と言う理由から。燦覇は良いのだ。普段から一緒に暮らしているから違和感はない。抵抗もない。しかしウェディンと同室となると……。周りに人がいたテントとも違うしなあ。
「私たち、試されてる?」
「試されてると言うか……遊ばれてると言うか……。
どうする? 別の部屋とる?」
「私は別に良いわよ。
燦覇も問題ないわよね?」
「問題ゼロ!」
「で、涙覇は?」
いたずらっ子。完全にオレで遊んでいる。
「サラッと言ってくれる……んじゃ同室で」
変更する事なくチェックインを。
そんなオレを見てウェディンは一瞬だけ固まって、元に戻って平静を装いつつ、
「なにかする気?」
肘を横に動かしてオレに当ててくる。
「さあ?」
「「「広っ」」」
案内された部屋について、第一声。
ロビーやエントランスを見て想像よりもずっと立派なホテルだと思ってはいたのだが、部屋も部屋で三人で使用するには充分すぎる広さがあった。
ただ。
「家具や調度品も品があるけど、なんか壁と天井と床が白いな」
「清潔な雰囲気を出したい……にしても白いわね」
「真っ白だ~」
模様がなにもない壁と天井と床だ。
白さだけが少し異質に感じる。
「あ、これが理由か」
「うん?」
テーブルに置かれている街のパンフレットや困った時の連絡先などが書かれたいくつかの用紙の中に、部屋の使用書のようなものを見つけたオレ。
それを見るに。
「投影できるんだってさ、色々と」
「え、なにそれ面白そう」
燦覇の目が輝いた。どうやるの? と聞いてくる。
「リモコンは、これだ」
壁掛けテレビのリモコン、エアコンのリモコンの横にもう一つ投影用のリモコンがあった。
ディスプレイとオンオフキー、それに矢印だけの簡素なリモコンではあるが最新の投影機のリモコンで間違いないようだ。
オレがキーを押してスリープを解除すると、ホログラムディスプレイに使い方がBGMを伴って表示される。
どうやら投影できる風景は百に及ぶらしい。
「「「すご」」」
とは言え問題はその精度。
矢印を押すとディスプレイに○○モードと次から次に出てくるのでその中からまずは白亜紀を選んでみた。
「ものは試しと言う事で、ポチっとな」
「今日日ポチっとなって――わぁ!」
投影されたものを見て、ウェディンは思わず逃げ出した。
まあ仕方あるまい。だってティラノサウルスに襲われたのだから。
壁に天井に床。全てに流れる映像はただの画像ではない。立体感を伴った超リアリティ。
飛び出るような迫力とはまさにこの事と言わんばかりの迫力があった。
おまけに。
「音に匂いまで変わったな」
この部屋は完全防音になっている。外の音は一切入ってこないし中の音が漏れる事もない。
それはこの為だったのだ。
「け、結構にぎやかなのね、白亜紀って」
「ウェディン、腰が引けてる。
燦覇、ティラノの鼻こしょこしょしても意味ないと思うよ」
鳥の鳴き声に、虫の鳴き声。
草葉が擦れる音。
そして俗に言われる『恐竜』たちの鳴き声。
人間が出す音はないのになかなかの喧騒だ。
「さすがに捕食の瞬間はなさそうだ」
「あったらクレームきてるわよ」
「他は~? 他ないの~?」
「そうだな。んじゃ次は」
まずウェディンの引けた腰をなんとかするか、と思ってオレが選んだのは。
「おや、マイナスイオン」
が、出ていそうな滝。
足元にまで水はきているのに濡れる感触がない。映像だから当然なのだが少し不思議な感覚だ。
「風も気持ち良いわね」
「白亜紀は微妙に血臭がしたけどね」
「思い出させないで。触れないでいたのに」
「はは。
んで次は」
ウェディンが復活したのを見て、次の映像に切り替える。
「これどこ? 覚えのない街並みだけれど」
「魔法使いの世界だってさ」
「そんな映像もあるんだ」
どうやら用意されている映像は現実にある(あった)世界のものだけではないらしい。
尖がり帽子の屋根を持つ家屋が並ぶこの街のように。
「マインにも選ばせて」
「良いよ。はいリモコン」
「ありがと」
リモコンを受け取り燦覇が選んだ次なる世界は。




