第106話 信じて……良いんですか?
「……」
「……」
どうやらサアは鍵を閉め忘れていたのに服を脱いだあと気づいたらしい。
服を脱ぐ――と言ってもナノマシン衣料【羽衣】を解いて【羽衣】本体であるボクサーパンツ一枚を籠に入れるだけだが。
さて、とオレは考える。
サアは確か十二歳だったな。いや年齢は関係ないか? 関係なく覗き認定されて逮捕されちゃうか?
って、そうじゃないな。
誰か来たら困るからまずドア閉めないとな。
「……ごめん」
「いえ……」
一言謝って、ドアを閉めた。ドアを閉めて壁に背を預ける。
そして思う。
……あれって“尻尾”、だよな? と。
せいぜい五センチメートル程度だったが、お尻の上に確かに見えた。
「……今頃困り果てているだろうな」
オレだったら尻尾の事はきっと隠す。
バレたらイジメられる可能性があるからだ。
子供って無邪気で時に純心すぎるゆえに残酷だからだ。
そしてなにより、傷つきやすいから。
ならば今自分がすべき事はなんだ?
こっちの秘密を一つ教えて秘密を共有するか?
笑ってごまかすか?
どちらも違う気がする。
「どうしたものか……」
と、頭を捻った瞬間サアの入っているシャワー室のドアが開いた。当然サアが開けたからだ。もう一つ当然を言うなら服は着ている。
そして彼女は言うのだ。
「ごめんなさい!」
こう言って頭を下げるのだ。
「お願いします尻尾の事は黙ってあぅ!」
語尾が乱れた。だって、オレに軽くデコピンされたから。
「? ?」
「あ、いや。謝罪は違う気がしたからつい。
ごめん」
「い、いえ……」
サアの目が赤い。困って泣いていたのか。心が痛む。
「あのさ、サア」
膝を軽く折ってサアと視線の高さを合わせる。
「うまくは言えないんだけど……うん、本当にうまく言えないんだけど、おまけに出会ったばかりで言うのもなんだけど、オレを信じてくれないかな?」
「……」
まっすぐサアを見る。
笑うでもない。バカにするでもない。
サア自身をまっすぐに。
「……わたくし、生来尻尾があったんです」
「うん」
「他人に見せた事はありません。異常で、恥ずかしいから知っているのは家族だけです」
「うん」
「それは、わたくしが人を信じていないからです。
ずっと母のおまけとして見られてきたから。
これまで多くの人たちと出会って、誰もわたくしを見てはいなかった。年上も年下も同年代も誰も彼もがわたくしを通して教皇ステイ・クラリティーを見ていたんです。
母は当然気づいています。だからわたくしをちゃんと見てくれるザイを同伴者に選んでいて。
だから、わたくしを見てくれる人を求めてできうる限りわたくしを連れて歩いているんです。
多くの落胆を味わってきました。きっとこれからも……。
涙覇さんは……」
今、サアは悩んでいる。
精一杯悩んで、精一杯気持ちを込めて話してくれている。
だからオレは――
「信じて……良いんですか?」
涙が落ちた。
きっと困って、怖くて、感情が渦を巻いてサアは泣いている。
だからオレは――
「勿論」
信じてほしい。疑わなくて良いんだと邪心なしで微笑みかける。
だから。
「信じますぅ……」
サアは盛大に泣いた。




