第108話 あの人、『シュティーフェル財団』の上位者よ
三時間が過ぎて『天の精』はニューヨーク港に着いた。『天の精』の為だけに作られた大きな港だ。
残念な事に所々が欠けてしまっている自由の女神像が見える。街もダメージを負っていて、以前ここで起きたと言う『フリーブルーアワー』『ブラック・セイブル』との大規模戦闘の跡が見てとれた。ここニューヨークは上記両組織の本部があると目されていて、それの制圧戦だった。
多くの人間が逮捕され、多くの人間が死んだがそこにリュウレイの姿はなかった。と言うか『進化竜』がいなかったとの話だ。
見棄てられた、と考えられている。
おかげで両組織の壊滅成功。今は残党狩りが行われている。
『天の精』が真っ直ぐ降りて往く。
ゆっくりと着水し、完全に停止してからオレたちは座っていたベンチを立った。一時間ほど停船時間があるから充分余裕がある。
「はぁ~」
船から一歩出て他の降船客・乗船客の邪魔にならないよう横にずれ、オレは大きく息を吐いた。
「すぅ~」
そして大きく吸って、一言。
「「これが自由の空気か」」
おや? 誰かの声が重なった。ウェディンと燦覇ではない、男性の声だ。
声のした方に首をまわしてみると、あちらもオレの方に振り向いたところだった。
やはり男性。ショートカットに切られた髪は瞳と同じ黄系ライムイエロー、白い肌。オレより頭一つ分背が高く、オレより少しだけ筋肉があった。
なにやら興味津々と言う感じで見られている。
「涙覇、あっち」
「え?」
男性と目を合わせていると袖をウェディンに引っ張られて。
あっちと言われ顔を向けると、教皇ステイ・クラリティーとサア、それにザイの三人がこちらを見ているのに気がついた。
見ていると言うか、降船客・乗船客の邪魔にならない開けた場所で手招きされている。
「行きましょう」
「ああ」
最後にもう一度男性に目を向けると、ますます興味津々と言う感じで目を輝かせていた。
が、特に声をかけられたわけでもないので一つだけ軽く頭を下げてその場をあとにする。
「彼と面識が?」
教皇ステイ・クラリティーたちと合流し、こう言われて。
「いいえ。オレの第一声が重なっただけです」
「そう。
あの人、『シュティーフェル財団』の上位者よ」
「「!」」
思わぬ情報に目を見張るオレとウェディン。見張って、振り返ってみると男性はまだこちらを眺めていた。オレたちの視線に気づくと手を振って、こちらに駆け寄ろうとしたらしいが仲間とみられる男性たちに背を押されて泣く泣く去っていって。
「……背を押してた人も、ですか?」
「ええ」
ウェディンの問いに教皇ステイ・クラリティーは頷く。
『シュティーフェル財団』――情報のエージェント。家庭や会社等で削除された多くの情報の一時保管場所を守護し、流れつく情報を精査し、危険な情報あれば警告を発し違法な情報あれば逮捕に動く人たちだ。
「ご存じだったんですか?」
彼らを、と言う意味でオレ。
「『神赦譜術教会』の中には元『シュティーフェル財団』の子もいるから」
「ああ、成程」
『神赦譜術教会』は世界宗教連盟。その加盟者は一つの宗教にとらわれずキリスト・仏・イスラム等多岐に渡っている。各国各地域の組織から抜けて入った人もいるのだ。
「さて、あなたたち三人はこれからどうするのかしら?」
「マインたちホテルに行くよ~」
「あら、そうなの」
「荷物を置いて時間があるようなら観光を少ししようかなって話になっています」
とオレ。隣で燦覇がうんうんと頷いている。
「ホテルの名前は?」
「『フラン』です」
「わたくしたちのホテルとは少し離れているわね。
残念、サアが三人と遊びたがっていたのだけれど」
「お、お母さま!」
少しだけ慌てながら。心の内を話されて恥ずかしそうだ。
「オレたち明日の合同会議のあと、明後日は一日余裕を持っています。
そちらは?」
「あら、それならちょうど良いわ」
パンっと手を叩き合わせる。
「わたくしは教皇としてあいさつ回りに行かなければならないの。
サアを連れていく予定だったのだけれど、あなたたちが良ければそちらに同行させてもらえるかしら?」
サアが勢い良く顔を向けてきた。期待を表情全体に現しながら。
オレたちは一度顔を見合わせ、頷きあい、
「「「勿論」」」
と声を揃えて返事をした。




