第104話 可能性は平等公平
サアに向き直って、オレ。ついで教皇ステイ・クラリティーにも目を向ける。「現状の絵では?」と言う意味を込めて。
「【治す世界】が解放された際、わたくしは人と彼らの戦いの未来を視ようとしたの。いえ、実際に視たのよ。何度も。
あなたたちがゼロを二度撃破した際も。
【世界の患い】の存在が明らかになった際も。
オービタルリングが壊滅的被害を被ったと知った際も。
そして視えるのは決まってこの光景」
言われ、改めてサアの表示する絵を眺める。
流れ星が衝突する――人とコンピュータウィルスの戦いの様子、だと思うのだが。
「一見すると、そうね。わたくしも初めて視た時は困ったものよ。現状すでに衝突しているのに、改めて未来として視せられてもって。
だから違う意味を探したの」
「意味ってなぁに?」
問い返す燦覇に、頷く教皇ステイ・クラリティー。彼女は瑞々しい唇を開き、言葉を続ける。
「可能性は三つ。
これはただの天体ショー。
または。
闇を裂く二条の光。
あるいは。
光はぶつかり合って消え、闇に吞まれる」
数秒、静寂があった。
教皇ステイ・クラリティーが挙げた三つの可能性。そのどれもがありそうで、意味が全く違ってくるからだ。
特に最後。最後に挙げられた可能性は。
「オレたちが、敗ける?」
と言う未来に違いないだろう。
人はコンピュータウィルスに敗れ、人の未来が閉ざされる。
「最後だけを思えば、ね。
けれど可能性は平等公平。
他の二つである可能性も同等にあるのよ。
とは言え楽観視はできない。
そして闇を裂くにしろ呑まれるにしろ、鍵は星よ」
星、と聞いてウェディンがオレを見る。
否。彼女だけではない。
燦覇も演劇から目を外しオレをジッと見ていて、教皇ステイ・クラリティーもサアもザイも、オレを見ている。オレ自身も自分を見る事ができるなら見ていただろう。
「いや、まあ。確かに星の力を持ってはいますが」
「ええ。だからこうしてあなたたちと面会する場を設けたわけ。
合同会議でも報告するけれど、あらかじめ報せておいた方が良いと思ったから」
確かに、合同会議でいきなり言われていたら他の動揺に流されてオレ自身も激しく動揺していたかもしれない。
「星が、オレが裂くか呑まれるか……しんどいですね」
「ごめんなさいね。
黙っている選択もあったけれど、いやでしょう?」
「はい。
なんの心構えもなくぶつかるよりずっと良い」
「そう。立派よ、涙覇」
教皇ステイ・クラリティーの手が伸びる。なにかされるのかと少し身構えたが、なんと頭を撫でられた。微笑まれながら。
「こ、子供じゃないですから!」
「あら、ごめんなさい」
と、その時。『天の精』に光が差した。
しかし攻撃を受けたのではない。空を走っていた『天の精』が下にある雷雲から雷を受けたのだ。
「わぁ」
途端、子供らしい声を上げるサア。
無理もない。『天の精』を覆う強化ガラスにいくつかの雷が走ってある種幻想的に見えるからだ。その様子はこの個室の広い天窓からも見られる。
「見惚れます」
頬もちょっぴり朱くなっている。心底楽しんでいる表情だ。
教皇ステイ・クラリティーも娘のそんな様子を見て和んでいて。
ずっと硬い表情だったザイですら口元が笑んでいた。
だからこそ、とオレは思う。
この皆の平穏を守りたいと。
平和を守る為に争うと言うのも妙な話だな、と苦笑しながら。




